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エピローグ

一週間後 (5)

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 偶然、西新宿エリアで仕事をしていた恩田はサユリからの電話に
ワンコールで出た。
「サユリだけど今から迎えに来て欲しいの?」
「こんな時間帯にか? 仕事終わりでもなさそうだがトラブルか?」
「うん。恥ずかしい話だけどビアンカと路上で掴み合いの喧嘩しち
ゃったの」
「まさか顔は殴ってないよな?」
「それは無いよ。顔は私たちの商売道具だから……」
「って事は髪の毛の引っ張り合いか?」
「うん。そんなとこ……」
「で仲直りしたのか?」
「うん。で仲直りしたよ。凄く美味しかったんだか
らねー。今度食べて見てよ」
「ラーメンね。気が向いたら食べるよ。ちなみに何て店だ?」
「来々軒、西新宿店だよ。出前桶に書いてあったの」
「分かった。頭の中にインプットしたよ」
 丁度歩いて行ける距離に居るから二人とも俺が連れて帰るよ。
「二人も大丈夫なの!?」
「西新宿署には知り合いの警部さんが居るから相談すれば問題ない
よ」
「スッゴーイ。顔広いんだね!」
「まぁな」
「ドンッ」
 話に夢中になり過ぎて誰かと肩がぶつかる音がした事が分かる。
相手は出前桶を持っていて出前の店員みたいだ。
「今日は機嫌があまり良くない方だがアンタは俺と喧嘩したいか?」
「いえっ素人なんで勘弁して下さいっ!」
 飲食店の服装で最初は分からなかったが顔を良く見ると
と分かった。ゆっくりと出前桶の方へ視線を向けるとサユリの言っ
ていた来々軒、西新宿店と電話で聞いた同じ文字が入っていた。
(本気でラーメン屋やってたのか!?) 
「次からは気を付けないとな」
 法海候は武闘派でない”恩田の顔”を一向に記憶していないので、
去り際、帽子を脱ぐと辮髪の先端近くから隠していた胡桃くるみを取り出
して左手の掌の中央に置いて両指を交差させるように右手を重ねた
のを確認すると思いっきり力を入れて胡桃の殻を粉々に粉砕した。
「ペキベキッペギベキッ」
(またその音かよっ最悪だぜっ) 
 恩田はその音を三度、聞いた瞬間に恐怖の映像が蘇ってきて強烈
に尿意を催してきており、全速力で電柱の陰に隠れてズボンのチャ
ックを降ろすと通行人に構わず、立ちションをして失禁する事は免
れていた。

 法海候が居た事で署に入れなくなった恩田は遅れる事をショート
メールで送信して喫茶店に入りながら心の中で呟いていた。  
(サユリには悪いがは死んでも食べないよ)


 (了)

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