私の大好きな彼氏はみんなに優しい

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第116話

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「私だからって…そんなの…」  

 視線をそらしながら、言葉が途中で途切れてしまう。

 彼の視線が真剣すぎて、まともに見つめ返すことができない。

 顔が熱を持ち始め、手をぎゅっと握りしめる。

「今はまだ言わないよ」  

 遥希くんの言葉に、胸の奥がざわつく。

 言わない――

 何を言おうとしているのか。
 私は、分かっちゃいけない気がする。

「…どうして?」  

 声がかすかに震えてしまったことに気付き、唇をぎゅっと噛みしめる。

 遥希くんの表情をじっと見つめながら、次の言葉を待つ。

 彼の目は変わらず優しく、それでいてどこか遠くを見つめているようだった。  

 遥希くんは少し口元を緩め、苦笑するように息を吐いた。  

「今言ったら、心桜ちゃん困るから」  

 その言葉が静かに響いた瞬間、心桜の胸の奥が強く揺れ動く。

 図星を突かれたような気がして、視線を床へ落とした。

 確かに――
 そうかもしれない。

 彼の言葉を真正面から受け止める準備が、自分にはできていない。

 って、私は一体遥希くんに何を言われるつもりで…

「私が思ってるような、ことじゃないよね、?」 
  
 静かに問いかける自分の声は、少しかすれていた。

 胸の奥がざわつく。

 自分が考えていることが正しいのか、それとも違うのか、確かめるのが怖かった。

 それでも、言葉にせずにはいられなかった。  

 彼の瞳をそっと覗き込む。

 遥希くんは静かに微笑みながら、じっとこちらを見つめている。

 その表情があまりにも優しくて、逆に鼓動が強くなってしまう。

 期待してはいけないのに、期待してしまう。

 そんな自分が嫌だった。  

 言葉にするのが怖くて、視線を逸らそうとする。

 でも、彼から目を逸らしたら、何か大切なものを失ってしまう気がして、ただじっと彼の瞳を見つめ続けた。  

 遥希くんは少しだけ口元を緩め、微笑んだまま言葉を紡ぐ。  

「それは…どうだろうね」  

 不確かな言葉なのに、まるで深い意味が込められているようで、呼吸が苦しくなった。

 遥希くんは何を考えているのか。

 どうして、そう簡単には答えてくれないのか――。  

「…ちゃんと教えてくれないの?」  

 声は小さく、それでも震えは隠せなかった。

 遥希くんは一瞬目を伏せ、考えるように唇を引き締める。

 そして次の瞬間、静かに息を吸い込みながら、ゆっくりと口を開いた。  

「いつかちゃんと言うよ」  

 彼の言葉は柔らかく、まるで心を包み込むように響いた。

 思わず息を止める。
 時間が止まったような気がした。

 いつか――
 その言葉が胸の奥でぐるぐると回る。  

「……いつかって、いつ?」  

 こんなことを聞いても、困らせるだけかもしれない。

 でも、

 遥希くんはゆっくりと目を細め、何かを考えるように視線を逸らした。  

「心桜ちゃんが、本当に知りたいって思ったときに」  

 遥希くんは私の気持ちを優先してくれる。

 でも、それがどれほど嬉しいことなのか分からないまま、胸の奥に残る不安を飲み込むしかなかった。  

 言葉を紡ぐことができなくて、ただ遥希くんの微笑みをぼんやりと見つめる。


 遥希くんがいつか言ってくれる言葉。


 遥希くんから本当の気持ちを聞くことは、あるんだろうか…




 ─────あるならきっとその時は。
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