絶対働かないマン

奥田恭平

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無職は優しいからな。とくに自分に

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「ねえ、お兄ちゃーん。おーい」

 俺の部屋のドアをノックする音。
 その音に続いて、ドア越しに愛すべき我が妹、夏葉の声が聞こえる。
心配そうな声。
無理もない。ここ数日、俺は部屋からほとんど出ていないのだ。

「おーい、お兄ちゃーん。大丈夫、入っていい?」
「ああ、入っていいぞ」

 夏葉はそっとドアを開けると、隙間からちょこんと顔を覗かせる。
 俺を見つめる不安げな目。

「ずっと部屋に籠り切りだね? 体調悪いの? 性病になっちゃった?」
「部屋に籠って性病になるヤツはいない! 俺はむしろ世界で一番性病にならないタイプだ」
「そ、そっか」
「安心しろ。少々、作業に熱中しただけだ。こっちに来い。見せてやろう」

 俺は手招きして夏葉を部屋に誘う。

「なに? また性病?」
「いや、あれはあれで継続中だが、どう考えても時間がかかる。ブログっていうのはすぐにアクセスが増えるわけじゃないからな。まあ長期戦だ」
「そうなんだ……」

 残念ながら性病ブログはまだまともには機能していない。
 アクセス数も一日に数十レベル。
 とてもじゃないが、物が売れるレベルにはない。
 しかしこれは予想通り。Google様も出来立てホヤホヤのサイトを上位に表示させることはない。
 焦らず継続することが大切だ。

「で、まあ、ゆっくりやるしかないんだが、このままゆっくりしていると貯金が尽きる」

 俺が絶対働かない宣言をして、すでに三週間が経過している。
 それまでに得られた収入はlineスタンプの120円ほど。
 それに対して支出は月に十五万ほどかかる予定。
 二人のともほとんどお金を使わない生活をしているとはいえ、食費もかかれば、光熱費もかかる。それに携帯代も。
 覚悟はしていたとはいえ、完全なる赤字生活。
 少しでも着実にお金を稼いで安心を得たい。
 そう思うのが人間の性である。
 そこで俺は並行して、もう一つの企画を走らせることにしたのだ。
 その準備のために部屋に籠ること三日。
 ようやく夏葉に見せてもいいかと思えるところまで進んだ。
 それが……。





「タロットの小部屋……!?」

 夏葉は俺のノートPCに表示されているブログのタイトルを読み上げる。

「ああそうだ。タロット占いをはじめようと思ってな。それでまずはタロット占いのサイトを作った」

 性病ブログを作り続けた日々。
まだ収益は出ていないが身に着けた知識は無駄にならない。
その知識を利用して、タロット占いを行うためのサイトを作ったのだ。
また、いきなりブログをはじめても、アクセスがまったくない。その反省点を踏まえて。ついでにタロット占いを自動で行う、ツイッターアカウントも作った。
その名も『タロット占いができるツキノワグマ』、恋愛運などのキーワードを入れてリプライすると自動でタロット占いを行う優れもののクマなのだ。

「お兄ちゃん、クマ好きだね……」
「なにせ、クマは描き慣れてるからな」

 というか、ほぼクマしか描けない。lineスタンプでクマのイラストを描きまくった日々もまた無駄にはならないのだ。
 とにかくこの働き者のクマが俺のサイトにお客さんを誘導してくれる。
そしてサイトを見たのちに、ココナラで有料のタロット占いを購入してもらう。
そんなプランだ。
 同じ失敗はしない。俺は学習する無職なのだ。
 夏葉も俺のこのプランに納得してくれるはずだと思ったのだが……。

「あのね、お兄ちゃん。そもそもの話なんだけど……」
「なんだ?」
「お兄ちゃん、タロット占いできたっけ?」
「…………むしろ、いつから出来ないと錯覚していた?」

 俺は堂々と切り返す。
 しかし夏葉はまったく納得していない!

「だって、お兄ちゃんが占いしているところ見たことないもん!」
「夏葉にはあえて見せなかったが、お兄ちゃんは知る人ぞ知る、伝説のタロット占い師だったんだ」

 そう言いながら、俺はノートPCの周りに積まれたタロット占いの教則本を肘で夏葉の死角へと押しやる。

「絶対ウソだよ!」
「ウソではない。俺は知る人ぞ知るタロット占い師。その〝知る人ぞ〟の中に夏葉が入ってなかっただけだ」

残念ながら夏葉ままだ納得していないようだ……。
まあ、いまのところ知る人ぞが俺一人なのだから仕方がないが。

「……それでお兄ちゃん、ちゃんとタロット占いはできるの?」
「そこは安心しろ。むしろかなり自信がある」

 俺はこの三日、タロットの勉強と練習を猛烈に行った。
 カードの意味はもちろん。歴史、さらにはタロットに関連する占星術、カバラ、秘密結社の歴史まで。
 はっきりいって、そんじょそこらの占い師より詳しい自信がある。

「……お兄ちゃんのことだから、猛勉強したんだろうけど、占い当たるの? 霊感とかあったっけ?」
「夏葉はタロットについて誤解しているようだな……いいだろう、少しタロットについて教えてやろう」

 タロット占いとは78枚のタロットカードを用いて行う。
 その78枚のカードからランダムに数枚のカードを選び、その意味するところを解釈する。
 ざっくり言えば、それがタロット占いである。
 つまりは、タロットは正しく読み解く知識があれば、解釈は似たようなものになるのだ。
従って、ベテランであろうが、新人であろうが、結論は同じ。
もちろん無職が占っても同じなのである!
別の占いにたとえるなら、手相占いがニュアンスは似ている。
生命線は誰が見ても生命線なのだ。
無職の財運線はさぞ短いことだろう。

「逆に霊感とかスピリチュアルなことを言ってカードの解釈を勝手にアレンジするのはタロットの歴史に対する冒とくだと俺は考えるね」
「……お兄ちゃん、いつの間にタロット占い師サイドの人間に」
「逆に権威だと思ってもらってもいいくらいだ!」

 俺は堂々と宣言する。
 タロットは全部で78種類、正位置と逆位地があるので156種類、それぞれに意味合いが複数あるので覚えなければいけないカードの解釈は1000を超える。
 それをすべて頭に叩き込んだのだ。はっきりいって地獄のような日々だった。
 まさに無職だからできる芸当。
 逆に変に霊感がどうとか言っている人間にタロットの知識で負ける気がしない。
 霊感よりは無職力だ。

「いいか、夏葉、占いで大事なのは当たる、当たらないじゃない。占いによって、依頼者を前向きな気持ちにすることだ。占いはそのためのきっかけなんだ。俺は無職であるからこそ、他人の悩みに寄り添える。そう思うな。……なにせ無職は暇だからな、寄り添い放題だ」

 俺は熱っぽく俺のタロット占い論を夏葉に語って聞かせる。
「そ、そっか……」
「それにな、占いってそもそも無職こそがやるべき行為な気がするんだ」
「え、えっと……」
「占いを頼む人って悩みを抱えてるわけだろ。事実上の人生相談みたいなもんだ。夏葉はもし相談するなら、どんな人に相談したい? やっぱり優しい人だろ」
「そうだね。厳しい人よりは……」
「無職は優しいからな。とくに自分に」
「なるほど……」

 夏葉は一応は頷いているものの、なかば諦めたような表情。
思い込みの激しい俺の性格を熟知している夏葉である。なにを言っても無駄だとわかっているのだろう。

「正直、無職が占いに向いているかはわからないけど、私はお兄ちゃんに悩みを相談したいよ。すっごく変だけど頼りになるお兄ちゃんだからね」

 夏葉はまっすぐに俺の目を見て言う。
 そう、夏葉は俺がなにをしようといつでも俺を信じ、応援してくれる。
実にかわいい妹である……。無職であるのが玉に瑕だが。

「よし夏葉のことも占ってやろう」
「えー、いいの?」
「ああ、なんでもいいぞ」
「えーとねー、うーんとねー、どうしようかな……」
「なんだ、恥ずかしいのか?」
「そうじゃなくてね。私も無職でしょ。普段なんにもしてないから、占ってほしいことがないんだよ!」

 占いと言えば仕事運か恋愛運。
 しかし夏葉はほぼほぼ自分の部屋でソシャゲをやっているだけ。
 仕事も恋愛も一切関係がない。

「なにかあるだろ? ガチャ運を占ってやろうか?」
「占ってる暇があるなら、ガチャ回すよ」
「だな……」

 俺の占いは無職に向いているとの信念は変わっていない。しかし占われる側としては無職はまったく向いていないのだった。







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