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生倉 湊

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私たちは、やっぱり教室で寝ていた奏くんを拾ってから奏くんの家に向かっていた。
「奏、まさかとは思うけど、掃除なんてしてないわよね」
「・・・うん」
「湊、覚悟しといてね。男の二人暮らしっていうのを・・・」
智さんの顔色が変わった。
「湊、覚悟はいい?」
ドアの前に立った智さんが、険しい顔で私を見た。
なんの覚悟なのかわからないけど、私はこくんと頷いた。
「奏、開けなさい」
言われれるまま、奏くんは玄関の扉を開けた。
「うっ・・・な、なに・・・これ・・・」
それに臭い!
私は生まれて初めてゴミ屋敷というものを見た。
「きょ、今日はまだいい方よ。ねえ奏、ヘルパーさん頼んでないの?」
「・・・1週間くらい前に、来た・・・」
「頼みなさいよ!っていうか、週3くらいで定期的に来てもらいなさい!あんたこのままじゃ病気になるわよ」
「・・・あんまり帰らないから」
「・・・ま、まあそうね」
奏くんの言葉に、智さんは頷いた。
「え?どういうことなんですか?」
「奏はね、近くの楽器店に入り浸ってるのよ。あのピアノ借りてるとこ」
「ああ・・・」
私はなんとなくわかった気がした。
「ってことはこれってお父さん一人で?」
「そうなのかしらね」
と智さんは靴のまま部屋の中に入り、どこからかゴミ袋を拾ってきた。
「湊もこれ」
と準備よく手袋まで渡された私たちは、なにもしない奏くんをほっぽって部屋のゴミを集め始めた。
「ふう、こんなもんかしらね」
ほうぼうに落ちていたゴミを5袋分くらい集めたところでなんとか床が見えた。
「靴、脱がないでいいですよね」
「ええ。土足の家ってことで」
全室フローリングだったことを幸いに、私たちは靴のままでいることにした。
「奏、ヘルパーさん明日来てもらいなさい」
「・・・ああ」
奏くんは智さんに言われるまま、どこかに電話をした。
「湊わかった?寂しいとかいうレベル超えてるでしょ」
「は、はい・・・」
私はそれ以上、何も言えなかった。
「明日、来るって」
「そう、よかったわ。これ以上ここにいても仕方ないわね。じゃあ次、行きましょうか」
「次って・・・」
「ああ、ここよりはマシよ。楽器店」
智さんもホッとしたような顔で、私たちは家を出て行った。
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