喉から猫がいなくなるとき

みつしげ

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8話 初めての朝

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 扉が叩かれる音で、涼太は目を覚ました。ノックに続いて聞こえて来たエトワールの声に、寝ぼけたまま返す。

「おはよ~、リョータ」

 朝から元気なエトワールに続いて見知らぬ男が入って来た。涼太が視線を向けると、男は一礼した。

「彼はポワーヴル。今日から従者としてリョータに付いてもらうから~」
「よろしくお願いいたします」

 涼太の鋭い目がポワーヴルを見つめる。警戒する涼太に対し、ポワーヴルは無表情のまま真っ向から見つめ返した。黒とヘーゼルが交わった十数秒の後、黒が交わりを絶った。

「…わかった、よろしく」

 (こいつを拒否しても誰かとは一緒に行動させられるんだろ。なら、静かな方がいい)

「では、朝のお支度からお手伝いさせていただきます」
「は?」

 ポワーヴルはズンズンと近づいてくる。その圧に待て待てと手を広げたが、彼は止まらなかった。涼太がかぶっている布団を掴み、剥がそうとする。ポワーヴルの勢いにビビった涼太は必死に布団を引っ張り返した。

「まず、お風呂へ参りましょう。どのようなお風呂がよろしいですか?」
「ど、どのようなってなに…?」

 布団を引っ張り合いながら話しかけてくるポワーヴルに困惑しながらも聞き返した。

「無難な泡風呂もできますし、バラハーブを入れたり、お札で満たしたり、その他にもいくつかできます。ご希望はありますか?」
「え…えぇ?」

 金持ちか洒落ている奴がするような風呂を言われた涼太は別世界のようだとさらに困惑した。

「ポワーヴル、お前が良いように整えてあげて~」

 涼太とポワーヴルの攻防を横で見ていたエトワールはクスクスと笑っている。

「かしこまりました」
 
 エトワールに文句を言おうとしている隙に布団を剥ぎ取られてしまった。

「おや」

 布団の下の下着1枚の姿を見て2人は軽く目を見開いた。制服のままでは寝苦しく他に着る物もなかったので、涼太は下着1枚で寝ていたのだった。
 彼はその姿であぐらをかき、不服そうに2人を見上げた。

「その姿のまま出歩かれて妹の目に触れては困りますね」

 ポワーヴルは布団を広げ、手早く涼太を包んだ。フンッという気合いと共に浮いた身体に涼太は暴れようとしたが、布団で拘束されたせいで上手くできない。

「ちょ…っ!?」

 軽い訳ではない自分を持ち上げたポワーヴルに動揺を隠しきれない。

「待て待てッ!」

 制止も聞かずにポワーヴルは涼太を横抱きにし、歩き出した。

「マジで待ってて!…ッエト!」
「プッ…クク…いってらっしゃ~い…ふふふ」

 逃げられずエトワールに助けを求めたものの、彼は肩を震わせるだけだった。
 その後うっすらと聞こえて来た涼太の叫び声にエトワールは声を立てて笑った。

 ○○○

「旦那様、リョータ様のお支度と朝食のご用意が整いました。」
「ああ、わかった」

 書斎の外から聞こえるリュシオルの声に、エトワールはペンを置いてダイニングルームに向かった。
 ダイニングルームに入ると、椅子に座る涼太とその後ろに立つポワーヴルがいた。涼太がぐったりとうなだれているのとは対照的にポワーヴルはとても満足気だ。2人の様子にまたエトワールは肩を震わせた。
 震えをなんとか抑えて涼太の向かいに座ったものの、2人の真逆な表情を見るとまた笑いが込み上げてくる。

「磨かれたな~」

 艶の増した黒髪。入浴による血行改善でほんのり赤い頬。貴族子息のごとく上等な衣服に着られず、上品な黒い髪と瞳で自分のものとしている。

「くつじょくだ…」

 むすっと尖らせた口で呟いた涼太にエトワールは堪えきれなかった笑い声を漏らした。

「お待たせいたしました」

 食欲をそそる匂いの料理を運んできた2人のコックがエトワールと涼太の前にお皿を置いていく。お皿の数の割に置かれているのは2箇所のみで、涼太は首をかしげた。

「ポワーヴルも他の人も飯食べねぇの?」

 その場にいた涼太以外の4人は驚いて彼を見た。4つの視線に涼太は反対側に首をかしげた。

「何?俺なんか変なこと言った?」
「…いや。この世界ではね、主人である貴族と使用人は一緒に食事しないんだよ~」

 諭すような声に涼太は眉間にシワを寄せた。

「それは一般論じゃないのか?お前が使用人を差別するとは、思いづらいんだが?」

 その言葉に4人はさらに目を丸くした後、各々微笑んだ。

「そうだね。そうだよ。…お前は身分差別をするか?」

 口調が変わった気がするが、横に流して話を優先させた。

「しない。俺の生活に貴族なんて身分は全くなかったし。それに、お世話になった人からご飯はみんなで食べるものだと教わった」

 キッパリと言い切った涼太に4人は笑みを深めた。

「ウルス、いつも通りに」
「わかりました!」

 ウルスと呼ばれた年上のシェフは大きな笑顔でうなずいて、もう1人のコックを連れて部屋を出て行った。
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