黒と赤

もり

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黒④

からだ、身体・・・が痛い。ここは・・・?
意識が少し朦朧としている。視界がぼやけて、自分がどこにいるのか分からない
暗い・・・今、・・・何時だ?
ぼやけてた視界がようやく定まる。
少し身体を動かそうとすると、激痛が走った。
「っっつ!!ー痛、ぅあ、あ・・・あ・・・」
何とか身体を起こし、サイドテーブルに置いてあった時計を見る。
デジタル式の時計で、そこで土曜の夕方6時ごろだと知る。
あいつがいる気配はない。縛られてた手首はほどかれていた。赤紫色のあざになっている。
血が流れた跡が痛々しく残っていた。
喉がカラカラだ。でも洗い場まで遠く感じる。
水を飲みにいくのはやめて、再びベッドにうずくまる。
今日、土曜だから、明日も一応、休める、けど・・・
「っつ、ーーー、う、うぅー」
涙がポロポロ流れる
会社に行ってどうするんだ。プレゼン資料は全部取られた。俺が行く意味なんて・・・
「う、ひぃっく、・・・ひっく、うう、・・・う、ああ、う、」
涙が流れて嗚咽が止まらなくなった。そのままずっと泣き続けた。
気づけばそのまま朝になっていた。

月曜の朝を迎える。時刻はそろそろ9時になる。出社の時間だ。
俺はベッドに横たわり、じっとうずくまっていた。
あの夜からずっと、ほとんどベッドから動けないでいる。
たまに水を飲みに行くが、それ以外はほぼ何もせず、ずっとベッドに横になっているだけだ。
時々急に涙が出て、止まらなくなる。ただただ、悲しい。
会社には連絡していない。人生初の無断欠勤になってしまったが、どうでもよかった。
もう会社に行ける気がしなかった、会社は、もう行かない、辞めよう・・・
少し経つと着信音が聞こえてきた、会社の上司、緑さんからかもしれない。
それから何度か、着信音やラインのメッセージが、届く音がしたが全部無視した。

次の日の朝9時頃、チャイムの音が鳴り、その後ドアを軽くたたく音がした。
俺は雷に打たれたかのように、ビクッと身体が強ばる。
震えながらドアを見る
あ、赤?またあいつがー
「黒、いるか?俺だ。緑だ」
緑さんの声だった
「あ、緑さん・・・」
思わず声が出てしまった。しまったと思ったが、聞こえてたらしく少し安心したような声で話しかける。
「よかった、無事か?大丈夫か?」
俺はよろよろとドアに近づき、ドア越しに話しかける。
「緑さん・・・すみません・・・」
我ながらしゃがれた酷い声だった。
「いいよ、ドア開けられるか?」
「いや、ちょっと・・・すみません、いま、ひどい恰好で・・・」
「そうか。俺は気にしねぇけど」
少し笑って緑は答えた。ずっと信頼してた人の声で安心したのか、気が緩んだのか・・・
涙がこぼれ出る。
「す、すいません、おれ、もう、会社に、行けなくて・・・」
泣きながら途切れ途切れに話す。
緑は当然、理由を聞く。
もちろん理由は話せない、すみませんと、ただ辞めることだけ繰り返した。
「・・・病院、行ったか?」
「・・え?」
「俺の知り合いで心療内科の奴がいる。今から一緒に行かないか?」
「・・・・・」
思わぬ言葉だった。断ろうと思ったその時、
「すまん、俺が納得したいだけだから。頼む。」
どうして、ここまでしてくれるんだろう・・・でも、病院には行けなかった、病院に行ったら、あの事がバレてしまうかもしれない。
「・・・すみません、無理です・・・」
「頼む、お前の嫌がることは一切しないから。話したくないことは話さなくていいし、嫌だと思ったらすぐに止めて帰っていい」
本当だろうか、でもこの人は嘘を言ったことがない。それに・・・このまま辞めてしまうのも、あまりにも申し訳なさ過ぎた。
俺はずっとこの人を尊敬してきた。この人にがっかりされたくなかった。
ようやく俺は病院に行くと承諾し、緑はすぐさま予約してくれた。
「オッケー、午前中なら大丈夫だぞ」
驚くようなスピードで決まり、俺が身支度をしなきゃと慌てだすと、ゆっくりでいいからと緑の声がした。
「そんなに慌てなくていいから、病院近くだし。そこの喫茶店で待ってるな」

一時間後、何とか準備を整えて喫茶店に現れた俺を見て、緑はほっとした表情で優しく俺に微笑みかけた。
「おお、悪かったな」
「いえ、あの」
何か言おうとしたが、行くぞと伝票を取って、すぐレジに向かった。
その後の行動も素早く、すぐさまタクシーを呼び止め、病院に向かう。
相変わらず行動早いな・・・でも昔からそうだったな・・・
病院に向かっている途中、少し後悔した。やっぱ止めとくべきだったかも・・・
とにかくあの事がバレるのが怖かった。
「そいつは俺の昔からの、大学からの付き合いで、信用できるやつだから安心してくれ。すげーいいやつだから。」
少し顔が強張ってきた俺を、安心させたいためか、緑はまた優しく微笑みながら話した。

病院に着くとまず初めに、緑が知り合いの医者と二人で先に話し、その後医者と二人で面談することになった。
「待合室にいるから」
すれ違いざまに緑にそう言われ、少し心細くなる。
診察室に入ると、柔らかい雰囲気の医者が、笑顔で話しかけてくれた。
優しそうな医者で少しホッとした。
40分ほど医者と対話をした。最初は身構えていたが、核心の部分は聞かれなかった。ほぼ世間話で終わった気がする。
こんなんでいいのかと、少し拍子抜けした。
カウンセリングが終わったら、医者と緑はまた二人で話し合っていた。
二人の会話は聞かず、少し離れた場所で座って待っていた。
最終的に俺はうつ病と診断された。
診断書をもらい、帰りはタクシーで送ってもらった。
昼近くだったので、何か食べるか?と誘われたが、断った。
そういえば全然お腹が減っていない。丸2日食べてないのに・・・
マンションの前でタクシーを降り、
「ちょっと座らないか?」
エントランス前のベンチに座る。座ってすぐに緑は長期休暇をすすめてきた。
「え?」
「最低3ヶ月、様子を見よう。無理そうだったら延ばしてもいい。とりあえず1ヶ月に一、二回連絡してー」
思わず会話を遮る。
「いや、ちょっと待ってください。さすがに、あの・・・」
「辞めんなよ、黒、お前本当は会社辞めたくないんだろ?俺もお前に辞めてほしくない」
「ーーっ!!」
また泣きそうになる。何とかこらえようとしたが無理だった。
大粒の涙で緑の顔が歪んでくる。
「大丈夫、とりあえず休んで、どうしても無理だったら、そん時は辞めたらいいじゃん」
緑は優しく肩に手を乗せた。
「ど、どうして、です、どうして、そんなに・・・」
その後の言葉は出てこなかった。
なんで、こんなに優しくしてくれるんだ、こんな俺に・・・
しばらくそのまま下を向き、泣き続けた。
大の大人が二人、ずっとベンチに座って、一人はずっと泣いている。
何人かに不審そうに見られていただろう。でも緑はずっと隣で慰めてくれていた。
冬はあっという間に日が暮れる。空が少しずつ薄暗くなっていく。
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