私の大好きな彼氏はみんなに優しい

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第61話

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 三人で楽しくお弁当を食べながら、話が弾む。

「へぇー、先輩のクラスはたこ焼きなんですね」

 文化祭の出し物の話に。

「そうそう。私のクラスに大阪出身の子がいてね。本格的にするらしいよ」

「遊びに行きますね」
「その時は、サービスしてあげる」

 今日の出来事を忘れることはできないが、今はこの瞬間を楽しむことが大切だと感じる。

「そろそろ教室に戻らないといけない時間だね」

 柊先輩が時計を見ながら言う。

 その言葉に、私は少しだけ名残惜しさを感じる。

「そうですね。授業が始まる前に戻らないと」

 私は頷きながら答える。

 心の中で、もう少しこの時間が続けばいいのにと思う。

「じゃあ、片付けようか」

 沙紀先輩が言う。

 その言葉に、私はお弁当箱を片付け始める。

 三人で手早く片付けを終え、屋上を後にする。

「じゃあね。授業頑張ってね」
「はい。先輩も」

 先輩たちと別れて、一人で教室に向かう。

 廊下は騒がしく、友達同士の笑い声や話し声が響いている。

 周りの雰囲気は賑やかだが、私の心は不安でいっぱいだ。

 あの男のことが頭から離れない。

「次はいつ、どうやって私の前に現れるつもりなんだろう…」

 心の中で何度も繰り返す。

 足音が廊下に響くたびに、心臓がドキドキと音を立てる。

 周りの賑やかさが逆に不安を煽るように感じる。

 教室のドアが見えてくると、少しだけ安心する。

 教室の中はいつものように賑やかで、友達同士の笑い声が響いている。

 中に入ると、遥希くんと目が合う。

「おかえり」

 遥希くんの優しい声に、少しだけ心が和らぐ。

「ただいま、あれ、咲月は?」

 私は席に着きながら尋ねる。
 咲月の姿が見当たらなかった。

「先生に呼ばれて職員室行ったよ。そろそろ帰ってくるんじゃないかな」

 聞くなら今じゃないかな。

「そっか。それで、その…」

 私は言葉を探しながら、遥希くんの顔を見つめる。

 彼の優しい表情に、少しだけ心が和らぐ。

「ん?」

 遥希くんが首をかしげる。

「さっきの、話っていうのは、」

 かなり深刻な話なんだろうか。

「あぁ、そういえば…あれ、なんの話しをしようとしてたのかな」

 遥希くんは首をかしげながら笑う。
 その笑顔に、私もつられて微笑む。

「忘れちゃった?」

「ふふ、うん。忘れちゃった」

 遥希くんは照れくさそうに笑う。
 その姿が可愛らしくて、私は思わず微笑んでしまった。

「また思い出したら教えて。その時はちゃんと聞くから」

「うん。ありがとう。忘れるぐらいだから大した話でもないんだろうけど」

 遥希くんの言葉に、私は少しだけ安心する。

「そっか、」

「心桜ちゃん…?何かあったの?」

 私の様子がおかしいことに気づいたのか、心配そうに声をかけてきた。

「…あの、さ、」

 言うなら今だよね。

「どうしたの?」

「それが、」

 だけど、一緒に帰って欲しいなんて、言っていいんだろうか。

 なんて言えばいいのか分からなくて、続きを話すのをためらっていた。

 その時、咲月が息を切らしながら教室に入ってきた。

「セーフ!」

 咲月の元気な声が響く。

「咲月、」

 むしろ、ナイスタイミングだったかもしれない。

「あと一分でチャイムなってたよ」

「危ない危ない」

 咲月は息を整えながら言う。

「それで?」

 遥希くんが尋ねてきた。

 結局、正直に話すことが出来なかった。

「あ、いや、何でもない」

 だって、一緒に帰って欲しいって言ったら、

 経緯を話さないといけない。
 そうなると、私があの男に脅されてることが知られてしまう。心配かけたくなかった。


 それに、これ以上私のせいで誰かを巻き込みたくなかった。


 もしも、私を守ろうと遥希くんが怪我をしたら…

 1000万円を払うために何をするか分からないから。
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