黒庭 ~閉ざされた真実~

五十嵐 昌人

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捜査開始

注意:54. 十日目(謹慎二日)、自宅作業『動画確認』

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 帰宅すると真っ先にトートバッグをキッチンテーブルの椅子に置いて喉の渇
きを潤す為にグラスを片手に持って冷蔵庫からペットボトルに入ったミネラル
水を取り出し、空中で並々に注いだかと思うとゴクゴクと豪快に飲み干してか
ら、キャップも閉めずに、そのまま放置してリビングのソファーに深く腰を掛
けて前傾姿勢のまま臨戦態勢をとった。

 荒くなる呼吸をある程度整えさせてから携帯電話から小林の最新メールを選
択し添付ファイルを起動させた。

 動画は素人が撮った事が分かる程、手振れが酷かったが映像が鮮明なので、
何が起こっているのかは確認する事ができた。小雨の中で歌舞伎町の表通りを
思わせる景色が映っていて、飲み屋から一人の酔った男が出て来ている所から
始まっていた。その酔った男の機嫌がすこぶる悪いのか、周りの人達は距離を
開けるように歩いていた。そして路地を曲がって裏通りに入ってからはゴミ箱
を蹴りまくって生ゴミを飛散させている光景が映し出されていた。この時点で
は撮影している人物が誰なのかは分からないし、メインで写っている男の顔の
焦点が微妙にズレているのでイマイチはっきりしなかった。

 そうこうしている間に仮眠していたホームレスのお兄さんと思われる人の足
が酔っ払いの男の足に引っ掛かり、転倒してしまうアクシデントが起こってい
た。倒れた男は相手の胸倉を掴んで罵声を浴びせながら相手の出方を伺ってい
る。不慮の事故という主張を通そうと弁解するも一切聞き入れないのか酔った
男は「お前、俺に喧嘩売ってるんだろ? 謝罪なんてのは必要ないんだって
。男と男の勝負って奴だよ」
「私は暴力が嫌いなんですよ。勘弁して下さいっ」
「俺様の言葉が聞こえなかったのかい? えっお兄さんよ。謝罪は要らないっ
て言ったよな? 違うかい」
「でも、そうしたら私はどうすれば良いんでしょうか?」
 相手の男は謝罪の一点張りで難を逃れようとしたが、その言動が逆に火に油
を注ぐキッカケを作り出してしまう引き金となったようで酔った男の顔が強張
っていく様子が見てとれた。
「命乞いした時のような必死な顔を見せてくれよ~」
「ホームレスだと思って無茶な要求でしたら警察呼びますよ!」
「ほら、やっぱり喧嘩売ってるじゃんよー」 
 その言葉が言い終わると同時に右足でホームレスの兄さんの脇腹を蹴りまく
り、うずくまって丸まった所で髪を掴んで向きを替えさせると左足で更に強烈
に脇腹を蹴りまくっていく。
「どうだ。痛いだろ? 泣きたくなったか?」
「い、痛いです。もう充分気が済んだ筈です……」
「お前が決める事じゃない。決定権は俺にあるんだよ。今日の俺は止まんねぇ
ぞっ!」
 決定権を持っている男は近くに落ちていたのが1970年代から80年代で
小学校の冬に活躍した大型ストーブとして使われていた物であった事が分かっ
たが本来捨てて良い大きさを遥かに超えていたので不法投棄である可能性が高
かった。その物に興味を示した男は物色し始めていた。ボコボコにされた男は
両足に力が入らないので両肘を懸命に使って前進を試みていたが慣れないせい
で時間に対して距離が進んでいない事が分かる。2分程、蹴りを入れ続けて、
目当ての部品である直径2mmの鉄の棒の解体に成功すると笑みを浮かべて、
右手にしっかりと握り締めていた。

 男はホームレスの兄さんの腹這い姿勢を足首を掴んで静止させた後、仰向け
にさせると「ひゃははっ」と奇声を上げながら、前歯に向かって何度も何度も
鉄の棒を振り下ろしていた。
「ガッガッ……。ガッガッ……」
 歯と金属がぶつかり合う音が響いているが人通りが少ない時間帯なので誰も
助けに入る者は居なかった。

 相手の前歯が四本折れた事を確認すると暴行を加えた男は命乞いをするかの
確認をしようと顔を上げさせようとしたがニット帽を目深に被っていたので、
口元しか確認できなかったが失禁している事が分かると問い質す事はしなかっ
た。
 無抵抗な男は肩を揺らしながら「泣き顔だけは見ないで下ひゃい」と懇願し
たので、それ以上の暴行とはならなかった。
「今日はこの位で勘弁してやるよ。次に会ったらキッチリとトドメ刺すからな。
俺様は、お前が助けを呼ぼうとした警察だよ。アイツの事は、大嫌いになった
けど大好きでもあったんだよ。死なんて望んでいなかったんだ……」
 最後の台詞を残して警察だと言った男の顔が映し出されて愕然がくぜんとする後藤。

 目にモザイクがしっかりと入ってはいるが間違いなく黒沢警部の顔であった。

 最後に、あれから1年後というテロップが入ると一人の男がカメラの前に立
っており、顔がアップにされると入れ歯を外して前歯が四本無い事をアピール
しているように見えた。
「あの日のように圧倒的な暴力を見ず知らずの他人から受けたとしたら、普通
の人間だったら人間不信や精神が病んでいくんだろうけど、俺は違ったんだよ。
だってそうだろう。言い掛かりにしたって、あそこまでは無茶しないだろうし
知らない相手に悪魔の仕業かと思ったよ。実際、こんなに一方的にブチのめさ
れて俺は恐怖と同時に恍惚とした表情に変わって興奮して震えが止まらなくな
ったんだよ。会社をリストラされて生きる目標を失っていた時期に俺に強い生
命力を与えてくれる凄いキッカケになった出来事だった。今もあの時の事を思
い出すと勃起する位だ。これでも神様に感謝してるんだぜ。あの男に復讐する
までは俺は絶対に死ねないからよっ」
 映像はここで止まっており、このドM体質に目覚めた男が小林の言っていた
”ヤバイ奴”だという事が分かったが、その異様な二人の光景に吐き気を催して、
トイレに駆け込んで込み上げてきた物をひたすら吐く行為に歯止めが掛からな
かった。吐しゃ物の中にはオムライスに使われたであろう鶏肉の残骸もあった。
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