私の大好きな彼氏はみんなに優しい

第101話

　咲月と目が合った。

「心桜！電話したのに！」  

　その瞬間、咲月の声が勢いよく飛び込んできた。

　咲月は腕を組みながら、少し不満そうな顔をしている。

「え、嘘。ごめん気づかなかった」  

　慌てて謝りながら、自分のポケットに手を伸ばしてスマホを確認する。

　そこには、確かに咲月からの不在着信が残っていたのが見えた。

「ずっと心配してたんだから！」  

　彼女の声は少し強めだけれど、その奥には心配の感情が込められているのが伝わった。

　その思いやりに、胸がじんわりと暖かくなると同時に、自分の行動を反省する気持ちが湧いてきた。

「心配かけてごめんね、」

「何もなかったならいいけ…え？なんで遥希が心桜と一緒にいるわけ！？」 

　咲月の目はしっかりと遥希くんを捉えていて、その表情には少し驚きと戸惑いが混じっているのが分かった。

「えっと…その…」  

　私は言葉に詰まり、なんて説明すればいいのか一瞬迷った。

　どう言葉にするか考える間もなく、隣の遥希くんが自然に口を開いた。

「さっきたまたま正門で会ったんだよ。ね、心桜ちゃん」  

　遥希くんが何気ないトーンで答える。

　彼の声は落ち着いていて、特に気にする様子もない。

　それなのに、その一言が妙に教室の中に響いて感じられるのは、私が過剰に反応してしまっているからかもしれない。  

「そ、そうそう」  

　私は慌てて頷きながら答えた。

　遥希くんの言葉に乗ることで、その場の空気を少しでも軽くしようと試みたけど、声が少し上ずってしまったのが自分でも分かる。

　頬が熱くなっていくのを感じて、なんとか誤魔化したい気持ちでいっぱいだった。

「ふーん」  

　咲月がじっと私たちを見つめながら、わずかに目を細める。

　その短い一言に、興味と探るような意味が含まれている気がしてならない。

　私はどうにか気持ちを落ち着けようと、視線を教室の外に逃がした。

　心臓がトクンと跳ねる音が、自分にだけ聞こえるくらい大きく感じた。

「本当にそれだけ？」  

　咲月が口を開き、再び問いかけてきたその瞬間、私は笑顔を作りながらなんとか言葉を紡ぐことに集中した。

「そうだよ、ほんとにそれだけ！」  

　二人で公園にいたなんて知ったら、頭抱えて倒れちゃいそうだし。

「ま、なんでもいいよ。心桜が無事なんだし」  

　咲月が肩をすくめながらそう言った。

「ありがとう。本当にごめんね、心配かけちゃって…」  

　私は申し訳なさそうに視線を落としながらも、咲月の気遣いに心から感謝していた。

　咲月がこれ以上何も追及せず、ただ"無事ならそれでいい"と言ってくれるその優しさが、胸にじんわりと広がる。

「ほら、授業始まるし準備しないと」

　その様子を見ていた遥希くんが軽く笑いながら、そう言った。

「そうだね」

　教室の窓から差し込む陽射しが、机の上に淡い影を落としている。

　自然と深呼吸をして、胸の中に溜まっていた緊張が少しずつ和らいでいくのを感じた。

　遥希くんがこちらを振り返り、目が合った瞬間にふっと笑ってみせる。


　その笑顔にまた少し勇気をもらいながら、私は椅子に腰を下ろした。