昔描いた絵 〜extra time〜

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私の職業は・・・一応イラストレーター。
といっても稼ぎなんてほとんどないから本当のところは「家事手伝い」なのかもだけど。
実家が、というか、おばあちゃんが自宅で乾物屋さんをやっていて、時々おばあちゃんの代わりに店に立つ(というか座っている)とバイト代がもらえるという仕組み。両親は外で働いているので、日中は半引きこもりの私とおばあちゃんだけで店を回している。
といっても買いに来るのは地元の人だけだし、おじいちゃんが元気だった頃は配達なんかもやってたらしいが、今は朝の散歩がてら取りに来てくれる。みんな近くの料理店の店主さんやご近所さんたち。子供の頃からの知り合いだ。
「おお、今日は茜ちゃんかね。おじちゃんとこの用意できてるかい?」
「はい、今朝おばあちゃんが・・・あ、これです」
私は、おばあちゃんがあらかじめ用意してくれてあった「中華屋さん」とメモ書きが貼り付けてあった袋を渡した。もちろんメモは外して。
「おーサンキュー!じゃまた来週もよろしく!」
「はい、ありがとうございました」
ニコニコと手を振りながら斜向かいの自分の店に入っていくおじさん。
「今日は・・・あと3件分か」
いつものところを見ると、あと3つ袋が置いてあった。私が間違えないように全部メモが貼ってある。
「西條んちもあるんだ」
私は少しドキッとした。

西條俊太、元クラスメート。
生まれた頃から知ってるんだから幼なじみってことになるのかな。

同じ商店街の、ちょっと離れたところにある老舗のお蕎麦やさんで、うちでもよく出前を取っていた。
「やっぱ本枯節と宗田節のだしは違うよね」
普通のお蕎麦屋さんよりちょっとお高いのだが、やっぱりあの香りと味は宗田節と本枯節じゃないと無理。
あのそばつゆが絡んだ腰のあるお蕎麦が喉を通り過ぎてゆくところを思い出してしまった私は、こくん唾をのみこんだ。
あー、おそば食べたい!
「何が食いたいって?」
へっ、誰?
想像のままにざるそばの絵を書いていた私は、突然の低い声にびっくりして顔を上げた。
「何お前、ざるそば食いたいの?ってかやっぱ絵描くのうまいな、お前」
「ささ、西條!なななな、なんであんたが⁉︎」
「なんでって、それ取りに来たんだけど」
「あっ・・・」
西條の視線の先には名前の入った大きな袋があった。
「め、珍しいんじゃない、あんたが取りにくるなんて」
「ああ、中学以来、かな」
私がいるとは思っていなかったのか、西條もなんだか話しにくそうだった。
「学校は?サボり?」
「休みだよ!おまえじゃねえ!!」
「うっわーひどい!私はさぼってなんかいません!」ただ、仕事がないだけで・・・とは言わなかった。
「そっか・・・そう言う仕事って、やっぱ大変なのか?」
「なに、どうしたのいきなり?」
「いや、俺ももう4年だから・・・」
「プロにはならないの?」
西條は野球推薦で大学に入っていた。
「怪我、しちまったしな・・・」
「そっか・・・」
そう、西條は主力に上がった去年、優勝が決まると言う試合で足に大怪我をしてしまった。
「もう治ったんじゃないの?」
「日常レベルではな。でも・・・」
西條は目をそらした。

「・・・じゃあ、おそば屋さんになるの?」
気まずい沈黙に、つい私は聞いてしまった。
「わかんね」
「・・・だよね」
まだそんなことわかんないよね・・・

「なあ、おまえはどうしたらいいと思う?」
「そんなの、わからないよ。あんたの人生なんて・・・」
「だよな、すまん」
「でもさ・・・ほんとは続けたいんでしょ、野球」
「当たり前だろ!俺の夢は・・・」
なぜか西條の頬が赤くなった。
「なに、大丈夫?熱でもあるんじゃないの?あんたさ、いつもぶっ倒れるまで練習しちゃうんだから、あんまり心配させないでよね!」
「だ、大丈夫だ・・・」
「ならいいけど」
「私は、さ・・・売れなくてもこうやってイラスト描いてるし、あっ、一応ネット界隈じゃそこそこ人気あるんだからね!」
・・・知ってる
えっ、今知ってるって言った?
「ね、ねえ西條。野球、好きなんでしょ?」
「ああ」
「だったら!何もプロだけが野球ってわけじゃないんだから、好きな野球に関われる、他の方法探してみれば」
「他の方法って?」
どうやらこいつはプロになる以外考えていなかったみたいだ。全く・・・
「うーん・・・野球の絵を描く?」
「それはおまえがやれ」
「だ、だよねえ!あんたの絵、見れたもんじゃなかったし」
「うるせえ!それだけかよ」
「そうねぇ・・・だったら野球の写真とか!あんたのおじいちゃん隠居してからカメラに凝ってたじゃん」
「・・・頼む、そっち方面から離れてくれ」
西條は頭を抱えた。
「えー、写真楽しそうなのに・・・じゃああれは!バットやグローブ作るの!」
「野球道具か・・・そう言えば、そんな仕事もあるんだったな」
「それからさ、ちっちゃい子たちに教えるのはどう?あんたみたいに目をギラギラさせながらやるんじゃなくて、『バットに当たった!嬉しい』みたいなの。ちっちゃい子がニコニコするとこ見てるの、楽しいよ」
「おまえって・・・やっぱ独特だよな」
「そう?だってさ、みんながみんなプロ目指すわけじゃないでしょ。それにそう言うのだったらあんたの足に負担にならないだろうし・・・」
「・・・そんなこと考えてたのか、おまえ?」
「べ、別にそう言うわけじゃないけど・・・あんたのあんな顔、見たくないよ、もう・・・」
あの試合で怪我をしてしまった時の西條の顔。
今思い出しても胸が締め付けられる・・・

「・・・あの、すいません」
「はは、はい!何かお探しですか?」
珍しく来店した一般客に、さらに珍しく声までかけられてしまって、私はかなり動揺しながら接客をはじめた。

「見たくない、か・・・」
そう呟きながら、西條は帰って行った。
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