あなたに送るカンツォーネダモーレ

みつしげ

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4話 トラモントの自己紹介

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「起こしてしまったか、すまない」

 ひたすら申し訳なさそうに眉を下げているトラモントに、ファルファラは寝ぼけていたのでうなずきだけ返した。

「よく寝れたか?」
「はい」

 やっと脳が働き始め、今は何時かと壁にかかっている時計を見上げた。時計は8時を過ぎたところを指している。今までならとっくに起きて勉強始めているため、怒られると慌てて頭を下げた。

「ごめんなさい…っ」
「なぜ謝る?」
「だって、ぼく寝坊して…」
「寝坊?普通の時間だろ」

 お互い不思議そうに顔を見合わせた。トラモントはトルメンタ別邸での扱いを察し、ファルファラに優しく微笑んだ。

「ファルファラはもう自由だ。だから何も気にすることはないよ」

 慰めるように頭を撫でられ、ファルファラはまたどうしたらいいのか、わからなかった。

「朝ごはんにしよう」
「…はい」

 照れ臭さが抜け切らないままトラモントに連れられて、屋敷を歩く。きょろきょろと観察すると、この屋敷は窓が少ない、あっても小さい。どうしてだろうと考えているうちにダイニングルームに着いた。準備されていたご飯はちょうどいい温かさで、これまで食べていたものよりはシンプルなそれらを、今までよりも落ち着いて食べた。

「何かしたいことはあるか?」

 食べ終わったとき、先に食べ終わっていたトラモントがそう聞いてきた。小さく首を振ったファルファラに、トラモントはそれならと続けた。

「今日は家でゆっくりしよう。俺のことをもっと知ってもらいたいし、お前のことも…良ければ教えて欲しい」

 向き合ってくれているトラモントに、ファルファラは嬉しくなった。今まで関わってきた人たちはファルファラの外側しか見ていなかったから。
 うなずいたファルファラにトラモントはほっとし、彼を連れてリビングへ移った。大人が2人寝転べそうなL字ソファと1人掛けソファが2脚に、ローテーブル、壁に埋め込まれた大きいテレビ。家具は高価だが、物は少ない。
 
「さて、何から話そうか…。改まると何を話したらいいかわからないな」

 トラモントは隣に座らせたファルファラに苦笑を見せた。ファルファラもつられて口角を上げたが、ほんの少しだけだったためトラモントはもちろん、ファルファラ自身も気づかなかった。

「名前は、昨日も言ったが、トラモント・デゼルトだ。歳は25。テネラメンテ社という衣服の製造・販売をする会社のCEOをしている」
 
 トラモントはいちいち相槌を返してくれるファルファラの頭を撫でた。

「今度一緒にファルの服買いに行こう。好きな色やスタイルなどはあるか?」
 
 ファルファラは首を振り、わかりませんと顔を伏せた。

「なら、いろいろ着てみよう。好きなものが見つかるといいな」

 わからない、と何度も言っているのに、トラモントは毎回嫌な顔は一切しない。ファルファラは、それが申し訳なくもあり、嬉しくもあった。
 受け身の自分が情けなくて、ファルファラはなけなしの勇気を振り絞って自分から話を振った。

「…っあの、トラモントさんの、好きな色…」

 意気込んだものの尻すぼみになってしまい、ファルファラは恥ずかしさに顔を伏せた。

「俺の好きな色が知りたいのか?」

 察したトラモントの問いかけに、ファルファラは顔を伏せたままうなずいた。
 ファルファラが初めて自分に対する興味を示してくれたことに、トラモントは顔を歪めた。キュウッと身体の中心に喜びが集まってくる感じがした。この時もし、ファルファラが顔を上げていれば、欲情する男の顔をその純粋な瞳に映したことだろう。
 トラモントは理性を持って、愛しいファルファラのつむじにキスを落とした。それに応じるように顔を上げたファルファラに、欲情なんて微塵も感じさせない微笑みを見せた。

「俺の好きな色は黒かな」

 答えてもらえたことが嬉しくて、ファルファラはパァっと顔を明るくした。その様子に気を良くしたトラモントは聞かれていないことも答え始めた。

「食べ物は、甘いものより少し辛いくらいが好きだが、納豆とかねばねばしたものは苦手だ」
「ナ、トウ…?」
「納豆」
「ナットゥ…?日本の、ですか?」

 トラモントは、こてんと首を傾けた可愛いファルファラの頭を撫でた。

「ああ。友人がたまに買っていてな。それを食べたことがあるんだが、どうも苦手だったみたいだ」

 食感を思い出して、トラモントは少し渋い顔をした。

「あとは…、綺麗なものが好きだ。透明感のあるキラキラしたものを見るのが特に好きだな」

 そう言って、彼は頭から頬へ手を滑らせた。愛しむように撫でられ、ファルファラはまた薄く顔を赤らめた。

「…ピアスも、ですか…?」
「そうだ。綺麗だろ」

 トラモントの両耳には小ぶりで、ごくごくシンプルなデザインのピアスが付いている。銀色の金具にはとても綺麗な濃い紫色の宝石が嵌め込まれている。

「パープルガーネット…?」

 ピアスをじっと見つめた後、呟いた言葉にトラモントは目を大きく見開いた。
 8歳の子どもが宝石の目利きの知識があることは異常だ。普通の子どもには全く必要ない、大人ですら大多数は必要としない知識がぱっと出るくらいには叩き込まれている。それはまたトルメンタの教育の苛烈さと小さな身体で耐えてきたファルファラの苦しみを察するには十分だった。
 巡らした思考をぐっと押しとどめ、トラモントは努めて優しい笑顔を見せた。

「これはルビーだ」
「ルビー?…でも、もっと高いの買えました?」

 宝石は、色や透明度、サイズなどで価値は変わってくる。色においてルビーは濃いものや薄いものより純粋な赤が良いとされることもある。紫がかった赤、透明度は申し分なく、サイズは小ぶり。これよりも価値の高い宝石をトラモントが買えることを、ファルファラは自身を高値で買ったことから理解していた。

「確かにそうだな。だが、これが良かったんだ」

 トラモントは懐かしむようにピアスに触れた。

「これは、昔…恩人に、買ってもらった、ちょっとしたお守りみたいなものだ」

 彼の表情からとても大切なものであることがよくわかった。彼の愛を知っている顔に、ファルファラはどこか距離を感じた。

「もしファルがピアスを付けるなら、やっぱり瞳と同じ色のものがいいだろうな。それか髪と同じゴールドだろうな」

 トラモントはファルファラの耳を触った。愛を知る彼の瞳をファルファラは見上げた。見慣れないそれにファルファラはすぐに目を伏せた。
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