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▶︎アン失踪事件
第17話 異世界へ(1)
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◇
扉を抜けた先に広がっていた〝異世界〟の光景は、オレの想像を遥かに超えていた。
両脇に広がる、星屑を散りばめたような樹林。
視界を横切るように流れる虹色の川。
空には鳥とも蝶ともいえない不思議な形をした生物が、高らかな鳴き声をあげて飛び交っている。
「すっげ……なんだここ」
この景色を見て、吸い込まれるように中に入っていったオジョーの気持ちがよくわかる。
あの幻想的な樹木を、もっと近くで見てみたい。
あの光り輝く虹色の川を、この手で触ってみたい。
なんなら、あの不思議な生物の背に乗って、高い場所からこの美しい世界を見下ろしてみたい。
そんな好奇心と衝動を抑えるので精一杯で、オレはしばらくポケーっとしたまま、よく前も見ずにただひたすらまっすぐに歩いていた。
(っていうかあの鳥みたいなイキモン、いったいどうなってんだ? 見た感じは上品で穏やかそうな感じだけど、いきなり襲ってきたりとかしないよな……?)
空を見上げながらの前進だったため、完全に足元への注意力を欠いていたオレ。
いつの間にか星屑のような林道が途切れ、段差のある広場に差し掛かっていた。
「(あれ。なんかあっちにいる鳥は、鳥っていうよりも馬? なんか背中にくっついてるっぽいけどあれは……)……って、げっ」
でも、それに気づいた時にはすでに遅かった。
いつの間にか目の前が階段で、すでに足場を失っていたオレは、バランスを崩して土と草花でできた百段近い階段を一気に転がり落ちていく。
「わわわわ、どわわわわあああああっっ」
ぐるんぐるん回る視界。ギャグ漫画かってぐらいに派手に転がりながら森? の下まで転げ落ちたオレは、たどり着いた下の広場で、目の前にとまっていた馬車に勢いよく衝突する。
「でっ‼︎」
「ブヒンッ」
「ぬっ⁉︎」
――ゴンッ、と大地を揺さぶるぐらい大きな音と共に、オレと、馬? と、見知らぬダミ声の三つが空中で交差する。
そこでようやく、オレの体は停止した。
「いつつつつつ……!」
あちこち打ちつけたせいでズキズキ痛む全身。
涙目で負傷箇所をさすりつつ、なんとか上半身を起こす。
あんな高いところから転げ落ちてよく無事だったなと思う反面、オレとしては割とこれくらいのアクシデントは日常茶飯事だったりするので、今さらながらに自分の体の頑丈さを褒めたくなってくる。
「な、なんだァ⁉︎ い、いったい何が降ってきたんだ?」
ただ、それが日常茶飯事ではない目の前の人にとっては当然一大事なわけで、馬車の運転席に乗ろうとしていたおじさん――まぎれもなく人の形(それも西洋系だ)をした中年のおじさん――は、目を白黒させて転がり落ちてきたオレと、オレが落ちてきた方角と、オレがぶつかった馬車の位置を、忙しなく見比べている。
「こ、子ども……⁉︎」
「あ、あは。ど、ども。ちょっと足、踏み外しちゃって……」
見た目だけなら明らかに言葉が通じなさそうな、外国人っぽい感じのおじさんと普通に会話ができているのはもちろん、今、オレが胸につけている〝通訳バッジ〟のお陰だ。
これをつけていれば、どんな言語だろうと大体は意思疎通ができるようになる。
異世界って言えばオレ的には外国人のイメージだったから言葉が通じるか不安だったし、あらかじめつけといてよかった……なんて呑気なことを考えていたが、ふと、馬車の中に目をやった瞬間、オレは「あっっ!」と、素っ頓狂な声をあげた。
「オジョー‼︎」
――馬車の中にいるのは、まぎれもなくオジョーである。
五、六人は余裕で座れそうなゆったりとした車内に、学校や過去の世界で見た時と同じ服装のままのオジョーが縮こまるようにして俯きがちに座っている。
オレは思わず窓にへばりついたんだけど、中にいるオジョーは考え事でもしているのか、全くオレの存在に気づいていない様子だ。
扉を抜けた先に広がっていた〝異世界〟の光景は、オレの想像を遥かに超えていた。
両脇に広がる、星屑を散りばめたような樹林。
視界を横切るように流れる虹色の川。
空には鳥とも蝶ともいえない不思議な形をした生物が、高らかな鳴き声をあげて飛び交っている。
「すっげ……なんだここ」
この景色を見て、吸い込まれるように中に入っていったオジョーの気持ちがよくわかる。
あの幻想的な樹木を、もっと近くで見てみたい。
あの光り輝く虹色の川を、この手で触ってみたい。
なんなら、あの不思議な生物の背に乗って、高い場所からこの美しい世界を見下ろしてみたい。
そんな好奇心と衝動を抑えるので精一杯で、オレはしばらくポケーっとしたまま、よく前も見ずにただひたすらまっすぐに歩いていた。
(っていうかあの鳥みたいなイキモン、いったいどうなってんだ? 見た感じは上品で穏やかそうな感じだけど、いきなり襲ってきたりとかしないよな……?)
空を見上げながらの前進だったため、完全に足元への注意力を欠いていたオレ。
いつの間にか星屑のような林道が途切れ、段差のある広場に差し掛かっていた。
「(あれ。なんかあっちにいる鳥は、鳥っていうよりも馬? なんか背中にくっついてるっぽいけどあれは……)……って、げっ」
でも、それに気づいた時にはすでに遅かった。
いつの間にか目の前が階段で、すでに足場を失っていたオレは、バランスを崩して土と草花でできた百段近い階段を一気に転がり落ちていく。
「わわわわ、どわわわわあああああっっ」
ぐるんぐるん回る視界。ギャグ漫画かってぐらいに派手に転がりながら森? の下まで転げ落ちたオレは、たどり着いた下の広場で、目の前にとまっていた馬車に勢いよく衝突する。
「でっ‼︎」
「ブヒンッ」
「ぬっ⁉︎」
――ゴンッ、と大地を揺さぶるぐらい大きな音と共に、オレと、馬? と、見知らぬダミ声の三つが空中で交差する。
そこでようやく、オレの体は停止した。
「いつつつつつ……!」
あちこち打ちつけたせいでズキズキ痛む全身。
涙目で負傷箇所をさすりつつ、なんとか上半身を起こす。
あんな高いところから転げ落ちてよく無事だったなと思う反面、オレとしては割とこれくらいのアクシデントは日常茶飯事だったりするので、今さらながらに自分の体の頑丈さを褒めたくなってくる。
「な、なんだァ⁉︎ い、いったい何が降ってきたんだ?」
ただ、それが日常茶飯事ではない目の前の人にとっては当然一大事なわけで、馬車の運転席に乗ろうとしていたおじさん――まぎれもなく人の形(それも西洋系だ)をした中年のおじさん――は、目を白黒させて転がり落ちてきたオレと、オレが落ちてきた方角と、オレがぶつかった馬車の位置を、忙しなく見比べている。
「こ、子ども……⁉︎」
「あ、あは。ど、ども。ちょっと足、踏み外しちゃって……」
見た目だけなら明らかに言葉が通じなさそうな、外国人っぽい感じのおじさんと普通に会話ができているのはもちろん、今、オレが胸につけている〝通訳バッジ〟のお陰だ。
これをつけていれば、どんな言語だろうと大体は意思疎通ができるようになる。
異世界って言えばオレ的には外国人のイメージだったから言葉が通じるか不安だったし、あらかじめつけといてよかった……なんて呑気なことを考えていたが、ふと、馬車の中に目をやった瞬間、オレは「あっっ!」と、素っ頓狂な声をあげた。
「オジョー‼︎」
――馬車の中にいるのは、まぎれもなくオジョーである。
五、六人は余裕で座れそうなゆったりとした車内に、学校や過去の世界で見た時と同じ服装のままのオジョーが縮こまるようにして俯きがちに座っている。
オレは思わず窓にへばりついたんだけど、中にいるオジョーは考え事でもしているのか、全くオレの存在に気づいていない様子だ。
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