双子の番は希う

西沢きさと

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一つではない二人だから

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 柔い唇を食み、舌を差し入れる。
 口の中を味わい尽くすほど丹念にくちづけ、服を脱がし、全身に触れていく。途中、翠の指先が震えていることに気づいて安心させるように掌を重ねれば、ぎゅ、と強く握られた。
 ようやく触れられるという喜びと、初めてのことへの恐れ、それから未だに胸に燻っているであろう迷い。それら全てを抱えながら身を委ねてくれていることが、本当に嬉しい。
 翼にも余裕などないのだが、せめてただの自己満足にだけはならないよう翠の反応を見ながら行為を進めていく。触れれば触れるほど、翠の理性がどんどんと溶けていくのがわかった。響く甘い声が、翼の脳も蕩けさせていく。
 胸の尖りも、耳朶も、舐めて噛めば気持ち良さそうに嬌声が上がる。舌を這わせる度に、発情期のΩの体はαにとっては媚薬なのだと痛感した。
 ずっと触れたかった翠に触れている。繋がることができる。そう思うだけで目眩がして、油断するとすぐにでも達してしまいそうだった。

「んっ、待った、翼、……ゴム、っ」
「わかってる」

 隘路の準備を整え、己の猛りに手を伸ばす。焦った様子で訴えてくる翠にも見えるように薄い膜をかぶせていけば、それはそれで恥ずかしかったのか着け終わる前に視線を逸らされた。
 男性同士の交わりでコンドームを装着するのは、衛生面での理由が大きい。だが、αとΩにとっては避妊のためというのが第一の理由だった。発情期に避妊具を用いずに交われば、十中八九、Ωが身籠る。

(それだけは、絶対に避けなきゃいけない)

 どれだけαとしての本能が訴えてこようとも、頷くわけにはいかない。自分たちは人間なのだ。獣のように子孫を残すことが最優先ではない。

「入れるぞ」

 繋がる前の最後の確認として問いかけるように声をかければ、翠は小さく頷きを返してきた。興奮でくらくらする頭を軽く振り、翼は深呼吸ののち、慎重に腰を進める。
 Ω特有の分泌液のおかげか、予想よりはすんなりと中に入ることができた。淵に先を当てた時の一瞬の強張りは、緊張と、それから翠の心理的なものだろう。
 本当に、一線を越えることへの迷い。

 翼に躊躇はなかった。
 翠も、結局は止めなかった。

 そこからは、貪るように互いを求めた。

「ぁ、あっ、イく、ぅ、──ん、ァああッ!」
「……くっ、……ッ」

 翠が達したことで、ぎゅう、と中が狭くなる。耐えきれず、搾り取られる形で翼も欲を吐き出した。
 一旦落ち着いたそれを引き抜き、用をなさなくなった避妊具を外す。結んで床に放り投げ、新品を取り出した。足りない。まだ全然満たされない。
 ふと視線に気づき顔を上げれば、ぼんやりとした瞳がこちらを見つめていた。

「……つばさ」

 どこかねだるように名を呼ばれた途端、腰の熱はすぐに芯を取り戻した。装着の手間に苛立ちながら、万が一にも破れないよう慎重にコンドームを着ける。
 くたりと力が抜けている翠の体を抱え上げ、そそり立つ己の上に腰を落としてやる。再び分け入った中は、待ち焦がれていたかのようにすんなりと翼を受け入れた。
 自重でより深く入り込んだ衝撃に、翠が甲高い声を上げる。

「ぁアあッ、……ッ」

 奥にたくさん触れたい。その欲望を満たすため、深くまで入れたまま腰を回せば、耳元で甘やかな喘ぎが響いた。普段は滑舌のいい翠の呂律が回っていないことが、愛おしくて仕方がない。

「ぁ、おく、だめ、っ」
「駄目になるくらい、気持ちいいんだ?」
「いぃ、から、だめなんだっ、て……っ」

 宥めるように頬を流れている涙を舐めてやれば、蜂蜜のような甘い香りがふわっと広がる。翠のフェロモンの匂いだ。
 これに狂わされるのは自分だけでいい。……けれど、今はまだ、翼だけのものじゃない。
 かっと頭に血が昇り、衝動的に腰を突き上げた。

「やっ、ァああぁ!!」

 悲鳴と同時に、翠の全身が強張った。奥深くを突かれた衝撃で達したのだろうが、よく見れば彼の中心は何も吐き出していない。けれど、翼を包み込む柔らかな壁は、快感を伝えたいかのように大きくうねっていた。

「翠……中でイッた?」

 びくびくと震え続ける背を優しく擦れば、それすらも感じてしまうのかぎゅう、と体が丸まる。

「悪ぃ、ちょっと加減できなかった」

 ごめん、と重ねて謝るが、返る声はない。まだ絶頂から戻ってこれていないのだろう。少し落ち着かせるため、翼は安心させるようにそっと抱き締めた。

「ふ、ぅ、……つばさ、ぁ」
「ああ」
「ずっと、きもちいい、……なにこれ、おれ、変だ……っ」

 泣きながら戸惑いを隠さない翠は、まるで迷子になった幼子のようだ。自分を翻弄している相手に縋り付いてくる姿は、保護欲と同時に征服欲を煽った。
 普段、学校などでは兄として背筋を伸ばしていることの多い翠が、翼にだけこうして弱さを見せてくる。そのことが、ひどく自分を興奮させる。

「そのままずっと、変になってろよ」
「ぁ、あ…ッ、ばか、ぁっ」
「っ、可愛いな、翠」

 翼が触れ、動くことで、翠が理性を溶かしていくのがわかる。翠の頭の中が、翼と翼がもたらすことだけでいっぱいになっていくのがわかる。
 歓喜に胸が震えた。

 ずっと欲しかったものだ。ずっと、自分だけのものにしたかった。

 自分たちは二卵性だ。一つだったことなど一度もない。だからなのか、一つに溶け合いたいわけではなく、ただ自分が翠をどろどろに溶かしたかった。感じ入った声も表情も体の反応も、なにもかもを全て余すことなく味わいたい。
 二つの個体だからこそ、翠を自分のものにできる。翼も、翠のものになれる。

 生まれた瞬間から共にいる特別と、今、まるで世界に二人だけしかいないような心持ちで繋がっていた。

「あッ、ァ、また、……ッ」

 奥を穿つ度に甘く達している翠が、助けを求めるように首に腕を巻きつけてくる。あられもなく善がる姿に、脳の回路が焼き切れそうだった。

 深く、もっと深くまで味わいたい。翼以外、誰も触れることのない場所まで、もっと。

 翠の体をベッドに押し倒し、彼の両膝の裏に腕を回して抱えあげる。逃げられないよう己の体で覆うように固定してから、押しつぶすように腰を動かした。

「ン、あッ、ゃ、んッ」
「は、っ、もっと、奥まで入れろよ、……みどり」
「も、それいじょ、ぅ、むり、だ」

 翠の言葉とはうらはらに、どこまでも沈みこめそうなほど内壁が蠢く。最奥へと誘うような中の動きに逆らわず、ぐっ、と腰を押し込み、突き当たりを捏ね続ける。ふ、と壁がゆるんだ感覚があった。
 ぐぷり、と先が入り込む。

「ぃ、ァ────~~ッ!!」

 瞬間、翠が声にならない叫びを上げた。全身が痙攣を起こしたかのように震えている。
 翼も、誂えたかのようにぴったりと吸いついてくる強い力に、思わず歯を食いしばった。

「ッ、……はっ、くそ……っ」

 目眩がするほど気持ちがいい。

「ぁ、っ、はいっ、て……」

 ここがオメガの奥の奥なのだ。到達できるのは、入ることを許された自分アルファだけ。
 内から湧き立つ衝動に突き動かされるまま、無心で腰を動かした。離さないとばかりに吸いついてくる中を貫いては揺さぶる。

「つばさ、ぁ、ッ、なに、やぁ……っ」
「大丈夫だから、っ、安心して、感じてろ……っ」

 未知の感覚が翠を襲っているのだろう。自分だって、こんな強烈な快感を得たのは初めてだ。
 多分、ひどく繊細な場所のはず。一度動きを止めてから息を吐き、あまり強くならないよう気をつけながらゆっくりと抜き差しする。その甲斐あってか、少し落ち着きを見せた翠だったが、なぜかすぐにすすり泣きを始めた。

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