その魔法が解ける前に

hayama_25

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第28話

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「まさか。むしろ花澄の初めてを一緒に祝えるから嬉しいよ」

 その言葉が耳に届いた瞬間、胸の奥で何かがじんわりと広がる。

 そんなふうに言ってくれるなんて。

 自然と顔が熱くなる。

 どうしてそんなに優しいんだろうか。

 私の初めてを祝えるから嬉しいなんて。

 私の家族なら、いや、あの家でなら。

 きっとバカにして揚げ足を取る。

 あの家にとって初めては、喜ばしいことなんかじゃない。

 むしろその逆で、隠さないといけないこと。

 そんな経験もないなんて、可哀想に。

 なんて言って憐れむふりをして、人を馬鹿にして、優越感に浸るんだ。

 そうすることが生きがいの人達が集まっていた。

 壱馬様といると安心すると思える理由が、きっとそれに詰まってる。

 決して人を見下さず、こんな不甲斐ない私にも笑顔で接してくださる。

 すると、壱馬様がワインボトルを静かに持ち上げ、グラスにワインを注ぎ始める。

 その動きが洗練されていて、思わずその手元に視線が引き寄せられる。

 彼がワインを注ぐ姿がどこか優雅で、自分には到底真似できないと思ってしまう。

 そんなことを考えていたせいで、声をかけるのが遅くなってしまった。

「あ、私が…」

 慌てて声を上げるが、

「いいから」
と微笑みながら静かに返してくれる。

「すみません…」

 小さな声でお礼を言いながら、自分の不器用さを心の中で少し悔いる。

 こういうのは、私がするべきなのに、

 恥ずかしさと感謝が交互に押し寄せてくる。

 そして壱馬様がワイングラスを静かに持ち上げ、優しい声で言葉をかけてくれる。

「はい。乾杯」

 その瞬間、特別な時間が始まったように感じた。

 手のひらが少し汗ばんでいて、グラスを慎重に持ち上げる。

「か、乾杯…」

 緊張しながらも、彼に合わせてグラスを口元に運んだ。

 唇に触れたワインの冷たい感触と芳醇な香りが一気に広がり、心の奥に驚きと感動が押し寄せる。

「…ん、おいしい」

 自然と感想が漏れ出てしまうほど、その味わいが予想以上だった。

 ワインという飲み物は、こんなに美味しいものだったんだ。

 お姉様に言われたことがあった。

 あなたの貧しい舌では、ワインの良さは分からないのだから。

 そんな子にあげるワインなんてないわ。勿体ない。

「でしょ?ここのワイン美味しいんだよね。花澄に気に入ってもらえてよかった」

 壱馬様が満足そうに微笑む。

 その笑顔が眩しくて、視線をそらしたくなる気持ちと、もっと見ていたい気持ちが交錯する。

 壱馬様といると、お姉様のことをよく思い出す理由。

 それはきっと、壱馬様とお姉様は正反対で、相容れない関係だから。

 胸の奥に温かさが広がり、自分がこの場にいる意味が少しずつ明確になっていく。


 …駄目なのに。
 私なんかが、壱馬様を─────


「…あれ?やっぱりかずくんだ!」


 突然、耳に飛び込んでくる声。

 驚きが胸を刺し、顔を上げる。

 目線を声の方に向けると、見覚えのある人影が視界に入る。




 あ、彼女はあの時の…
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