あなたに送るカンツォーネダモーレ

みつしげ

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3話 電話

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 いつも通りに目が覚めて、いつもとは違い腕の中の子を確認した。すよすよと寝息を立てている彼の可愛さに堪らずキスをした。
 痺れかけの腕をそぉっと抜くと、ファルファラはみじろぎした。起こしてしまったかと焦ったが、また寝息が聞こえてきたのでほっと息をついた。
 サイドテーブルに置いていたスマホを見ると、昨日付で友人のセレナータからメッセージが来ていた。

『お前が買った子、事情がいろいろと面倒臭いから気をつけて。明日の朝くらいに届くように彼についての書類送るから、よく読んでよく考えて。でも返品不可だから、ちゃんと対処しろよ~。あと、明日中に金払って!』

 適当な返事を返して、今日の予定を確認し始めたところで、ドアが軽くノックされた。

「旦那様、起きてらっしゃいますか。セレナータ様から書類が届いております」

 くぐもったサリーチェの声に、入ってと返した。朝でもピシッと身支度を整えているサリーチェから書類を受け取った。

 -商品名オッドアイの子猫について
 売り主 アルバ・ルッサーレ、テゾリーノ・ルッサーレ、ニンナ・ルッサーレ
 買い主 トラモント・デゼルト
 
 名前 フィオーレ・トルメンタ
 誕生日 3月2日
 両親 父スピラーレ・トルメンタ 母フェリーチェ・ジョルノ
 過去 母フェリーチェの私生児として、3歳まで母フェリーチェと共に彼女の実家で過ごす。
    父スピラーレの正妻パロンチーノの指示により交通事故を装い、母フェリーチェが殺害される。父スピラーレに引き
    取られ、8歳まで彼の別邸で密かに育てられる。
    別邸では外に出ることは許されず、軟禁状態であった。学校にも通わず、家庭教師による体罰を含む厳しい授業を5年間
    毎日受け、同じ歳の子どもの平均よりもはるかに高い知能がある。
    異母兄サエッタの依頼で売り主アルバらが子猫を別邸から誘拐。彼らは処分も任せられたが、殺すのは不憫に思い商会に
    持ち込んだと話している。
 備考 父スピラーレ・トルメンタはトルメンタ財閥の当主である。

 簡潔にまとめられた書類を読んだトラモントは度を過ぎた驚きから何も言葉が出てこなかった。

「旦那様、いかがしました?」

 サリーチェの声に唖然としたまま書類を見せた。素早く目を通したサリーチェもトラモントと同じ顔になった。

「とんでもない子を買ったな…」
「なんでセレナータはこんな子を出したんだ…」

 書類に書いてあることがなかなか受け入れられなくて、トラモントはサリーチェに確認した。

「トルメンタって、あのトルメンタだよな…?」

 トルメンタ財閥。イギリスを中心にヨーロッパ各地、世界各国に会社を持つ正真正銘の大財閥だ。その頂上に立つ当主ともなればその影響力は測り知れず、その子どもにも生まれたときから大きな力が与えられている。彼の子どもは3人だけだと知られているが、隠し子がいることが世間に知られれば大きな騒ぎになるだろう。
 ヨーロッパ止まりのマフィアのボス-トラモント・デゼルト-程度では世界的なトルメンタ財閥当主には太刀打ちできない。

「トルメンタは1つしかないだろうよ」
「だよな~…はぁぁ」

 頭を抱えるトラモントにサリーチェは苦さを滲ませて言った。

「…処分するか?」

 その言葉にトラモントは残忍な目をしてサリーチェを睨んだ。マフィアのボスらしいそれにサリーチェは唾を呑んだ。

「2度とそんなこと言うな。サリーの兄貴でも許さないから」
「…わかった。それで、どうするんだ?」
「どんな事情があろうとこの子は俺の子になってくれたんだ。手放すつもりはない。大事に大事に育てる」

 ファルファラを見るその目は、裏社会でよく見る薬に溺れた者に似ている。何か一歩でも誤れば壊れかねない危うさに、サリーチェはひどく不安を感じた。

「わかった。…気をつけろよ」
「ああ。サリーの兄貴にもいろいろしてもらうから、よろしく」
「はぁあ、おれはお前の兄貴分だってのにこき使われて辛いなぁ」
「ありがとな、サリーの兄貴」

 嫌味ったらしく言うサリーチェにトラモントは嫌に嬉しそうに笑い返した。
 ファルファラをトルメンタから完全に切り離すためにすることを確認し合い、トラモントの指示のもとサリーチェが忙しなく動き始める。
 サリーチェを見送り、まだ眠っているファルファラに視線を落とした。

「軟禁状態だったなら…、健康状態が気にかかるな」

 (顔色は悪くはないようだが、肉が全然ついていない。軽いとは思っていたがファルファラの身体は骨と皮ばかりだ。一度医者に診せた方がいいな。)

 トラモントはスマホを手に取り、信頼の置ける個人医に電話をかけ始めた。

「もしもし、先生か?問診を頼みたいんだ」
『問診?お前また怪我したのか?』
「俺じゃなくて、俺の子を診て欲しいんだ」
『は、俺の子?お前、嫁すらいないだろ。一体どういうことだ?』
「つい昨日養子をとったんだ」
『はぁ?意味がわからん』
「だから、俺の子を…」
『それは聞いた。はぁぁ…、子どもの容態を言え』

 なんだかんだ言いつつも、医者気質な彼は患者を見逃さない。

「目に見えての病気とかはないんだが、健康状態が気になるから詳しく診て欲しいんだ」
『なるほど、わかった。準備ができ次第行く』
「ありがとう、先生」
「…お前がそんな殊勝なこと言うなんてな」

 くすくすと笑いながら切られた通話画面を少し不服そうに眺めた後、また違う人に電話をかけ始めた。

「もしもし、俺だ。今日から2日間有給休暇、その後しばらくリモートでよろしく」
『え、冗談ですよね?』
「俺が冗談を言ったことがあるか?」
『ないですけど…、え?マジですか?』
「本当だ」
『だぁあああああ!ふざけんなよクソ野郎!』

 口汚く悪口を並べ続けるスマホを耳から離しても聞こえてくる大声に眉をしかめた。普段は冷静に素早く仕事をこなす淑女然とした彼女からは想像できないほど悪口の語彙が豊富だ。

「うるさい。俺社長だぞ?」
『今は勤務時間外だからいいのよ!』
「ほぉ、お前がそんなに生意気な奴だったなんて知らなかったよ」
『そりゃすいませんでしたねぇ!そんなことよりも仕事どうするつもりなんですか!』
「会食はリスケ、どうしてもはずせない会議はリモートで、俺の確認がいる書類は家に持って来て」
『それを私にやれと?!私アンタのパシリじゃなくて秘書よ!?』
「社長の俺を支えるのが秘書のお前の仕事だろ?」
『んな訳…通常業務から外れてるし!仕事増えるんですけど!?』
「頑張れ」
『ふざけるなぁぁぁ!』

 電話の向こうからいくつもの大きい音が聞こえてくる。どうやら秘書が暴れているらしい。

「静かにして。起きちゃうだろ」
『起きちゃうって何が?…ハッ、まさか恋人ですか!?良いご身分ですねぇ!』
「違う、子ども」
『ゑ?社長奥さんすらいないでしょ?』
「昨日養子とった」
『はぁあああああああ!?』 

 さらに大きくなった声に、トラモントはファルファラを確認した。顔をしかめて丸まっていて、とても寝苦しそうだ。トラモントは急いで通話を切ろうとした。

「仕事のことは言ったからな、切るぞ」
『まだ話は終わってませんよ!』

 言い募る彼女に紛れてファルファラが薄く目を開いた。見知らぬ天井に驚き飛び起きたファルファラに気づくと、トラモントは秘書を無視して通話を切った。
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