私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

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第52話

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 あの日の出来事を忘れようとしても、どうしても忘れることは出来なかった。

 文化祭の準備が始まってどれだけ忙しくなろうと、毎日必ず思い出す。

 今日だってそう。

 プルルルルル

 ブチッ

 毎日決まった時間に決まった番号から電話がかかってくる。

 非通知だけど、誰がかけてきているのかは検討が着いていた。

 このことは先輩には言えなかった。

 先輩にこれ以上心配かけたくなかったのもあるけど、

 私自身、認めなくなかった。

 先輩に言ってしまったらその事実を認めることになるから。電話をかけているのはあの人だって実感してしまう。

 それが嫌だった。

「…桜、心桜」 

「ん?」

  先輩の声にハッとして顔を上げた。

「さっきからずっと呼んでるのに、大丈夫?何かあった?」 

 先輩の心配そうな顔に、私は少し申し訳ない気持ちになった。

「ごめん、考え事してて…」 

「体調悪いとかじゃない?」

  先輩の優しい声に、私は微笑んで答えた。

「うん、元気だよ」 

「文化祭の準備で疲れてるのかな」

  先輩の言葉に、私は少し肩をすくめた。

「そうかも、」 

 あの人が原因だなんて、先輩は夢にも思ってないみたい。

「文化祭の準備は順調?」 

 文化祭の準備でどれだけ遅くなろうとも、先輩はずっと待っていてくれた。

「大変だけど、何とか。先輩のクラスは出し物何するの?」 

「えっと…それが…」 

 先輩は少し困ったように答えた。

「まだ決まってないの?」 

 同学年の出し物は全て把握してるけど、他学年が何をするのかまでは、まだ知らなかった。

「執事カフェを…することになってね、、」 

 先輩の言葉に、私は目を見開いた。

「執事、カフェ…」 

 柊先輩の執事姿…かっこいいだろうな。
 だけど、他の人に見られたくないな。

「恥ずかしいから、出来れば来て欲しくないなぁ。なんて…」 

 先輩は少し照れくさそうに言った。

「絶対行く!」 

 行かないなんて選択肢ない。

「えぇ…」

「先輩の執事姿なんて、きっともう二度と見れないじゃん」 

 先輩のレア姿を見たい気持ちを隠せなかった。

「それはそうだろうけど、」 

 先輩は少し困ったように笑った。

「先輩のレア姿、私だってみたい」

  私は少し強引に言った。

 他の人は見れるのに、私だけ見れないなんて嫌だ。

「いやぁ、」 
「駄目…?」 

「そんな顔されたら駄目なんて言えないよ」

  先輩はため息をつきながら答えた。

「やった」 

「最初で最後の文化祭だしね」 

 先輩は少し寂しそうに呟いた。

「来年から…学校で先輩に会えないんだよね、」

  来年のことを考えるだけで、胸が締め付けられるような気持ちになった。

「そんな悲しそうな顔しないでよ。休日に時間作って会えばいいんだから」 

 それがどれだけ難しいことなのかは理解していた。

 だけど、先輩がそう言ってくれるだけで嬉しかった。

「そうだよね」

 来年から先輩は大学生になる。

 大学生になったら課題とか色々忙しくて、会う時間なくなって自然消滅なんて話はよくある。

 だから今、先輩と過ごせるこの時間を大切にしたかった。

 誰にも邪魔されたくなかった。
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