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時代はネムコインだな
しおりを挟む2017年12月12日。
絶対働かないマンである俺が仮想通貨であるネムコインとライトコインを10万円ずつ購入して、四日が経過していた。
この四日間、正直ほとんどなにも手がつかなかった。
ダウンロードしたコインチェックのスマホアプリをひたすら見つめていたのだ。
仮想通貨は驚くほど値段の上下がある。
10分で価格が10%以上変動することなど日常茶飯事なのである。
10%の変動は20万を突っ込んだ俺にとっては二万円の上下。ちょっと目を離しているうちに、数万円増えたり減ったりするのだ。
もしとんでもない暴落が起きていたらと思うと、コインチェックのスマホアプリから目が反せない。
本来は占いなどしながら、じっくりと結果を待つべきなのだろうが、ジェットコースターに乗っている気分。どんな占い師もジェットコースターに乗っている時は占いはしないのだ。
ただただジェットコースターに振り回されながら、ドキドキするばかりなのである。
「それで、お兄ちゃん、どうなったの? お金、なくなっちゃった?」
夏葉は俺の肩越しに顔を出してスマホを覗き込む。
家計を一としている夏葉にとっても貴重な20万、やはり気になるようだ。
「めちゃくちゃ増えた」
激しい上下動を繰り返す、仮想通貨の価格。
その結果、驚くことに、ネムコインは約2倍、ライトコインに至っては2、7倍になっていた……。
今なお価格は激しく動いているが、20万が少なくとも45万以上になっている。
「やったね、お兄ちゃん!」
本当にうれしかったのだろう、夏葉はその場でピョンピョンと飛び跳ねている。
手もぶんぶん振り回して……、まさに小躍りである。
「俺も正直、びっくりしている。まさかこんなに上手くいくとはな……。時代はネムコインだな」
「四日で二十五万以上増えてるって、これじゃ働くのが馬鹿馬鹿しくなっちゃうね」
「そもそも働いていないがな……」
俺は夏葉が小躍りしている手前、冷静を装っているが、正直、一緒に小躍りしたい気分ではある。
しかし、ここで小躍りするわけにはいかない。これはあくまで一時の状態。
上がる時があれば下がる時もある。
いまはこれくらいプラスであるというだけだなのだ。
テンションが上がりまくって、いまや小躍りを通り越して、できないロボットダンスをしている夏葉にもそのことを伝えなければいけない。
「おい、ロボットダンスはほどほどにしておけ、あくまでこれは現状だ。元に戻る可能性も、下手したらゼロになる可能性だってまだある」
「えーっ、でもいまコインを売ればこのお金貰えるんじゃないの?」
夏葉はカクカクと肘を固定したまま腕を振りながら言う。
「まあ、それはそうだ、仮に売ればな」
「じゃあ、売ろうよ、大勝利だよ」
「いや、売らない」
「なんでー? 売ってステーキ食べようよ!」
「ステーキを食ってどうする! 見失っているぞ、当初の目的を」
「当初の目的?」
「俺がネムコインを購入したのは、そのビジョンに共感したからだ。富の再配分、そして金銭的自由。絶対働かないマンが持つべきコインだから買ったんだ」
そう、俺はネムのビジョンに惹かれて購入したのだ、たった四日で値上がりしたからといって、売っぱらってしまっては、俺は俺の気持ちを裏切ることになる。
「じゃあ、どうするの?」
「決まっている。見ていろ」
俺は夏葉をノートPCを見るように促し、さっそくコインチェックのサイトにログインする。
もちろんスマホでも操作できるのだが、なんとなく、取引はPCで行いたいのだ。
俺がやると決めた取引とは……。
まずはライトコインを全部売却する。10万円が270510円に・
「なんだあ、やっぱり売るんだね。よかった、儲かったねえ」
夏葉はほっとしているが、残念ながら勘違いだ。
俺は手に入った27万を全額使って、ネムコインを購入する。
最初に購入した時は1XEM(ネムコインの単位)が29円だったが、すでに値上がりし63円、27万で4253.3XEMだ。
「わああ、全部買った! ちょっとくらいは残しておいてもいいのに! お兄ちゃんのバカァ!」
夏葉は俺の背中をポカポカと叩く。
儲かったと思ったお金がまた仮想通貨に。よほど、ショックだったのだろう、
しかし、こんなことでショックを受けてもらっては困る。
「夏葉、ここからだぞ。俺は絶対働かないマン、絶対働かないマンはこんなときは……倍プッシュだ!」
俺はそう言うと、さらに20万円送金し、全額でネムコインを購入した!
投資額はこれで40万。まさに倍プッシュである。
コインチェックの日本円は綺麗に消え、代わりにネムコインの単位、XEMの数字が一気に増える。
その数字の変化に呆然とする夏葉。
ショックで口をポカンと開けたままになっている。
「夏葉、大丈夫か?」
「……お、お兄ちゃん、……なにやってるの! 全部で40万円だよ。破産しちゃうよ! バカバカバカバカ!」
夏葉の背中ポカポカ攻撃の勢いが一気に増す。
どうやら本気で怒っているようだ。
ポカポカポカポカ……ボカボカボカボカ……ボカッ、ボカッ、ボコッ、ドゴッ、バキッ!
「おいっ! やめろっ! そろそろ本格的に痛いぞ……、おいっ、武器を手に取るな!」
ついにはテレビのリモコンを握り締める夏葉。
それを俺に向かって振り上げている。
人をリモコンで殴るのは貴ノ岩の例に漏れず、大問題である。
「だって、お兄ちゃんが……大事なお金を……」
「わかってる。落ち着け、これには訳がある」
「訳ってなに? どうせ味をしめただけでしょ。儲かったからもっと儲かるって」
「違う。夏葉はネムコインのことを知らなさすぎる。ネムコインにはハーベスティングがある」
いまだリモコンを握り締め、俺に向かって構えている夏葉にハーベスティングについて、やさしく説明をする。
まずビットコインにはマイニングという、パソコンを使ってビットコインを採掘するシステムがあること。そしてそれは非常に高額のパソコンと大量の電気代が必要で、一般人がマイニングを行うのは非常に難しい状況であること。
一方、ネムコインにはハーベスティングというシステムがあり、それを行うことでネムコインを獲得できる。それには高価なパソコンも大量の電力も必要ないこと。ただ資格として10000ネムコイン持っていれば、誰でも参加可能なこと……。
「……いまので10000超えたの?」
「そうだ。いま我々は約11000ネムコインを持っている。あとはこれをネムコインウォレットに移して、しばらく待てばハーベスティングできるようになる。こう考えろ、利子のつかない銀行から利子のつく銀行に移しただけだ。いまは日本の銀行にお金を預けても利子がつかないだろ」
「正直、説明されてもよくわかんないけど、お兄ちゃんを信じるよ」
「ああ、信じろ。俺はラッキーで急に儲かったから味をしめたわけじゃない!」
俺はきっぱりとそう断言すると、夏葉の手からリモコンを取り上げる。
夏葉も俺の言葉を信じてくれたのか、ようやくリモコンを手渡してくれたのだった。
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