私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

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第99話

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 あっという間に時間が過ぎて、学校へ向かって歩いていた。

 朝の日差しが穏やかに降り注ぎ、青空にはまだ爽やかさが残っている。

 道は静かで、人通りもほとんどなく、遠くから鳥のさえずりがかすかに聞こえるだけだった。

「あの、さ、ここまで来てなんだけど、休む気は…」  

 彼の横顔をちらりと見ると、その目にはどこか少しの不安と、私を気遣う優しさが見て取れた。

「ないよ」  

 私はすぐに答えた。

 少し笑顔を作りながら、遥希くんに向けてはっきりと言った。

「だよね」  

 遥希くんが小さく頷きながら言った。

 私がそう言うって分かってたみたいだ。

「もう大丈夫だから」  

 私は歩きながら、遥希くんに向かってもう一度強く言った。

 この言葉には、安心してほしいという思いと、自分自身を前に進ませたいという決意が込められていた。

「そっか、」  

  その声には、まだ私の本心を疑っているような気配があった。

「本当だよ。嘘じゃない。」  

 私は立ち止まり、遥希くんの目を見てはっきりと言った。

 しっかりと伝えたかった。

 遥希くんが連れ出してくれて、本当に大丈夫になった。

「…そっか、」

 その声に少し安堵感が込められているように思えて、私も自然と前を向いて歩けるようになった。

「遥希くんのおかげ」  

 私は静かにそう付け加えた。

 遥希くんがいなければ、きっと私はここまで気持ちを切り替えることができなかっただろう。

「元気になれたなら良かったよ」  

 遥希くんが少し照れたように笑いながら言った。

 その言葉に、私の胸がじんわりと温かくなった。

「遥希くんの隣にいたら不思議と元気になれるんだよね」  

 その言葉が出たとき、自分でも驚いた。

 本当にそう思っていて、それが言葉として口をついて出てきた。

 遥希くんの隣にいるだけで、不安や迷いが少しずつ消えていく。

 少しずつだけれど自分を取り戻していける気がしていた。

「俺は、いつだって心桜ちゃんには笑ってて欲しいんだよ」  

 遥希くんが真っ直ぐな目でそう言った。

 彼の言葉は真っ直ぐで、嘘がない。

 だからこそ、その優しさに甘えてしまう。

「遥希くん、ありがとう」  

 私を心配してくれる気持ちが嬉しくて、同時にその優しさに感謝の気持ちが溢れた。

 遥希くんは少し驚いたような顔をして私を見つめた。

 その瞬間、私に近づいてくる。

「は、遥希くん?」

 私は少し戸惑いながら遥希くんを見上げた。

 突然の距離感に心臓が高鳴る。

 彼が何をしようとしているのか分からず緊張が走った。

 彼の手が私の頭に触れる。

 ふわりと暖かい感覚が広がり、私は目を閉じてその瞬間を受け入れた。

 彼が何も言わずに伝えてくれるこの優しさが、何よりも私を安心させた。

「…行こっか」  

 遥希くんが静かに言葉をかける。

「う、うん」  

 びっくりした…。
 今、だきし…いやいや、何考えてるんだ。

「心桜ちゃん、行くよ」

 遥希くんが数歩先から私に声をかける。

 彼が振り返るその瞬間、朝の日差しが彼の顔を柔らかく照らしているのが見えた。

「あ、待って、」

 私は慌てて駆け寄った。

 距離を一気に縮めるように足を動かした。
 心臓の鼓動が早くなるのが分かる。

 遥希くんの隣にいると、不思議と一歩踏み出す勇気が湧いてくる。


 遥希は優しいから、慰めてくれただけだ。
 それ以上でも以下でもない。



 今のだって、何の意味も無い。


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