私の大好きな彼氏はみんなに優しい

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第100話

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「着いたね」  

 遥希くんが小さく呟きながら校門を見上げる。

 その姿を隣で見て、私も同じ方向に視線を向けた。

 今まで見慣れたはずの学校の校門が、少し違って見える気がした。

 今の私の気持ちが変わったからだろうか。

「心桜ちゃん、大丈夫?」  

 遥希くんが私を気遣うように声をかける。
  
 その視線に、私は小さく頷いた。

 校門をくぐり、静かに進む。

 足元の砂利が小さな音を立て、周囲の静けさがその音を際立たせている。

 校舎の入り口が近づくたびに、心臓が少しずつ速くなるのを感じる。

 教室に入る緊張感もあるけど、それでも怖くないと思えたのは、遥希くんが一緒にいるからだ。

「じゃ、行こっか」  

 遥希くんの声に促され、一歩を踏み出した。

 これまでの迷いや不安が、校舎に入るその瞬間に後ろに置いていけたような気がした。

 校舎の入り口を抜け、階段へと足を向ける。

 足元に響く軽やかな靴音が、朝の静けさの中で少しだけ耳に残る。

 遥希くんが先に立ってゆっくりと階段を上っていく背中を見ながら、私は彼の数歩後ろをついていった。

 手すりにそっと手を添えながら、一段ずつ上るたびに足元の感覚が軽くなっていくように思えた。

 そしてようやく教室の扉の前に立つと、また胸が少し高鳴るのを感じた。

 遥希くんが教室の扉に手をかけたのを見て、私はとっさに声を上げた。

「あ、待って」  

 その言葉が自分でも驚くほど急に出てきた。

 彼の手が止まり、振り返る様子がゆっくりと目に映る。

「ん?」  

 遥希くんが首をかしげながら問いかける。

 その表情には、特に疑いもなく、ただ私の言葉の意図を探るような優しさがあった。

「私が、開けてもいいかな、」  

 私は少し緊張しながらも、はっきりとそう言った。

 自分の中で何かを決意したような気持ちがあった。

 遥希くんに頼るばかりではなく、自分の意思で進みたいという思いが自然と口をついたのかもしれない。

「分かった」  

 遥希くんは軽く頷き、手を引いた。

 私の気持ちを尊重してくれているのが伝わってきた。

「ありがとう、」

 教室の扉に手をかけた瞬間、心臓が少しだけ速くなった。

 休み時間のざわめきが扉越しに聞こえてきて、それが少しだけ緊張を煽る。

 教室の中に入ることで、みんなの視線が一斉にこちらを向くんじゃないかと考えると、自然と足が止まりそうになった。

 私が深く考えすぎなだけなのかもしれないけど。

 学校をサボるなんて大それたこと、もう二度とできそうにないな。

「大丈夫だよ」

 遥希くんが私を見て微笑む。

 その顔がなんだか頼もしく感じられ、私は深呼吸を一つして頷いた。

 教室の扉を引くと、中から賑やかな声が溢れ出てきた。

 みんなそれぞれのグループで談笑していて、私たちが入ってきたことに気づく人はほとんどいなかった。

 そのことに少しだけ安堵を覚えながら、私は静かに教室の中に足を踏み入れた。

 遥希くんは私の少し前を歩いて、自然な動作で自分の席へと向かっていく。

 遥希くんはすごいなぁ。
 私と同じで学校サボったことないはずなのに、堂々としてる。

 考えてみれば、遥希くんはいつだって堂々としてて強かった。

 あのと男から庇ってくれた時だって。

 私はその背中を見ながら、自分も遅れないようについていった。



「…あ、」



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