私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

文字の大きさ
62 / 181

第62話

しおりを挟む
 放課後は、文化祭の準備で大忙し。

 私のクラスは脱出ゲームをすることになった。

 問題を作る班、部屋を飾る班、そして受け付けの衣装を作る班。

 それぞれに別れて作業していた。

 問題を作る班のリーダーは遥希くんが。
 衣装作りのリーダーは明日香が。

 そして、部屋を飾る班のリーダーは私だった。

 文化祭まで残り一週間。
 部屋を飾るのは前日だから、パーツ作りに勤しんでいた。

「怖さを出すにはどうすればいいかな…」

 私は悩みながら、黒のゴミ袋を手に取った。

「とりあえず、黒のゴミ袋に赤のペンキでも垂らしとく?」

 咲月が提案する。

「そうしよう。それと、手形をつけたらもっといいんじゃない?」

 なんて試行錯誤していたらあっという間に下校時間に。

 片付けが終わると、生徒は帰宅しないといけない。

「心桜、頑張ってね。また明日」
「ありがとう。また明日」

 だけど、文化祭委員は明日の予定を話し合うために30分だけ残ってもいい事になっている。

 教室には私たち二人だけが残り、静かな空間に時計の音が響く。

「衣装作りは順調に進んでるみたいだよ」
「そっか、良かった。」

 下校時間が迫ってきている。

 遥希くんに伝えないといけないのに。
 迷惑かけたくない。

 今日は現れないと思うけど、それでも不安が消えない。

「心桜ちゃん…?」

 遥希くんが心配そうに声をかけてくる。

「あっ、ごめん。考え事してて、」

 私は慌てて返事をした。

  「準備大変だったもんね」

 その優しい微笑みに少しだけ安心できた。

「うん…遥希くんの班は順調?」
「うん。心桜ちゃんは?」

「私たちの班も順調にいってるよ。このまま行けば文化祭に間に合うと思う」

 初めての文化祭だ。

 みんな楽しみにしてるんだから、よそ見してる暇なんてないよね。

「そっか。じゃあ今日はもう帰ろっか」

「そうだね」

 私は同意し、帰る準備を始めた。

 教室を出ると、7時半を過ぎてすっかり暗くなっていた。

 廊下にはほとんど人影がなく、静寂が広がっている。

 私と遥希くんは並んで歩き始めた。

「文化祭楽しみだね」
と遥希くんが言う。 

「そうだね」

 階段を降りながら、私はふと今日の出来事を思い出し、心の中で不安がよぎる。

 頭を横に振り、大丈夫だと自分に言い聞かせた。

 靴箱に着くと、私たちはそれぞれの靴を履き替えた。

「心桜ちゃん、本当に大丈夫?顔色悪いけど、」
「うん。家に帰って休めば大丈夫だよ」

 家に帰れるか分からない…なんて、
 縁起でもないことを考えるのはよそう。

「そっか、」

 遥希くんはそれ以上何も言わなかった。

 正門に向かって歩き出すと、遥希くんがふと立ち止まった。

「あれ、彼氏さんは?」

  いつもは正門の前に立って待っててくれていたから、不思議に思ったんだろう。

「えーっと、今日はちょっと用事があるみたいで、」

 今日だけじゃない。
 文化祭が終わるまでずっと。先輩と帰ることはない。

 明日も先輩と帰らないって知ったら、きっと怪しむだろうな。

 言い訳を考えておくか。

「そうなんだ。じゃあ家まで送っていくよ」

 遥希くんならそう言ってくれると思った。

「いや、途中まででいいよ。遥希くんの帰り時間が遅くなっちゃう」

 家の方向は同じだけど、途中で道が分かれる。
 そこから私の家まで15分。

 30分も帰る時間が遅くなるのに、頼めるわけない。

 それだけじゃない、あの男がいつ襲ってくるかも分からない。

 そんなの…文化祭が終わるまで私のことを守るために、貴方に犠牲になって欲しいって言ってるようなものじゃない。

「俺のことは気にしないでよ」
「でも、」

「心桜ちゃんを一人で帰す方が心配だから」
 真剣な表情で言う。

 その言葉に少しだけ心が揺れる。

 遥希くんだってこう言ってくれてるし、甘えてもいいのかな。

 いやいや。そんなわけない。
 私のせいで遥希くんまで巻き込めない。

「駄目だよ」

 私は首を振った。

「どうして?あ、彼氏さんが気にする?」
「そうじゃない」

 柊先輩は、むしろ遥希くんを頼って欲しいと思ってる。

「ならどうして、」

 言葉に詰まった。

 どう説明すればいいのか分からない。

「えっと、」

 あの男のことを遥希くんに知られたくないのに。

 言い訳が思いつかない。



「それって、心桜ちゃんの元気がないことが原因だったりする?」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

処理中です...