嘘つき悪魔の夢

Pomu

文字の大きさ
4 / 6

4

しおりを挟む
『おはよう、ヒカル』

『おはよう、カゲノ』



ヒカルは、花が咲くような笑顔で、俺の名前を呼んだ。

俺が人間だったら、その笑顔をずっとそばで見ていられただろうか。

いや…きっと俺が人間だったとしても、その笑顔が俺に向けられることはなかっただろう。



それでも…たとえ他の誰かに向けられた笑顔だとしても、惑わされ、魅せられてしまったこの心は、永遠に変わらないのだろうから。

たとえヒカルがもう二度と、この世界に来ないとしても。





『…ヒカル』

『なに?』

『…もういいよ。もう終わりにしよう』

『え…?』



初めて、ヒカルの髪に触れた。

そっと撫でると、柔らかな感触と、あの目眩がするような甘い花の香りがする。





『どういうこと?』

『…もう、ヒカルの夢から出ていくことにしたんだ』



そんな顔しないで。

何も、大切な人がいなくなるってわけじゃない。



俺が消えたら、ヒカルの中に残っている俺の記憶も少しずつ薄れていく。



そうして出会ったことさえ、なかったことになるから。





『ヒカルには、大切な人がいるでしょ?』

『…でも…』

『ヒカルが幸せなら、俺はもうそれでいいんだ。ここで、少しでもヒカルのそばにいられて幸せだったから…もう、充分だよ』



俺のことなんて、ヒカルは考えなくてもいいんだよ。

俺は悪魔だから。

ヒカルは人間だから。

俺たちは、違う世界で生きなきゃ駄目なんだよ。







『最後にさ、一つだけヒカルにお願いがあるんだ』

『…なに?』

『……ピアノ、弾いてくれないかな』



その音色を、サヨナラの代わりにしたいんだ。





『……わかった』



この別れが、もう何を言っても変わらないものだと理解したように、ヒカルは覚悟したように一つ小さく息を吐いて、椅子に座った。



鍵盤に置いた指先が震えて、大きな瞳に涙が滲んで、そして、最初の音が響いたと同時に、零れ落ちた。



泣きながらピアノを弾くヒカルは、綺麗だった。



不完全な心を持つ人間とは思えないほど、綺麗だった。







最後の一音が鳴り終わると、ヒカルは俺を真っ直ぐに見つめて、そして、怖いくらいに美しく微笑んだ。



そこで、何故か俺の意識はフワリと宙を舞うように軽くなって、急激な睡魔に襲われた。





ヒカルが、何かを言ってる。

だけど、よく聞こえない…





『ねぇ、カゲノ』





ヒカルの声が、二重になって俺の頭に響く。





『もし俺が、叶人を永遠に手に入れたら…』





永遠に…手に入れたら…?





『今度は…』





怖いくらいに美しい微笑みを浮かべた唇は、最後に確かにこう言った。





『俺がカゲノの夢の中に会いに行ってあげる』





意識が途切れる瞬間、俺は全てを理解した。







あぁ…俺は、悪魔に恋をしていたんだ………


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

秘密

無理解
BL
好きな人に告白するために一緒に帰る約束をした、ある放課後

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...