マイアの魔道具工房~家から追い出されそうになった新米魔道具師ですが私はお師匠様とこのまま一緒に暮らしたい!~

高井うしお

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24話 お休みの日には

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 『猫の言葉翻訳機』が猫のアルマを救い出した翌日、マイアは朝食を食べながら今日やるべき事を思い浮かべていた。

「そういえば……マイア、休日はとっているか?」
「え?」
「我々は雇い人じゃないんだ。休日は自分で決めないと体を壊すぞ」
「ああ……それもそうですね」

 マイアは魔道具を作るのが楽しかったから、つい忘れていたがそう言われたらその通りである。そういえば街で買った小説もまだ読めていない。

「それじゃ今日はお休みの日!」
「うん、そうしろ」

 お休みの日。仕事を忘れて好きな事をしよう。まずは小説を読む。小説はお茶と一緒に。お茶には……なにかつまむお菓子が欲しい。

「じゃあ焼き菓子を作ります! アシュレイさんも食べますか?」
「ああ、食べる」

 マイアは知っている。このしかめっ面の魔術師が、実は甘い物が好きだという事を。

「ゴーレム、オーブンに火を入れて」

 マイアは小麦と砂糖、卵を混ぜて溶かしバターを入れ生地を作る。アシュレイ好みにちょっとだけオレンジの蒸留酒とはちみつを加えて金型に入れてオーブンで焼き上げた。甘いふんわりと香ばしい香りがキッチンからあふれ出す。

「はい、出来上がり」

 マイアは、ミトンをしてオーブンから焼き菓子を取り出した。黄金色の焼き目がついて、今日は大成功だ。

「うまそうだ」

 早速焼きたてにアシュレイは手を伸ばす。

「あ、熱いですよ!」
「あふふふふふっ」
「だから言ったのに……」

 マイアの制止を聞かずにつまみ食いをしてやけどしたアシュレイをマイアは睨んだ。

「神霊の聖なる加護を我が身に、癒しの力を与えたまえ……」
「回復魔法の無駄遣いですね」
「もうちょっと言いようがあるだろう」

 アシュレイは文句を言いながらもう一つつまんだ。マイアは焼き菓子を入れた籠を取り上げた。

「もう……」

 マイアはお茶を淹れて小説を用意して、焼き菓子の籠を抱えてソファーに座った。するとアシュレイもやってきて横に座り、異国のなにやら読めない文字の分厚い本を開いた。
 マイアはアシュレイの分のお茶も淹れるとテーブルの上に置いた。

「ありがとう」
「それ、なんの本ですか?」
「神話と生命と精神の事を書いた哲学書だ。原書で読みたいと思っていたものが手に入った」
「ふー……ん?」

 嬉しそうなアシュレイとは裏腹にマイアはその難解そうな本に戸惑いながらアシュレイの隣に座った。お互い何も話さないまま本を読み、時間が流れる。
 アシュレイはそんな沈黙を心地よく感じていた。こうしていると、まだマイアが魔法陣の書き方を覚えたての頃を思い出す。教本を見ながらマイアが魔法陣を描いている横で、アシュレイは見守りながら後ろで本を読んでいた。

「……ん?」

 気が付くと、マイアはアシュレイの肩に頭を乗せて、小説を読みながらウトウトしていた。アシュレイはマイアの手から小説を取り上げてテーブルに置くと、彼女を起こさないようにそっと膝枕した。その無防備な寝顔にアシュレイはくすりと笑った。

「ここの所の怒濤のような魔道具作りの疲れがたまっていたんだろう……ゆっくりお休み」

 マイアはまったく気付くことなくアシュレイの膝の上で寝息を立てている。その規則的な呼吸と伝わるマイアの体温にいつしかアシュレイもこっくりこっくり船をこぎ始めた……。

「う……ん……」

 それから一時間くらいたって、マイアはふと目を覚ました。すると目の前にアシュレイの顔がある。アシュレイは本を抱えたまま前のめりにマイアに覆い被さるようにして眠っていたのだ。

「な、なな……なんてすか!」

 マイアは思わずアシュレイの顔に平手打ちをかましていた。

「いてっ! あ、マイア起きたのか」
「起きたのかじゃありません! なんで……なんで……」

 マイアの顔が火のついた様に赤くなる。まるで息がかかるくらい近くにアシュレイの顔があった。あと少しで……キスができそうなくらい。

「なんでって、お前が肩の上でゆらゆら寝ていたからだな……」

 アシュレイはじんじんと痛む頬を抑えてぶつぶつとマイアに抗議した。

「まったく……」
「ご、ごめんなさい」
「ああ痛いなぁ」

 アシュレイはへそを曲げて大袈裟に痛がってみせる。そんなアシュレイもいつの間にか眠ってしまってあんな事になっていたのに少なからず動揺していた。

「ごめんなさいって」

 マイアがおろおろしながらアシュレイの顔を覗き混んだ。

「ひっかいちゃったりしましたか……?」

 アシュレイはそんなマイアの顔を見るのが段々楽しくなってきた。
 
「そうかもしれん……」
「え、みせてください」

 マイアがそっと頬を抑えるアシュレイの手を引きはがした。けれどはたいただけのそこに当然傷なんてない。

「なんでもないじゃないですか!」
「弟子にひっぱたかれた心が痛いんだ」

 哀れっぽく芝居するアシュレイ。それを見てマイアはアシュレイの頭を両手で掴んだ。

「神霊の聖なる加護を我が身に、癒しの力を与えたまえ! ……はいこれで治りました!」
「回復魔法の無駄遣いだな」
「どの口が言うんですか」

 マイアは無理矢理アシュレイに回復魔法をかけると、くるりと踵を返してキッチンに向かった。そして振り向かないままアシュレイに問いかけた。

「お茶冷めてしまったし……おかわりいりますか、アシュレイさん」
「ああ、貰おう」

 マイアはまた少しどきどきする胸を押さえてお茶を淹れ直した。そしてソファーに座り、また小説を読み始めた。アシュレイもまた、横に座って専門書をめくっている。
 渋めのお茶と、ほんの少し肩に伝わる互いの体温の温かさを感じながら……休日はゆっくりとすぎて行った。
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