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▶︎アン失踪事件

第15話 面倒くさがりな猫

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 ◇


「ただいま、にゃすけ!」

「ぶにゃ、戻ったか」

 時空の扉をくぐり、元の世界に戻ってきたオレ。

 にゃすけが赤い座布団の上にもぞもぞと起き上がり、報告を待つような姿勢をとったので、オレは過去で見てきた事を一気に説明する。

「――……ふむ。ではその令嬢の家に仕える新しい執事が、今回の失踪の件に絡んでいたというわけか」

「そうなんだよ。いやさ、思ったとおりっていうか、なんか変だと思ってたんだよな……」

「ふむ?」

「だってあのシツジ、うちの店に足を運んだのが初めてだって言ってたくせに、裏庭だけ見て『ふしぎ堂』だって判断してたんだぜ? 裏庭や通用口には看板が何もないはずだし、正面に回らない限り『ふしぎ堂』だってわからないはずなのに、よく考えればやっぱり何かがおかしかったんだなって」

「おぬしが感じていた違和感は正しかったということか」

「そういうこと! まあ、過去に行ってシツジが悪いヤツだってわかったから、そこに気づけただけなんだけどな!」

「うむ。成果が得られてよかったではにゃいか。それにしても……くだんのご令嬢は、この蔵の地下に潜っていったというのは本当の話にゃのか?」

「あ。そうそうそう! そこなんだよ! 蔵の鍵も開いたままになってたっぽいし、地下の怪しいスペースについても色々聞きたくて一旦戻ってきたんだけど……ってかにゃすけ、なんか心当たりあったりする?」

「……」

 早急にオジョーを救出するためにも執事の件は一旦脇に置き、疑問に思ってたことを尋ねる。

 するとにゃすけは一瞬考えたのち、すぐさまハッとしたような顔つきになり、面白いぐらいにダラダラと冷や汗を垂らし始めた。

「ぶ、ぶにゃ……」

「すっごい冷や汗ダラダラなんすけど」

「そ、そういえば今日……おぬしが学校から帰ってくる前にこの蔵の地下にある扉の点検を済ませてしまおうと思って、店に身代わり猫を置いて作業に没頭しておったんにゃが……」

「扉の点検??」

「う、うむ。それはまあこっちの話にゃ。肝心なのは……その。長らく蔵の地下にこもっておったんにゃが、途中で休憩がてら甘い物でも食べたくなってな。すぐに戻るつもりで一旦蔵を離れて店先で和菓子を頬張っていたんにゃが……予想以上に早くおぬしがやってきて……」

「ああ、そうだっけ? まあ、今日はいつもよりちょっと店に行くのが早かったよな!」

「うむ。それで、あの……つまり……ウン。そのまま、地下の扉も蔵の扉も開けっぱなしにしてたことを完全に忘れてたにゃ……」

 やっぱり……!

「なんだよ、やっぱりかー! にゃすけ、いつも神様っぽい厳しいことばっかいってっけど、根は面倒くさがりな猫だもんな!」

「ぐ、ぐぬぬ。微妙に言い返せぬところがにゃんとも……」

 にゃすけは面目なさそうに唸りつつも、最終的には「す、すまぬ」と、素直に謝っていた。

「いや、まあでも、結果オーライだよ。もしあの時、蔵の鍵が開いてなかったら、オジョーだって諦めてうちの裏庭を飛び出してたかもしれないだろ? 下手に外に出てあのおっさんに捕まるぐらいなら、この蔵にいてくれてた方が助かるじゃん」

「それはそうなんにゃが。そうとも限らぬような……」

「え、どういうこと?」

「令嬢が入って行ったのは、この蔵の地下にある半開きの扉にゃんだろう?」

「そそ! 一番手前にあった桜色の扉! っつうかあの地下すごくない⁉︎ あの部屋と扉はいったいなんなの⁉︎」

「あそこにある扉は……今目の前にある〝時空を超える扉〟のように、長い長い年月を経てふしぎな力を宿し、いつしか〝異空間〟に繋がってしまった特殊な扉達というべきか……」

「なっ」

「早い話、地下にある扉は全て、〝異世界につながる扉〟ってわけにゃ」

「いいいいい異世界だと――⁉︎」

 にゃすけの話に、オレは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 だって、〝異世界〟っていったら、ライトノベルとかアニメとか漫画なんかでよくあるアレだろ⁉︎

 目を大きく見開いて驚愕し、口をぱくぱくさせるオレ。

 ふしぎ堂の不思議はいったいどこまで無限なんだよ⁉︎  と、目を白黒させるオレに、にゃすけは現実を叩きつけるよう険しい顔つきで言った。

「一口に〝異世界〟というても、色々な世界があるからにゃ。花畑や星空が延々と広がるだけの安全な世界なら良いんにゃが、たとえば鬼や死霊、あるいは竜などのハイカラな猛獣が犇く危険な世界もごまんとあるわけで……」

「ま、まじか」

「うむ。飛んだ先でいきなり悪魔や怪獣に襲われていても不思議ではにゃいぞ」

「……」

 脅し文句のようなにゃすけの言葉に、オレはいっそう不安になってくる。

 オジョーのヤツ、大丈夫なんだろうか?

 危険があるかもしれないならなおさら、早いところ助けに行かなくちゃならない。

 そう思い、気合いを入れて顔を上げたところ、

「まあ、危険だとわかったところで、おぬしは令嬢を助けに行くつもりにゃのだろう?」

 にゃすけから試されるような質問が飛んでくる。

「もち、行くよ。たとえどんな世界だろうと、オジョーを連れ戻してこなきゃ」

「まあ、予想通りの答えだにゃ。早く引き戻さんと大変なことになるかもしれないし、今回は特別に、吾輩もついていこう」

「えっ⁉︎ マジ⁉︎」

 意外な提案をしてくるにゃすけに、オレは拍子抜けと同時に声をひっくり返す。

 にゃすけはぽりぽりと頬をかきつつ、ボソボソと付け足して言った。

「ま、まあ、この件についてはほぼ吾輩の責任みたいなものだしにゃ……。令嬢を探し出すのを手伝ってやるから、さっさと地下へ行くにゃ」

「やった! サンキューにゃすけ! でも、ちょっとだけ待ってて。色々準備してくる!」

 地下に向かってセカセカと歩みを進めようとするにゃすけを追い越し、オレは一旦、ふしぎ堂の店先に戻る。

 今は離席札をかけているため、もちろんのことながら店内に客の姿はない。

 オレはシンとした店の中で、自分専用の棚から役に立ちそうな神商品をいくつかピックアップしてじいちゃんのカバンに詰め込んだ。

 そこでふと、昨日掘り出してそのままになっていた神商品――〝ウチデノコヅチ〟と、〝ふしぎな魔法の杖〟の二点セットの存在と目が合い、すぐさま購入を決意した。

 何があるかわからないし、武器になりそうなものは一つでも多い方がいいしな。

 そう思って二点セットの代金である四百円をレジの中に押し込み、買い上げたばかりのそれをじいちゃんのカバンにぶっ込む。

 そして――。
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