パイライトの誓い

藜-LAI-

文字の大きさ
26 / 41

簡単ではないけれど

しおりを挟む
 予感はあったが再会の僅か数日後。11月を迎えるのを待たずに、憬が息を引き取ったと修から短いメッセージが届いた。
 連絡を受けた龍弥は修が心配になり、すぐにでも駆け付けたくて仕事を放り出して電話を掛けると、修は大人しくそれを受け入れてくれた。
 街がすっかりクリスマスイルミネーションに染まる中、憬の49日法要を済ませた修は、龍弥の再三にわたる催促を受け入れる形で家を引き払って龍弥の部屋に引っ越してきた。
「本当に荷物少ないよな」
 普段使っていない物置になっていた玄関脇の部屋に、修の荷物は全て運び入れた。
 家具は処分してしまったので衣類が殆どの段ボールを開けると、適当にハンガーに掛けてクローゼットに吊るしていく。
「だから休んでまで手伝いは良いって言ったじゃないか」
 パソコンやプリンターを設置しながら、裏で絡まるコードを器用に纏めると、修はデスクの上にスイッチ式の延長コードを固定して満足そうにそれを眺める。
「なー。そんな感じだな。やっぱ後で店覗きに行くかな」
 次の段ボールを開けると、部屋の様子を見渡して龍弥は確かに必要なかったと呟く。
「僕が住んでたマンションに何度も来たじゃないか。どう考えても手伝いが要るほどの荷物はないって分かるだろうに」
「まあ、そうだけど。いいじゃん別に。人手があった方が片付くの早いんだし」
「確かに助かるけど、このところ憬のことでたくさん仕事を休ませたから……」
 どこか弱々しい声で修が肩を落とす。
「世話になった前のオーナーだってのは周知のことだ。俺だって恩人に泥掛けるようなことはしたくないから手伝っただけで、修から礼を言われることじゃない」
 デスクには三人で撮ったあの日の写真が飾られている。
「目の前で痴話喧嘩すんなって笑われるぞ」
 写真立てを顎で指すと、龍弥は笑ってさっさと片付けようぜと作業を再開する。その隣にやってきて修が苦笑いでそうだねと呟くと、二人で残りの段ボールの荷物を全て片付けた。
「さて。なんだかんだ片付いたじゃないか。じゃあ俺は店に顔出してくるわ」
「今から出るのかい?ご飯はどうするの」
「んー。店の状況見て考えるけど、仕事に行くなら外で食うかな」
「そうか。そうだよね」
 言葉では納得したそぶりを見せるクセに、修は龍弥のニットの裾を掴んで離そうとしない。
「なんだよ。居て欲しかったらそう言えよ」
 修の腰を抱き寄せると、グッと近付いた距離で顔を見つめながら龍弥が囁く。
「でも、君は仕事だろ」
「その手の可愛いワガママなら大歓迎だ。言えよ」
「……行かないでここに居てくれないかい」
「はいよ。ご褒美な」
 チュッとリップ音を立てて修の唇を攫うと、グリグリと股間を押し当ててふざけながら楽しそうに笑う。
 啄むキスを繰り返しながらリビングに移動して、ソファーで寛ぎながら夕飯はなににするか決めあぐねていると、どうせ買い出しに出るならたまには外食しようと話がまとまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

処理中です...