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生倉 湊
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お昼休み。私はネエさんに言われた通り、お弁当箱を持って屋上のドアを開けた。
屋上は端が少し高くなっていて金網も割としっかりしている。端がちょうど椅子くらいの高さで眺めもいいらしく、ところどころ座っている生徒がいて、みんな楽しそうにお弁当を食べていた。
ドアを開けた私が屋上を見回すと、他の人たちから少し離れた場所にネエさんが一人で座っていた。金網越しに見える空と不思議なコントラストになっているネエさんは、夜に見るより少し繊細な感じがした。
「あの、来ました」
「ほらここ、座んなさいよ」
私は言われるままネエさんの横に座って、お弁当を開いた。
「あ、あの・・・」
「なに、いくらちゃん」
「あの、その呼び方なんとかなりませんか?」
「別にいいじゃない、かわいいし。本名でしょ?」
「あの国民的アニメの赤ちゃんみたいに言われるの、嫌なんです!」
「あ、そ。じゃあなに、『湊』とか呼べばいいわけ」
とネエさんは私の顎をクイっとつまんで顔を寄せてきて、少し低い声で私の名前を呼んだ。
「あ、あの・・・」
美形の男子の顔が突然目の前にやってきて、一瞬頭の中が真っ白になった。
「ぶわっはっは。あんた本当にブサイクね」
とネエさんは目をそらしながら大笑いした。
「ううっ・・・いい加減にしてください・・・」
私ってそんなにブサイク?ちゃんとお化粧もしてるのに。
私は悔しさのあまり、お箸でウインナーをぷすぷすと刺した。
「あら、ごめんなさい。そういえば隣の眠り王子、目覚めてた?」
眠り王子?
「・・・ああ、隣の席の人ですか?いえ。寝てましたけど」
「あ、そう・・・」
ネエさんは少し困ったような顔をした。
その眠り王子がどうしたと言うのだろう。
「ところで、その・・・尚弥のことなんですけど」
「そうよね。ところであんた、そのメイク、誰に教わったの?」
「お、お母さんですけど」
「なるほどねぇ。そういうことか」
ネエさんはなぜだか納得した様子だ。
「何がなるほど、なんですか?」
「なんて言うかさ、ケバいのよ。簡単に言うと」
「ケバい」
私は愕然とした。ちゃんとしたメイクだと思ってたのに。
「そのメイク見てさ、あいつ、あんたなら簡単にやらせてくれると思って近づいたのよ。ほら」
と、私と似たメイクの、どう見てもイケイケ女子高生の画像を見せられた。
「私、こんな風に見えてるんですか」
「まあ、多少は落ち着いた感じあるけどね。ママのテクニックだし。でも、普通の子たちよりはね」
とネエさんは周りに座っている女子高生たちを見た。
わたし、イケイケなんだ・・・
「でもさ、悪いことばっかじゃないわよ。あんた、元が普通よりいいからそんなに目立っちゃったわけだし」
「そうなんですか⁉︎」
『元がいい』なんて生まれて初めて言われたことだったので、思わずにやけてしまった。
「それも気づいてなかったの?」
「・・・」
あれ?私、バカにされてる?
「いくらあのバカ男だって、元が悪けりゃ近寄ってこないわよ」
ネエさんは汚いものでも見るような顔で言い捨てた。
「は。はあ」
「あんたってさ、中学生の頃メイクとかしなかったの?」
「うっ・・・」
痛いところをつかれた私は、次の言葉が思い浮かばなかった。
「っていうか、してたわけないか」
ネエさんはあっさりと話をまとめた。
「どどど、どうしてですか!」
私にだってちょっとくらいプライドってものがあるのよ!
「だって、そのメイク、中学生がしてたら間違いなく呼び出しもんよ」
ネエさんはさも当然とでもいうような顔で、玉子焼きを口に入れた。
「そ、そうです、ね・・・」
ケバいなんて笑われた後の私には、もはや反論する気力も残っていなかった。
「・・・ネエさん、メイクのこと詳しいんですね」
私は思ったことをポロッと呟いた。
「当然じゃない。女子の基本よ」
ほらごらん、とでも言うようにネエさんは軽く顎をあげて、私を見下ろした。
「え?ね、ネエさんもメイクしてるんですか?」
私は、思わずネエさんの横顔を凝視した。
「ふふ。わからないでしょ」
ふんと鼻息を鳴らしながら私を見た。
「わ、わからないです」
そう言いながらも、私はまじまじとネエさんの顔を見つめた。
「ふふん。そう言うメイクしてるからね」
さらに得意げになるネエさん。
「え?どこをどんなふうに」
「うーん。それ、企業秘密なんだけど・・・」
「教えてください!私、姉さんみたいにキレにになりたいです!」
「私、綺麗?」
智さんは色っぽく目をパチパチさせた。
「はい、もちろんです!」
「あら、意外といい子じゃない。仕方ないわねぇ。じゃあ今日の放課後うちにいらっしゃい。ところでさぁ、いい加減その『ネエさん』って言うのやめてくれない。私は『智』よ」
「わ、わかりました。とも、さん。ところでおうちって?」
「ちょっと借りるわね」
と智さんは私の返事も待たずに制服のポケットからスマホを奪い取った。
「ほら、ここ」
智さんがパパッとスマホを操作して、地図を出した。
「便利よねぇスマホのマップって。私んちまでちゃんと表示されるんだから。ただこの評価は納得いかないけど」
智さんが返してくれたスマホには、ヘアサロン「Hu-Ka」が表示されていた。評価は星2.5。
「智さんちって美容院なんですか?」
「サロンって呼んで・・・って言うほどおしゃれじゃないけどね。母ちゃん一人でやってるし、来るのほとんど地元のおばあちゃんばっかだしね」
と笑いながら答えてくれた。
「でも、腕はいいのよ、かあちゃん。昔、新宿のカリスマだったらしくって、時々、わざわざあっちから来るお客さんもいるくらいだから」
「へえー、すごいんですね」
私は素直に感心した。
「あんたって、素直よねぇ」
「ば、バカにしてます⁉︎」
「あら、褒めたつもりだったのに」
智さんは私を見て笑った。
屋上は端が少し高くなっていて金網も割としっかりしている。端がちょうど椅子くらいの高さで眺めもいいらしく、ところどころ座っている生徒がいて、みんな楽しそうにお弁当を食べていた。
ドアを開けた私が屋上を見回すと、他の人たちから少し離れた場所にネエさんが一人で座っていた。金網越しに見える空と不思議なコントラストになっているネエさんは、夜に見るより少し繊細な感じがした。
「あの、来ました」
「ほらここ、座んなさいよ」
私は言われるままネエさんの横に座って、お弁当を開いた。
「あ、あの・・・」
「なに、いくらちゃん」
「あの、その呼び方なんとかなりませんか?」
「別にいいじゃない、かわいいし。本名でしょ?」
「あの国民的アニメの赤ちゃんみたいに言われるの、嫌なんです!」
「あ、そ。じゃあなに、『湊』とか呼べばいいわけ」
とネエさんは私の顎をクイっとつまんで顔を寄せてきて、少し低い声で私の名前を呼んだ。
「あ、あの・・・」
美形の男子の顔が突然目の前にやってきて、一瞬頭の中が真っ白になった。
「ぶわっはっは。あんた本当にブサイクね」
とネエさんは目をそらしながら大笑いした。
「ううっ・・・いい加減にしてください・・・」
私ってそんなにブサイク?ちゃんとお化粧もしてるのに。
私は悔しさのあまり、お箸でウインナーをぷすぷすと刺した。
「あら、ごめんなさい。そういえば隣の眠り王子、目覚めてた?」
眠り王子?
「・・・ああ、隣の席の人ですか?いえ。寝てましたけど」
「あ、そう・・・」
ネエさんは少し困ったような顔をした。
その眠り王子がどうしたと言うのだろう。
「ところで、その・・・尚弥のことなんですけど」
「そうよね。ところであんた、そのメイク、誰に教わったの?」
「お、お母さんですけど」
「なるほどねぇ。そういうことか」
ネエさんはなぜだか納得した様子だ。
「何がなるほど、なんですか?」
「なんて言うかさ、ケバいのよ。簡単に言うと」
「ケバい」
私は愕然とした。ちゃんとしたメイクだと思ってたのに。
「そのメイク見てさ、あいつ、あんたなら簡単にやらせてくれると思って近づいたのよ。ほら」
と、私と似たメイクの、どう見てもイケイケ女子高生の画像を見せられた。
「私、こんな風に見えてるんですか」
「まあ、多少は落ち着いた感じあるけどね。ママのテクニックだし。でも、普通の子たちよりはね」
とネエさんは周りに座っている女子高生たちを見た。
わたし、イケイケなんだ・・・
「でもさ、悪いことばっかじゃないわよ。あんた、元が普通よりいいからそんなに目立っちゃったわけだし」
「そうなんですか⁉︎」
『元がいい』なんて生まれて初めて言われたことだったので、思わずにやけてしまった。
「それも気づいてなかったの?」
「・・・」
あれ?私、バカにされてる?
「いくらあのバカ男だって、元が悪けりゃ近寄ってこないわよ」
ネエさんは汚いものでも見るような顔で言い捨てた。
「は。はあ」
「あんたってさ、中学生の頃メイクとかしなかったの?」
「うっ・・・」
痛いところをつかれた私は、次の言葉が思い浮かばなかった。
「っていうか、してたわけないか」
ネエさんはあっさりと話をまとめた。
「どどど、どうしてですか!」
私にだってちょっとくらいプライドってものがあるのよ!
「だって、そのメイク、中学生がしてたら間違いなく呼び出しもんよ」
ネエさんはさも当然とでもいうような顔で、玉子焼きを口に入れた。
「そ、そうです、ね・・・」
ケバいなんて笑われた後の私には、もはや反論する気力も残っていなかった。
「・・・ネエさん、メイクのこと詳しいんですね」
私は思ったことをポロッと呟いた。
「当然じゃない。女子の基本よ」
ほらごらん、とでも言うようにネエさんは軽く顎をあげて、私を見下ろした。
「え?ね、ネエさんもメイクしてるんですか?」
私は、思わずネエさんの横顔を凝視した。
「ふふ。わからないでしょ」
ふんと鼻息を鳴らしながら私を見た。
「わ、わからないです」
そう言いながらも、私はまじまじとネエさんの顔を見つめた。
「ふふん。そう言うメイクしてるからね」
さらに得意げになるネエさん。
「え?どこをどんなふうに」
「うーん。それ、企業秘密なんだけど・・・」
「教えてください!私、姉さんみたいにキレにになりたいです!」
「私、綺麗?」
智さんは色っぽく目をパチパチさせた。
「はい、もちろんです!」
「あら、意外といい子じゃない。仕方ないわねぇ。じゃあ今日の放課後うちにいらっしゃい。ところでさぁ、いい加減その『ネエさん』って言うのやめてくれない。私は『智』よ」
「わ、わかりました。とも、さん。ところでおうちって?」
「ちょっと借りるわね」
と智さんは私の返事も待たずに制服のポケットからスマホを奪い取った。
「ほら、ここ」
智さんがパパッとスマホを操作して、地図を出した。
「便利よねぇスマホのマップって。私んちまでちゃんと表示されるんだから。ただこの評価は納得いかないけど」
智さんが返してくれたスマホには、ヘアサロン「Hu-Ka」が表示されていた。評価は星2.5。
「智さんちって美容院なんですか?」
「サロンって呼んで・・・って言うほどおしゃれじゃないけどね。母ちゃん一人でやってるし、来るのほとんど地元のおばあちゃんばっかだしね」
と笑いながら答えてくれた。
「でも、腕はいいのよ、かあちゃん。昔、新宿のカリスマだったらしくって、時々、わざわざあっちから来るお客さんもいるくらいだから」
「へえー、すごいんですね」
私は素直に感心した。
「あんたって、素直よねぇ」
「ば、バカにしてます⁉︎」
「あら、褒めたつもりだったのに」
智さんは私を見て笑った。
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