黒庭 ~閉ざされた真実~

五十嵐 昌人

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捜査開始

26. 八日目、自宅への来訪者Ⅱ

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 コンビニで水曜発売の週刊少年雑誌を立ち読みしてから、お弁当と手作りパン
のコーナーを行ったり来たりしている。何にするか散々迷って、焼肉弁当と玉子
スープに決めた。

 家に着いたのは午後六時を少し過ぎた頃だった。少し早いとは思ったが、夕食
の準備を始める。ヤカンに水が入っている事を確認して火を掛ける。水が沸騰す
るまでの間、焼肉弁当をコンビニ袋から出してラップを外し、割り箸と特製ダレ
を取り出してテーブルに置いた。

 笛の音が部屋中に鳴り響いた所で、火を止めて弁当を電子レンジで温める。
その間、大きめのマグカップに玉子スープの素を入れてお湯を注ぎ、主食を待つ
だけとなった。
「チンッ」
 温め終了を知らせるレンジ特有の音が鳴り響くと中身を取り出してテーブルに
置いた。テレビを着けてニュース番組を観ながら食事を始める。特製ダレは残り
半分になってから、かけた。二つの味を楽しむ為だ。

 国内のニュースの内容は大手スーパーでの万引きが年々増えていて深刻化され
るであろうという話であったが殺人などの凶悪犯罪は起きていなかった。食事が
終わると食後の楽しみであるプリンを冷蔵庫から出して頬を緩ませながら口に運
んでいく。空になった所でゴミを分別してテーブルを台拭きで綺麗に拭いてから、
緑茶を入れようと準備をしている所で玄関の呼鈴が鳴った。
「どちら様でしょうか?」
「同期の小林だ」
 後藤は小林を中に招き入れて座布団に座らせると再びヤカンに火を掛けた。客
に冷めた御茶を出す訳にはいかない。小林は用が済んだら帰るから気を遣わない
でくれと言ってくれたが大人の世界は言葉をそのままの意味として捉えると後で
大変な災難が待っている事が多いので社会人として常識ある行動を心掛けていた。
 熱い緑茶と甘い煎餅をお盆に載せて席に戻り、小林と対面する。礼を言うと緑
茶で喉を潤してから本題を口にする小林。
「署内で、お前の事を聞いてきた」
「俺を笑いに来たのか?」
「お前、本気で言っているのか!?」
 鋭い視線を向ける小林。その視線に耐え切れなくなり、威圧的な態度を改める
言葉を口にする後藤。
「冗談だ」
「それなら続きを話すぞ。取り調べ中の事故として処理されて上層部の方から、
やり方に問題があったんじゃないかとマニュアル化まで話が進んでいる状態だ」
「そんなに大事になっているとは知らなかった……。迷惑を掛けて済まない」
「やり方が変わるのは今に始まった事じゃないさ。俺が言いたい事は、いつもの
お前らしくないって事だ。あの事件を担当してから変になったと西新宿署、全員
が噂してるぞっ」
「そうか……」
「黒沢警部に関しては、お前への指導が甘過ぎるって話も出ているんだ」
「そんな話まで出てるのか……」
 後藤の気分は井戸へ落ちたみたいに深く沈んで行くが何処かで優しい言葉と感
じられるロープが放たれるのを待っている。
「たった一つの過ちが仲間や上司を巻き込んで警察全体の信用を落とす事になる
んだ」
 ツーブロック右側の刈り上げ部分をなぞりながら攻撃の手を緩めない小林。
「確かに今回は、やり過ぎたと思ってる」
「それで反省したつもりか?」
「そんなに俺を責めるなよ。同期だろ!?」
「同期だからって皆がお前を甘やかしてたら、お前はダメになる。本当はこんな
事を言いたくないが、お前がした事は、ただの八つ当たりだ」
「……」
 止めの一撃で正当化していたダムが決壊し涙が零れ始めてテーブルに顔を沈め
て号泣する後藤。
 小林は何も言わず、近くにあった新聞の広告を手に取って裏返すと白紙にメッ
セージと番号を残して部屋を出て行った。
 後藤は、ベッドの上に乗って涙を手の甲で拭き取ると仰向けになり、しばらく
天井を眺めていた。号泣したのは忠犬ハチ公を観た以来だった。自分の不甲斐な
さが招いた結果に耐えられなかったのである。小林が来る迄は自分を正当化して
理性を保ってきたのだが核心を突かれて逃げ道を絶たれてしまったのだ。後藤は
今の自分としっかりと向き合う事にしてベッドから起き上がると冷めた緑茶を飲
み干してからテーブルに置かれた広告を眺めた。

 そこには小林の筆跡を思わせる右肩上がりの走り書きで短い文章と携帯電話の
電話番号が書かれていた。

 後藤は湯飲みや盆を片付けながら小林が書き残していた文章を頭の中で反芻し
ていた。
「困った事があったら、いつでも連絡して欲しい」
 後藤にとっては何よりの救いの言葉であった。飴が施されるのが遅かった気も
するが両目からは感謝の嬉し涙が溢れ出ていた。
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