私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

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第60話

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「誰かって誰と?」

 その質問に、私は一瞬言葉に詰まる。

「それは…」

 先輩は、私がその場しのぎで言ったことに気づいてるんだろうか。

 私は答えに困りながらも、頭の中で誰か適当な人を探す。

 一緒に帰る相手は…

 誰がいいだろう。

 心の中でいくつかの名前が浮かぶが、どれもピンとこない。

「遥希くんは?」

 その名前に、私は

「え?」

 思わず声を上げた。

 遥希くんと一緒に帰るなんて、考えたこともなかった。

「遥希くんなら文化祭委員だし、帰る時間も同じでしょ?」

 柊先輩が続ける。

「それはそうだけど、」

 私は言葉を濁す。

 先輩はそれでいいの?

「じゃあ送ってもらいなよ」

 その言葉に、私はさらに驚く。

「でも、」

 私が遥希くんと帰っても、何とも思わないの? 
 全く気にしていないみたい。

「俺のこと気にしてるなら大丈夫だよ」
「どうして、」

 前はあれだけ遥希くんのことを気にしていたのに。
 もう私の事なんて…

「信じてるから」
「っ、」

 柊先輩の言葉に、胸が温かくなる。

「それに、今はこの方法しかないと思うんだ」
 柊先輩が続ける。

「確かにそうだね」

 今は沙紀先輩の安全が第一だ。

「私のことは気にしないで、二人で帰りなよ」

 先輩を怖がらせたくないから、言わないでおこうと思ったけど、

「あの人は、必ずまた現れます。あの人の異常な執着心を見る限り、先輩に手を出さないとは断言できません」

「そんな…」

 沙紀先輩が驚いた表情を浮かべる。

「怖がらせてしまってすみません」

 私のせいで、先輩まで巻き込んで、みんなに迷惑かけてる。

「そうじゃなくて。必ず現れるからこそ柊に守ってもらわくちゃ、」

 どうして、

 どうしてこんな時でも私のことを一番に考えてくれるんだろう。

 本当は自分も怖いはずなのに。

 その強さは一体どこから、

「今は先輩の安全が第一です」

 私は強く言う。

 巻き込んでしまった。せめてもの償いだ。

「でも、」

 沙紀先輩が反論しようとする。

「先輩に何かあったら私が、自分のことを許せないと思うんです」

「心桜ちゃん、」

「心配なのは分かるけど、今はこれが最善だと思うよ」

 柊先輩は優しく沙紀先輩の肩に手を置いた。

「…ありがとう、心桜ちゃん。私のことを心配してくれて」

 沙紀先輩が感謝の気持ちを込めて言う。

「いえ、お礼を言わないのは私の方です」

 私は微笑みながら答える。

 心の中で、もっと強くならなければと思う。

「じゃあ、そろそろご飯を食べようか」

「そうですね。お腹も空いてきましたし」

 私は頷きながら答える。

 心の中で、少しだけ緊張が解ける。

 三人でお弁当を広げ、食べ始める。

 屋上の風が心地よく、少しだけ気持ちが落ち着く。


 あの男のことが頭から離れない。

 だけど、今は先輩たちと一緒にいることで少しだけ安心できる。

 この平和な時間が永遠に続けばいいのに。

 現実は甘くないみたいだ。

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