絶対働かないマン

奥田恭平

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いいだろう。この無職がずばりお答えしよう

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 ――ココナラ。
 それは様々なサービスを販売できるサイトである。
 イラストを描きます。声優をします。人生相談に乗ります。さまざまなサービスが個人によって出品されている。
 そして俺はそこにタロット占いを出品している。
 価格は一件につき、500円。
 破格の安さであるのだが……。
 まったく依頼が来ない。
 出品してすでに半日。タロットカードを握り締め、依頼の通知を待っているのだが、まだ誰からも依頼はない。
 俺の認識では女子といえば三度の飯より占いが大好き。やたらと血液型や、星座を気にしている。そんな感じだったのだが……。
 どうした女子たち。占い大好きガールよ、今日は忙しいのか? デートなのか? カフェにでも出かけてラテアートでもインスタグラムにアップしているのか?
 だったら、まずはこの無職から、カフェ運でも占ってもらってから出かけるのもいいんじゃないのか?
 ……とは思わないようだ。
なにが悪い? そもそも無職なのが悪いとして、それ以外に悪い点は……。
もう一度、出品の文章を見返してみる。

――タロット占い承ります。本格タロットでポジティブになるお手伝い。最速三十分……。 

 元々、ライトノベル作家、文章に関しては少しは自信がある。
 丁寧かつ、誠実な印象の出品文のはずだ。
 文章に問題がないとすれば……。
 やはり評価か。
 ココナラをはじめたばかりの俺のアカウントは当然ながら評価ゼロ。他にも占いを行っているアカウントは多数ある。なかなか評価ゼロの人間に依頼をしないだろう。

「しかたない、無料お試しやるか……」

 俺はぼそりと独り呟く。
 ココナラは基本500円以上の価格で販売するのがルール。
 しかし人数限定で、無料で依頼を受けるシステムがあるのだ。
 絶対働かないマン的には無料のサービスなど気乗りしないが、まず評価を得るためには仕方がないだろう……。
 俺は渋々、ココナラの出品に無料お試し枠をつけることにする。
 人数は五人に設定。
 ぼちぼち練習がてらのんびり五人を占うか……。
 と思いつつ、出品し直した瞬間。
 いきなり落札の知らせが!
 まだ出品して数秒。なにかしらの誤作動を疑ってしまうが……。
 何度見ても落札の通知。
 しかも、それを確かめているうちに、さらに一件。
 そして、すぐにもう一件!
 次々に落札されていく。ほんの数分で五件すべて落札されてしまった。
完全に想定外!
さっきまで永遠に売れないんじゃないのかと思うほどなんの動きもなかった無職の占いがまさかこれほどの速度で……。
 ……女子たちよ。無料が大好きなのだな。
 もちろん俺も無料は大好物、タダならなんでも欲しいタイプだ。
ただしタダ働きは大嫌いだが……。
有料でも働かないこの俺が、タダで……。
仕方あるまい、これは未来への投資。
五件同時はまったく想定外だが、気持ちを切り替えて、落札者に占って欲しい内容を送ってほしい旨、メッセージを送る。
こうして俺のはじめての占いは五人同時という、プロ棋士の指導対局のようなスタイルで開始された。
内容は五人中四人が恋愛関係。残りの一人は仕事運。
やはり女子は恋に生きているのだ。
それを想定して俺も恋愛関係の占いはかなり綿密に準備をしてきた。
 五人同時でも恐れる必要はない。
 ただし非常に急ぐ必要はあるが……。




   ◆

 二時間後、俺はパソコンの前でぐったりとしていた。
 恋占いがこれほど疲れるものとは。
 もちろん、体力は消費していない。
 ただモニターの前でタロットカードを並べていただけなのだから。
 体力ではなく精神力ががっつり削られているのだ。
 
――恋人が欲しい!
――結婚がしたい!
――私に出会いを!

 女子の切実な願いというか、欲望の塊のようなものがモニター越しにでもバンバン伝わってくるのだ。しかも五人分同時に!
 その切実かつ強い欲望にタロットで答える。
 もちろん、なるべく女子を傷つけないように、超絶気を使って。
タロットは制御できない。いい結果も悪い結果もでる。
 カードリーディングそのものは淀みなくできるのだが、とにかく伝え方に気をつかう。
 悪いカードが出てもなるべく、がっかりさせないように。
 オブラートで何重にも包んで。
しかも、俺の落札者はそろいもそろって恋愛運が悪いようで、不思議と悪いカードが出まくる。
頻繁に現れる死神のカード。
 そして災厄を暗示する塔、そして悪魔のカードまで。
 それでも俺は持てる限りのオブラートを駆使して言葉を包む。
 急速に擦り減る神経。
 試練はあるかもしれないが、それはあなたがより美しく輝くためのチャンスなのだ、などと言葉を換えて、伝える。
 それを繰り返すこと五人分。
 返信のメッセージを返すと、すぐにさらなる質問が返ってくる。
 そのメッセージに再度返信。それに対する再質問。
 五人が納得して占いを終了したのが二時間後であった。
 まさか占いがこれほどまでに疲弊する作業だとは……。
っていうかタダでここまでやらせるか!?
 女子の恋占いに対する情熱、恐るべし!
 しかし、その見返りはあった。
俺はついに評価を得たのだ。
 5段階で5の評価を4つと4の評価をひとつ。
 五段階評価で平均4.8である。
 無料の癖に4をつけた女子! どうかしてると思うぞ! あれほど気を使ったのに!
 とにかく、それなりの精神的代償は払ったものの、欲しかった評価は得た。
 これで準備は整った。
 再び有料で販売を開始するのみである。
 俺は無料お試し分を終了し、再度、500円での販売を開始した!
 さあ、悩める女子たちよ、評価平均4.8の俺に悩みをぶつけるがいい!
 五人同時まで答えて見せようじゃないか!
 …………。
 ……………………。
 …………………………………………。
「来ねえええええ!」
 有料にした途端に一切動きなし!
 さっきとまったく同じ状況。
 モニターを見つめながら、落札されるとポップアップで通知が来るように設定したスマホも握り締めているが、なにも起こらない。
 ――静寂。無の境地。
 このまま悟ってしまうんじゃないのかと思えるほどだ。
 ……。
 …………。
 …………………………。
 この無視されている感じは辛い。
 仕方ない。一回、無料お試しを……。
 すぐに落札された!
 一分で落札された!
 恋に悩む女子たちよ、えげつないぞ!
 どれほど金が払いたくないんだ!
 お前たちが恋に悩んでいる以上に、こっちは金に悩んでいるんだ!
 いいから金払え!
 と、思いつつも占いは丁寧にやる俺である。
 絶対働かないマンは根が真面目なのだ……。
 こうして無料で即売。
 有料で動きなしをさらに数度繰り返したのちだった。
 ――ついに有料での落札が発生した。
きっちり500円を払って俺に占いを頼む女子が現れたのだ。
もちろん相談内容は恋の悩み。
自分に運命の人は現れるのか、そして現れるとしたらいつなのか。
そんな内容である。

「いいだろう。この無職がずばりお答えしよう」

 俺はこれまでにない緊張感を持ってタロットカードをシャッフルし、ノートPCの前に展開させる。
 その結果は……。
 またしても登場する死神!
 おそらく知識がない人が見てもわかるほどの不吉なカードが次々と展開される。
 最初の有料ガールよ。
 なんて恋愛運がないんだ。
 できれば、いい答えを伝えたかったのに。
 しかし、占い師として、嘘を伝えるわけにはいかない。
 またしても俺はオブラートで言葉を包む作業に苦心することに。何重にも何重にもオブラートを。オブラートによる過剰包装である。
 丁寧に、丁寧に、少し先になるかもしれないが、可能性は完全にないわけではない、そのときまで自分磨きに専念するべきことを伝える。

 こうして、俺は占い師としての最初の依頼を完遂した。
 圧倒的な疲労感。
 そして達成感も少しだけ。
 俺の占いにみんな満足してくれたようで、評価は上々。嬉しいコメントも寄せられている。
 ほとんどが無料だけど、それでも人様に喜んでもらえるのは気分は悪くはない。
 俺は両手を高々と伸ばし、ひとつ大きく伸びをする。
 今日のところは店じまいとしよう。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 なにか飲み物でもと訪れたリビング。
 夏葉はすぐに俺の疲労困憊ぶりに気がついた。
 心配そうな顔で俺を見つめている。

「心配するな。ただタロット占いをしていただけだ」
「そっか、ついにはじめたんだねっ! すごいよ。それだけ疲れてるってことは……。もしかして、すごく忙しかった? 大繁盛?」
「……まあ、ある意味な」

 大繁盛であったがほとんど利益になっていない。
 そのことは夏葉には伝えられない。

「そっか、さすがだね。なにか飲む? コーヒー? 紅茶?」
「コーヒーをくれ」
「ラジャッ!」

 小さく敬礼すると、コーヒーを淹れべく、ダッシュでキッチンに向かう夏葉。
 俺はその背中を見ながら、コーヒーを飲む前から渋い顔を浮かべるのであった。











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