喉から猫がいなくなるとき

みつしげ

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10話 謁見①

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 見た目の割には揺れも少なく乗り心地も悪くない馬車の中、エトワールは手鏡越しに蝶々を観察して笑っている。

「王宮に行って何するんだ?」
「この国の国王、俺の兄様に会ってもらうんだ~」

 言うの忘れてたか~、と軽く言ったエトワールに涼太は声を荒げた。

「そういう大事なことは早く言えよ!」
「えぇ~、大事なことなの?」
「大事だろ!国王って悠希の保護者なんだから!」

 悠希第一の言葉にエトワールはやり過ぎじゃないかと思ったが、それは言わずに間延びした謝罪だけ返した。

「国王さまってどんな奴…人なんだ?」

 頑張って丁寧な言葉にしようとしている涼太をこっそり笑った。

「兄様は、とても優しい人だよ。兄様は正室の子で、俺は第5側室の子で…、半分しか血が繋がっていないけど、本当の弟のように良くしてくれるんだ。とても慈悲深い人なんだよ」

 エトワールは初めて見る顔をしている。凪いだ表情とでも言うのか、表面に出ているのは微笑みだが、それは儚く奥は見通せない。
 この24時間にも満たない短い時間で見たエトワールとは違う彼に、涼太はエトワールという人がよくわからなくなってきた。

「あ、兄様と会う場所は公の場じゃないから畏まり過ぎる必要はないけど…、一応この国のトップだから多少の礼儀を持ってもらえると嬉しい」
「もちろんだ」

 ありがと~と笑うエトワールは何度も見た彼だ。

 (やっぱりよくわかんねぇ奴だ…)

「もうちょっとで着くと思うから~」
「あぁ」

 特に話すことがなくなった涼太は車窓の先を眺めた。エトワールの屋敷から続いていた木々の道を抜けると、次第に街に入り、舗装された道を進む。石造りの家々とそこで生活する人々。今までの日常との違いを上手く呑み込めず、視線を逸らした。
 車内は退屈で、時間が過ぎるのが遅い。沈黙の静けさは考えに浸るのにちょうどいい。だが、考えの先は悠希のことばかりで憂鬱になってしまう。

「リョータ、着いたよ~」

 随分と長く感じた十数分後、エトワールの声に涼太は顔を上げた。エトワールの屋敷から見えた城っぽいものは紛れもない城だった。

「リョータ?降りるよ~」

 エトワールに促されるまま馬車を降り、間近から見上げる王城に涼太は固まった。
 エトワールの屋敷よりも何倍も大きく高い。2階分くらいはありそうな城壁、いくつかの3、4階建てで横幅もある建物、5本の尖塔。それらのどれも白っぽい石造りで屋根は色褪せた水色。後ろを振り返ると堅牢な城門とこちらを睨みつけている2人の門番がいる。

「正門から入るとすごく歩かないといけないから、南門から行こう」

 正門じゃないのにこの大きさか、と目の前の壮大さに涼太は唖然とした。
 エトワールに背中を支えられ、王城へ一歩踏み出した。

「それじゃ、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」

 心配そうに見つめてくるリュシオルが安心してくれるように笑い、エトワールは王城へ向き直った。

 
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