私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

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第150話

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「どうして謝るの?」

 言葉にするまで、少しだけ時間がかかった。

 私は、先輩の声が聞けただけで嬉しかった。

 “おはよう”って言ってくれたことも、
 “熱が出た”って正直に言ってくれたことも、

 全部、嬉しかった。

 だから距離を置かれたようで、少しだけ寂しかった。

 スマホを耳に当てたまま、私は静かに目を閉じた。

「昨日、絶対に離さないって約束したのに」

 昨日の夜、先輩の小指とわたしの小指が重なったあの瞬間。

 その記憶が、まるで映像のように蘇ってくる。

 その言葉は、私にとって、ただの約束じゃなかった。

 不安を包んでくれる魔法みたいなものだった。

 でも、今日じゃない。

「それは、文化祭当日の話でしょ?」

 先輩にとっては、昨日から約束の延長戦だったのかもしれない。

 今日も守れないようなら当日だって…。
 なんて、そんなふうに思ってるのかもしれない。

 画面の光が、わたしの表情を映している気がして、
 その光から逃げるように目を逸らした。

「それでも…ゴホッゴホッ」

 言葉の途中で、先輩の咳が割り込んできた。

 その音が、スマホ越しでもはっきり聞こえて、わたしは思わず眉をひそめた。

 その音があまりにも生々しくて、先輩の身体が本当に辛いんだってことが、その咳だけで伝わってきた。

 こうして、私と話してるだけでもしんどいはずなのに。

 私の心配ばっかりしてる。

「無理しないで。とりあえず寝てて」

 声が少しだけ強くなった。
 でも、それは怒りじゃなくて、

 先輩を守りたいという気持ちからだった。
 私の気持ちよりも、彼の身体の方が大事。

 先輩が私を想ってくれるのと同じように、私だって先輩が大事だから。

 だから今は、私の気持ちを一度脇に置いて、休んでほしかった。

「…分かった」

 その一言が、少しだけ重たく響いた。

 先輩が素直に受け入れてくれたことが嬉しかった。

 それは、彼の優しさでもあり、私の寂しさでもあった。

「学校終わったら、家に行っていい?」

 言葉が口をついて出た瞬間、自分でも驚いた。

 そんなこと言うつもりじゃなかったのに。
 でも、気づいたら言っていた。

 会いたかった。
 顔を見たかった。

 それだけだった。

 それだけなのに─────

「ダメだよ」

 その言葉が、まるで壁のように立ちはだかった。

 その一言が、私の気持ちを、まるごと拒絶されたように感じた。

 先輩の体調を考えれば当然かもしれない。
 でも、それでも…

「どうして」

 声が震えた。

 私は、スマホを耳に当てたまま、目を閉じた。

 彼が私を遠ざける理由が、ただの体調不良なら、まだ受け入れられる。

 でも、もしそれ以上の理由があるなら…
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