最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。

高井うしお

文字の大きさ
2 / 90
第一章

1話 辺境の村ハーフェン

しおりを挟む
 名無しはたき火に枯れ枝を放り込んだ。パチパチとその火に炙られているのは先程捕まえた蛇である。
 ここは王都を離れた街道近くの川辺である。名無しは懐からあの男の指を取りだした。そしてその指に嵌まっていた指輪を外す。

「ハンナからデュークへ……」

 指輪の刻印にはそう印してあった。デューク、それがあの男の名前なんだろう。ハンナは妻か恋人か。なぜそのような存在が居てあの組織に足をつっこんだのだろうか。おおよそ職にあぶれたか何かして身を持ち崩した末だとは思うが。
 名無しには当然家族は居なかった。気が付けばあの組織に居て、暗殺の術を覚えさせられていた。覚えなければそれは即、死を意味した。

「こんな森だったな……」

 ナイフ一振りを渡されて、幼い名無しは一週間森で一人で過ごした。森の獣相手にナイフを振るい、雨を凌げる穴蔵で眠り、食べられるものを自分の舌で確かめながら探した。

「さ、焼けた」

 名無しはこんがり焼けた蛇に食らいつくと、バリバリと食らった。

***

「この道で合っているはずだが……」

 半月後、名無しは辺境の村ハーフェンの近くまで来ていた。すでに日は落ちかけて辺りは薄暗くなって来ている。丘を登ると、その先に集落があるのが見えた。

「あれがその村だな」

 名無しは村の内部に入った。習性で物陰に隠れながら、寝静まった村の様子を見て、人を訪ねるのは日が昇ってからにしようと考えた。すると、視界の端に集落からぽつんと離れた廃屋があるのが見えた。

「今夜はあそこで一眠りするか」

 名無しは廃屋に近づき、扉を開けた。

「うわっ!」
「うーん?」

 なんと、廃屋だとばかり思っていた家には人が住んでいたようだ。

「すまない、間違えた」

 名無しはすぐに出て行こうとした。その足を止めたのは老人の呟きである。

「デュークか……?」
「……」

 なんと、訪ねるつもりの家はここだったようだ。

「ちょっと待ってな、今ランプを付けるから」

 老人は眠そうに目をこすりながら明かりをつけた。部屋で眠っていたのは白髪の老人と八歳くらいの小さい子供だった。子供も目をしぱしぱしながら起き上がった。

「深夜にすまない。廃屋だとばかり思ったから」
「デューク、帰ってきたのか」

 老人は名無しの言う事が聞こえなかったかのようにしわしわの手を伸ばした。

「……」
「もしかしてパパ!?」

 子供の方は老人のその反応を見てそう叫んだ。

「いや、人違いだ」
「ばかもん!」

 突然、老人は大声を出した。

「都で一旗あげるなんて夢みたいな事を言って出て行ったきりなんの便りもよこさんで……」

 老人はさめざめと泣き出した。名無しはどうやらこの老人は少々呆けているらしい、と気づいた。

「ねぇ、パパなんでしょ? ヨハンおじいちゃんずっと待ってたんだよ。もちろんあたしも」

 老人の名前はヨハンというらしかった。赤毛の少女は名無しをさっきからパパ、と呼んでいるがその少女の父親にしては名無しは若すぎた。

「……すまんな」

 誤解だ、と続けようとした所でヨハン爺さんはベッドを指差した。

「今日はもう遅い。休もう」
「……ああ」

 誤解を解くのは明日にしよう。明るいところで見ればこの爺さんも息子でないと分かるかもしれない。
 名無しはそう思って、部屋の端にあるベッドで眠った。

 ――翌朝。名無しが目覚めると老人と少女はまだ眠っていた。名無しは特にやることもないのでじっとしていると、少女が起きてきた。

「ちょっと待ってね。朝ご飯作るから」

 少女は暖炉に火を熾すと、麦のかゆを作った。

「はい、これパパの分。こっちはヨハンじいちゃんの分」

 こと、と名無しの前に木の器が置かれる。名無しはそれを黙って食べた。

「はーあ、ふわふわの白いパンとか食べたいなぁ」
「贅沢言う出ない。クロエ、デュークの様に都に出てもどうにもならんぞ」
「あの、それなんだが、それは俺ではない……」
「な、デューク」
「……」

 名無しはなんだかこのまま自分がデュークでもいいような気がしてきた。どうせこの村のどこかに住むつもりなのだし。

「パパ、お土産はないの?」
「お土産?」

 いつでも名無しの装備は最低限だ。装飾品なども付けていない。

「じゃあ……これ」

 名無しはポケットをまさぐった。手にあたったのは紐だった。それをクロエに渡す。

「わあ、綺麗な飾り紐」

 クロエはさっそくそれで髪をまとめた。紐の正体は第二王子の政敵を密かに屠った時のものである。

「そんなにうれしいか?」
「うん、ありがとう! パパ!」
「……」

 名無しはなんとも言えない気分になって俯いた。

「しかし、デュークが帰ってきてくれて本当によかったのう、このままではクロエが心配でわしは死ぬに死ねなんだ」
「もう、やめてよヨハンじいちゃん」

 一見、明るい家庭の光景だった。しかし実際は名無しはデュークではない。名無しは食事を終えると立ち上がった。

「パパ、どこ行くの?」
「ちょっと村を見てくる」

 そう言って家の裏手に行った。取りだしたのは本物のデュークの指である。

「ちょっと借りるな……」

 名無しは指輪を抜き取ると、指を地面を深く掘って埋めた。

「お前がやりたかった『田舎でのんびり』ってやつをちょっとやってみようと思う」

 名無しは埋めたデュークの小さな墓に、そこらへんの小さな花を添えた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
あるところに、数百年周期で現れる魔王がいた。 人族から生まれ、闇に魅入られし者、妖魔を統べる魔王と呼ばれる存在。 度々現れては、人々を恐怖のどん底に貶めてきた。 此度、その魔王との戦いに終止符を打った男がいた。 名をシグルド卿といい、六十歳を迎えた老人の男だ。 元平民にも関わらず、爵位を得て史上初の将軍にまで上り詰めた英雄である。 しかし、魔王と一騎討ちの末に相打ちになった……と世間では言われていた。 当の本人は実は生きており、しかも若返っていた。 そして自分が生きていることが知られると、色々と面倒なことになると悟った。 それにどうせなら、自由の身になって世界を旅したいと。 これは役目を終えた英雄が旅をし、様々な人と出会い、美味い物を食べていく物語。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます

エリモコピコット
ファンタジー
【12/6 日間ランキング17位!】 「魔法で直せば一瞬だ。お前の手作業は時間の無駄なんだよ」 そう言われて勇者パーティを追放されたシスター、エリス。 彼女の魔法は弱く、派手な活躍はできない。 けれど彼女には、物の声を聞く『構造把握』の力と、前世から受け継いだ『DIY(日曜大工)』の知識があった。 傷心のまま辺境の村「ココン」に流れ着いた彼女は、一軒のボロ家と出会う。 隙間風だらけの壁、腐りかけた床。けれど、エリスは目を輝かせた。 「直せる。ここを、世界で一番温かい『帰る場所』にしよう!」 釘を使わない頑丈な家具、水汲み不要の自動ポンプ、冬でもポカポカの床暖房。 魔法文明が見落としていた「手間暇かけた技術」は、不便な辺境生活を快適な楽園へと変えていく。 やがてその温かい家には、 傷ついた銀髪の狼少女や、 素直になれないツンデレ黒猫、 人見知りな犬耳の鍛冶師が集まってきて――。 「エリス姉、あったか~い……」「……悔しいけど、この家から出られないわね」 これは、不器用なシスターが、壊れた家と、傷ついた心を修繕していく物語。 優しくて温かい、手作りのスローライフ・ファンタジー! (※一方その頃、メンテナンス係を失った勇者パーティの装備はボロボロになり、冷たい野営で後悔の日々を送るのですが……それはまた別のお話)

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

処理中です...