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16話 新しい同僚(中編)

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 セシリーがやって来て、仕事自体は確かに楽になった。悔しいけど、セシリーは手際もいいし、ケリーさんは実務より監督の方に力を入れられる様になっていた。ただ、困ったのが……。

「アンナマリー、始めるわよ」
「はい、奥様」

 今日も奥様から薬草学の講義の声がかかる。洗いかけの皿をとりあえず置いて、そちらに行こうとすると、セシリーが私を引き留めた。

「ちょっと、こっちはどうするのよ」
「ごめん、セシリー。後はお願い!」

 だって、奥様をお待たせするわけにはいかないじゃない。セシリーには悪いけど、こっちを優先させて貰うわ。
 そうして講義を終えて、仕事に戻ろうとすると今度はジェラルド司祭が私を呼びに来た。

「アンナマリー、忙しいところ悪いんだが患者だよ」
「ええ、分かりました」

 鎌で手を切ったおじさんの切り傷を癒やした後、ようやく職場に戻るとセシリーが腕組みして待っていた。

「皿洗いも掃除も全部終わったわよ」
「あ……そう……ごめん」

 私が離席している間に仕事はほとんど終わっていた。不機嫌そうなセシリー。

「まぁ、カリカリしなさんな。セシリー」

 ケリーさんはそう言ってセシリーを宥めてくれるけど……。こんな風に私とセシリーの関係はギクシャクしたまんまだった。

「どうしたらいいものやら……」
「どうしたんだい」

 裏庭で一人ぼやいていると、ジェラルド司祭がやって来た。心配そうに私の顔をのぞき込む。澄んだ若草色の瞳にドギマギと視線をそらして私は答えた。

「いえ、セシリーとどうもうまくいかなくって」
「そうかい? 良い子だと思うんだけどな」

 そりゃあ、ジェラルド司祭から見たらね。きびきび仕事もこなすし愛想もいいし……。あれ、私いいとこないな。

「私がぽんこつだから、セシリーをイラつかせてしまうみたいです」
「そんなことないさ、アンナマリーはよくやってくれてるよ」

 そう言ってジェラルド司祭は私の丸まった背中をポンポンと叩く。また子供扱いされてるなぁ。

「ありがとうございます! 私、がんばります!」

 事態は何も好転していないけど、イケメンの激励にちょっと元気が出た。ファイティングポーズをした私を見たジェラルド司祭はにこやかに頷くと仕事に戻っていった。

「よし、私も仕事に戻ろっと」
「……何サボってるのよ」
「ひゃっ!」

 またしてもいつの間にか背後にセシリーが立っていた。いちいち心臓に悪いんだけど!

「あんた……ジェラルド司祭になに触ってるのよ」
「ふぇ!?」

 触っていたのはジェラルド司祭の方だ……ってこれも語弊があるな。もう!

「セシリー、誤解よ」
「奥様に言いつけてやるわ」
「ちょっとちょっと、セシリー! 落ち着きなさいよ」

 言いつけたところであのモニカ奥様が動じるわけないって思うけど、セシリーの怒り方は尋常じゃない。

「だってずるいわよ、あんたばっかりお二人に可愛がられて」
「へっ」
「奥様と二人っきりでなんかしてるし、ジェラルド司祭にはなんかしょっちゅう呼ばれているし」

 それは薬草学の勉強と患者の治療だわ。セシリーは私がちょくちょく仕事を中座して抜ける事に腹を立てるよりもそれを贔屓と捉えているようだった。
 この年の女の子は難しいなぁ。だから私は同年代とは距離を置いて来たんだけどね。

「うーん……」
「何か言いなさいよ、アンナマリー」

 イライラと私を問い詰めるセシリー。それは私の回復魔法が理由なんだけど。勝手にセシリーに話して良いか分からない。

「セシリー、それには理由があるの。でも今は話せない。奥様にいいつけるなりなんなり好きにするといいわ」
「まっ、生意気ね」

 私が冷静に言い返すとセシリーは更に顔を赤くしていたが、私は無視して仕事に戻った。



「ねぇ、アンナマリー。セシリーが私に言ってきたのだけれど」
「はい、何と?」

 セシリーのやつ、ご丁寧にちゃんと奥様にご注進さしあげたらしい。

「ジェラルドとあなたが親しすぎるって」
「司祭様には、そのセシリーの事を相談してたんですよ」
「あら、そうなの?」

 案の定、あっさり誤解は解けた。不思議そうに顎に手をやる奥様に私は考えていた事を切り出す事にした。

「奥様、私……薬草学を奥様が私に教える理由をちゃんとセシリーに話します」
「うーん……そうねぇ」

 これなら面倒な聖女のくだりはセシリーに話さなくても大丈夫だろう。納得するかどうかは分からないけど。

「同僚として働くにあたってやりにくくて仕方ありません。そもそもメイドに奥様自らなにかを教えるのも異例ですし」
「アンナマリー、私たちの配慮が足りなかったわね」
「いいえ……元々、追加でメイドを雇うことになったのも私のせいですし」

 申し訳なさそうにモニカ奥様は眉を寄せた。しばらく考え込んだ後、奥様は私を見た。

「だったらいっそ、あなたの能力の事を私から説明した方がいいんじゃないかしら」
「えっ!? 奥様、いいんですか?」
「セシリーも、ずっとここで働いて貰うならその方がいいわ。きっとどこかでボロがでるもの」

 それもそうかもしれない。今の所おおっぴらに本来のまま回復魔法を使えるのは自宅とこの屋敷の中だけだ。他にも私と奥様や司祭様との会話からバレるか分からない。
 それでコソコソするよりは、ちゃんと話して口止めをしておく方が得策だろう。

「ジェラルドと私からセシリーに話をするから呼んで来てちょうだい」
「はっ、はい奥様!」

 私はセシリーを呼びに居間から厨房に向かった。セシリーは分かってくれるかしら。私だっていがみ合いながら働きたい訳じゃない。
 これでセシリーの態度が軟化するといいんだけど。私は祈るように彼女の姿を探した。
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