喉から猫がいなくなるとき

みつしげ

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9話 みんなで①

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『ご飯よ~!』

 突然、女性の声が屋敷に響き渡り、涼太は肩を揺らした。響き渡ったと言っても日常会話並みの声量で、それが波紋のように隅々まで広がるそんな感じだった。
 不思議な感覚に目を丸くしたまま見回したが、女性はいない。

「今のはなんだ?」
「ご飯の合図だよ~」

 エトワールの口調は呑気なものに戻っている。

「そうじゃなくて、声が…」

 どうやって説明したら良いか分からず口ごもると、察したエトワールがああ!と手を打った。

「さっきのは魔法を使ってるんだよ~」
「魔法?」
 
 分かりづらい説明に涼太は大きく首をかしげた。

「なんて言ったら分かりやすいかな~。音ってさ、空気を介して伝わるじゃんか~。その原理を利用して、音の大きさや伝わる距離を風魔法で増幅させてる、って感じ?」
「へ~」

 ざっくりとした説明だったが、なんとなく飲み込めた。
 そうこうしているうちに扉が開き、知らない人たちが入ってきた。楽しそうに話している彼らは涼太に気づき、ピタッと口を閉ざした。

「エトワール…様、リョータ様が、いらっしゃいますけど…?」

 旦那様ではなく昔のように呼んでしまうほど、リュシオルは少なからず動転していた。

「うん、リョータも一緒にご飯食べるんだよ~」
「え…、良いのですか?」

 リョータは知らなかったが、彼は聖女と同等の貴賓扱いになっている。貴賓と使用人が食事の席を共にするなど本来はあってはならないことだ。加えて、地位が高い者は低い地位の者を差別し、罵ることも少なくない。罵られるのは誰だって嫌だ。
 リュシオルは、行儀作法をわきまえるためにも自分たちの心を守るためにも同席を避けようとした。

「えっ、ダメなんすか?」

 予想外の反応に涼太は、俺がいちゃまずいのか、と気まずそうな顔を見せた。

「私たちが同席するのは…マナーが…」

 何と説明したものか、と考え込むリュシオルの目には、何も知らないだろう涼太の顔が映った。次にエトワールと目を合わせると、嬉しそうにうなずかれてしまった。無駄な心配をしてしまった、と申し訳なく思いながらリュシオルは涼太に微笑みかけた。

「…いえ、僭越ながら同席させていただきます」

 リュシオルのその言葉に、ポワーヴルや彼の後ろにいた他の使用人たちもそれぞれ席についた。

「リョータ、紹介するね~。この家の執事長のリュシオルだよ」

 エトワールが先ほどの男を指すと、彼は立ち上がり美しいお辞儀を見せた。丁寧な対応に少し面食らいながらも涼太も頭を下げた。

「リュシオルの妻でメイド長のリオン、2人の子どもの兄ポワーヴルと妹クロシェット」

 リュシオルとポワーヴルは執事服、リオンとクロシェットはメイド服を着ている。リュシオルとポワーヴルはとてもよく似ている。また4人並ぶと、親子・兄妹がそれぞれ似ている。

「あっちがリュシオルの妹のプリュイと夫で庭師のヴェルデュール、2人の子どもの姉ブランディーユと弟エキュルイユ」

 プリュイとブランディーユもメイドらしく、リオンたちと同じメイド服だ。ヴェルデュールとエキュルイユはワイシャツとズボンという動きやすい格好で、2人とも日焼けしている。
 ヴェルデュールは他の人たちと外見が少し違うようだ。髪は皆よりも黒に近く、鼻も低い。涼太は外見的特徴が似ている彼と親近感を感じた。
 エトワールの指差しに合わせて挨拶を交わしている間に全員のところへ料理が運ばれて来ていた。

「で、あの大きい方のコックがリュシオルの弟で料理長のウルスと妻のジョワイユ、2人の子どものモワノーとその夫のミエル、さらにモワノーとミエルの子どものシアン」

 エトワールが料理を運んでいる5人をそれぞれ指すと、彼らは立ち止まり挨拶をしてくれた。ウルスとモワノーとミエルは真っ白のコック服で、ジョワイユはメイド服だ。5歳くらいのシアンはくまの顔が刺繍されたエプロンをして、可愛いエプロンとは対照的に顔は真剣そのもので一生懸命手伝っている。

「以上、俺の家で働いてくれてる13名だ」

 誇らしそうに紹介してくれたエトワールにありがとうと返事をし、一気には覚えられないな、と思った。
幸いと言うか、庭師以外はそれぞれの仕事から簡単に想像できる服を着ているため名前以外で間違えることは少ないかもしれない。
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