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第一章:始まりの世界 ”チーム対抗戦” 

#161.チーム対抗戦の始まり”66”  バトル開始3 主導権

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 選手入場コールが告げられて程良い緊張感の中、
円板に上がる哀川。
「バトル始めぇーーーーっ」
 立花からの開始の合図が言い終わると森元は両手
を前に突き出して余裕の笑みを浮かべる。余裕のつ
もりなのかと思ったが相手のペースに付き合う必要
が無い事を充分理解している哀川は両手を肩幅以上
に広げて新しい構えを見せた。
「おいっ。その構えは俺をナメてるのか?」
 森元は初めて見る構えに怒りを覚えた。
「そっちこそ、パワーなら絶対に負けないって顔し
てムカツクけどな」
 口ケンカも得意な方である哀川が速攻で返して、
相手の様子をうかがう。
「へぇー。そうなんだ。ケンカ空手じゃ無敗の哀川
本人が、そういう言葉を俺に伝えてきてるんなら、
この勝負も面白くなるってもんだ。ワクワクするぜ」
「あっそう。別にこっちは先鋒や大将戦じゃないん
だし特に興味ないけどな」
 本音が飛び出る哀川。
「ほぉー言ってくれるじゃないか。まぁこれに負け
ても空手じゃ負けないって言い訳するんだろうけど。
どうだ違うかい?」
 最初から用意していた対哀川用の台詞を放つ森元。
「柔道家ってのはオシャベりが多いのかい!?」
 相手の質問には答えず、腕時計を見る哀川。
「……」
 森元はズボンの右ポケットからハンカチを取り出
して何も言わずにジッと見ている。
 普段は短気な森元だが今日は母親から誕生日に、
貰った新品のハンカチを持参して頭を冷やす作戦に
出たのだ。母親に書かれたであろう丸文字が側で、
見ていた哀川にも容易に確認出来た。
「あぁ悪かった。無駄話が多かったな」
 森元が哀川の直前の行動を思い出し進行が遅れて
いる事を理解して口を閉じた。結局、主導権は、ど
ちらも、にぎる事が出来ずに平行線を保ったまま、
競技での勝負へと突入するのであった。
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