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4 麓の村にて
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翌日、私たちはひとまず麓の村へ向かった。
ドラゴンに乗って下山しては目立ちすぎるので、登山時と同様に、リャマに乗って下山した。アリシアも、食べ物を貰いにいくためにリャマを保有していたため、私が徒歩で下山する必要はなかった。
この麓の村は、アリシアの小屋へ行くための中継地点として優秀過ぎる位置にある。そのため私は、この村で作られた毛皮やチーズを相場よりも高く買い取ることで、村民と友好的な関係を築いてきた。
ヒト族至上主義が常識とされるこの周辺の国々では、この村の人々のようなヒト亜族――白い肌でないヒト族――は差別の対象となっているため、ヒト族の私が村人たちと友好を深めるのは難しかったが、地道な対話で徐々に信頼を得られるようになった。自分たちの作った商品を相場よりかなり安い値段で買い叩かれるのが普通だった村人にとって、相場以上の値段で取引に応じる私の存在は、いい意味で異質だったのだろう。
「あ、ヨルムさん。お疲れさまです」
この村の私が借りている家で待っていたのは、私の雇っている護衛の一人、ザリアード。被雇用者の立場を弁えて敬語を使ってくれているが、私よりも年上の屈強なドワーフ族の男で、経験豊富な彼の助言にはよく助けられている。
もう一人の護衛の姿は見えないが、恐らくは自室で寝ているのだろう。
「おはよう、ザリアード。明日の朝にはこの村を出てウインスターズへ向かうから、準備しておいてくれ」
「わかりました」
明日の朝に出発できるようにすべく、今日中に村の人々との取引を済ませておく。
買い取った商品を荷馬車に載せ、私とアリシアが乗ってきたリャマを預かっておいてくれるよう依頼し終える頃には、すっかり日が暮れていた。
借りていた家に戻ると、ザリアードが食事の準備をしてくれていた。
私とアリシアが帰ってきたことに気づいたザリアードは、
「もうすぐできるので、ヴァヴィリアを呼んできてくれませんか?」
と言ってきたので、私は軽く手を上げて了承の意を示し、二階にあるヴァヴィリアの部屋をノックしにいく。
「ヴァヴィリア。そろそろ夕飯ができるから降りてきてくれ」
返事がない。寝ているのか、
「……あーい」
と思いきや、ドア越しにか細い声が聞こえてきた。寝起きなのだろう。
結局、ヴァヴィリアが降りてきたのは、食卓に食事が並び終えた頃だった。昼から飲んでいたのだろう。どう見ても酒が残っている表情だし、頭の上にある特徴的な獣の耳は垂れている。
「おはよう、ヴァヴィリア。お酒はほどほどにね」
「いやいや、こんなのは飲んだうちに入らないって。ねえ、ザリー」
「そうですよ。彼女は私の半分ほどしか飲んでいませんから」
いくらヴァヴィリアがの心身共に卓越したヤマネコ族の戦士だとしても、恐ろしいほど酒に強いドワーフ族であるザリアードの半分も飲酒している時点で、完全に飲み過ぎではある。
「明日の朝には出発なんだから、飲み過ぎないでよ」
そう言うアリシアは、両手に持つビールの入った陶製のジョッキのうち一つをヴァヴィリアに渡した。
言動不一致に思えるが、アリシアとしては、酔いやすいワインは飲まずにビールで済ませてくれということなのだろう。私もその意見に完全に同意だ。
「アリシアも言うようになったねぇ。初めて会った時の可愛らしい震え姿が懐かしいよ」
「あの時は、まだ何も知らなかったからね」
一口付けただけでもう酔っ払い特有の昔話を始めたヴァヴィリアの軽口を受け流しながら、アリシアは私にもビールを渡してくる。明日のことを考えると飲まないほうがいいのだろうが……まあ、少しくらいならいいか。
ドラゴンに乗って下山しては目立ちすぎるので、登山時と同様に、リャマに乗って下山した。アリシアも、食べ物を貰いにいくためにリャマを保有していたため、私が徒歩で下山する必要はなかった。
この麓の村は、アリシアの小屋へ行くための中継地点として優秀過ぎる位置にある。そのため私は、この村で作られた毛皮やチーズを相場よりも高く買い取ることで、村民と友好的な関係を築いてきた。
ヒト族至上主義が常識とされるこの周辺の国々では、この村の人々のようなヒト亜族――白い肌でないヒト族――は差別の対象となっているため、ヒト族の私が村人たちと友好を深めるのは難しかったが、地道な対話で徐々に信頼を得られるようになった。自分たちの作った商品を相場よりかなり安い値段で買い叩かれるのが普通だった村人にとって、相場以上の値段で取引に応じる私の存在は、いい意味で異質だったのだろう。
「あ、ヨルムさん。お疲れさまです」
この村の私が借りている家で待っていたのは、私の雇っている護衛の一人、ザリアード。被雇用者の立場を弁えて敬語を使ってくれているが、私よりも年上の屈強なドワーフ族の男で、経験豊富な彼の助言にはよく助けられている。
もう一人の護衛の姿は見えないが、恐らくは自室で寝ているのだろう。
「おはよう、ザリアード。明日の朝にはこの村を出てウインスターズへ向かうから、準備しておいてくれ」
「わかりました」
明日の朝に出発できるようにすべく、今日中に村の人々との取引を済ませておく。
買い取った商品を荷馬車に載せ、私とアリシアが乗ってきたリャマを預かっておいてくれるよう依頼し終える頃には、すっかり日が暮れていた。
借りていた家に戻ると、ザリアードが食事の準備をしてくれていた。
私とアリシアが帰ってきたことに気づいたザリアードは、
「もうすぐできるので、ヴァヴィリアを呼んできてくれませんか?」
と言ってきたので、私は軽く手を上げて了承の意を示し、二階にあるヴァヴィリアの部屋をノックしにいく。
「ヴァヴィリア。そろそろ夕飯ができるから降りてきてくれ」
返事がない。寝ているのか、
「……あーい」
と思いきや、ドア越しにか細い声が聞こえてきた。寝起きなのだろう。
結局、ヴァヴィリアが降りてきたのは、食卓に食事が並び終えた頃だった。昼から飲んでいたのだろう。どう見ても酒が残っている表情だし、頭の上にある特徴的な獣の耳は垂れている。
「おはよう、ヴァヴィリア。お酒はほどほどにね」
「いやいや、こんなのは飲んだうちに入らないって。ねえ、ザリー」
「そうですよ。彼女は私の半分ほどしか飲んでいませんから」
いくらヴァヴィリアがの心身共に卓越したヤマネコ族の戦士だとしても、恐ろしいほど酒に強いドワーフ族であるザリアードの半分も飲酒している時点で、完全に飲み過ぎではある。
「明日の朝には出発なんだから、飲み過ぎないでよ」
そう言うアリシアは、両手に持つビールの入った陶製のジョッキのうち一つをヴァヴィリアに渡した。
言動不一致に思えるが、アリシアとしては、酔いやすいワインは飲まずにビールで済ませてくれということなのだろう。私もその意見に完全に同意だ。
「アリシアも言うようになったねぇ。初めて会った時の可愛らしい震え姿が懐かしいよ」
「あの時は、まだ何も知らなかったからね」
一口付けただけでもう酔っ払い特有の昔話を始めたヴァヴィリアの軽口を受け流しながら、アリシアは私にもビールを渡してくる。明日のことを考えると飲まないほうがいいのだろうが……まあ、少しくらいならいいか。
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