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3話 登校
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3話 登校
「夢織……夢織?」
「はっ」
「気がついた? さっきから呼びかせても反応がなくて……」
またいなくなった家族のことを考えていた。すると、目の前のことが何も感じられなくなってしまう。どうやら、それがほかの人には「ぼーっとしている」と思われがち。無自覚で厄介だ。直さないと。私の力ではどうにもならないから、善をして神様にお祈りしないと。生きて戻ってきてください、と。
「それじゃあ準備できたし行こうか」
「うん」
洗い物して、支度して、戸締まりして、玄関のドアを開けた。ここは、家族と過ごした家で、失った家でもある。嬉しかったこと、ちょっぴり悲しかったこと、様々な思い出が刻まれている。現実を受け入れないと。私の家族は居なくて、兄の友人と一緒に暮らしていて、中学生になった。うん、それでいい……。それでいいはず……。
「絵のインスピレーションは湧いた?」
「うん……今考えてるとこ」
「ハロウィンとかどう?」
「あー、やってみよ」
そういえば、先週はずっと忙しかった。学園祭があったから。週末が終わってやっと心と身体を切り替えられたというのに。現実は忙しなく、容赦なく、私たちを混沌の渦へと誘い込む。できることは……ただ波に呑まれて息をするだけ。残念ながら、つながれた細い糸では、息も絶え絶えに幻を噛むだけだ。
「いいんじゃない」
「ありがと」
過ごしやすい季節になってきた。むさ苦しい夏が終わりを告げ、道の葉が風に揺られて落ちる。心地よさに目を閉じて空を仰ぐ。太陽の位置が低くなってきているなんて。日差しは刺す痛みから、降り注ぐ光へと変わった。雲が薄い。半袖ブラウスや夏用スカートをアイロンにかけて、来年に備えよう。長袖ブラウスと冬用スカートを目立つところに置いて。
私たちは同じ中高一貫校に通っているから、一緒に登校している。一昨年と去年は別々だっただけに、4月は新鮮で、なんだかこそばゆい、と思った。友人ではなくて、クラスメートでもなくて、あの結城明利くんが隣にいるなんて。もちろん家族に勝るものはなかったけど、明利も大切な人だ。そうだ。明るいことを優先的に考えればいいのかな。
校舎が見えてきた。中高合わせて600人ほどの生徒が通っている。私立ではあるけど、成績が優秀であれば授業料免除など恩恵が受けられる。兄や明利が通っている(た)から、知っていることが多く、そんなに怖がることはなかった。私は生徒として、優秀な成績を修めて卒業することが目標。ほぼ内部進学だから、必要な基準を満たしていれば問題ない。そして、高校を卒業したら就職するんだ。
「夢織……夢織?」
「はっ」
「気がついた? さっきから呼びかせても反応がなくて……」
またいなくなった家族のことを考えていた。すると、目の前のことが何も感じられなくなってしまう。どうやら、それがほかの人には「ぼーっとしている」と思われがち。無自覚で厄介だ。直さないと。私の力ではどうにもならないから、善をして神様にお祈りしないと。生きて戻ってきてください、と。
「それじゃあ準備できたし行こうか」
「うん」
洗い物して、支度して、戸締まりして、玄関のドアを開けた。ここは、家族と過ごした家で、失った家でもある。嬉しかったこと、ちょっぴり悲しかったこと、様々な思い出が刻まれている。現実を受け入れないと。私の家族は居なくて、兄の友人と一緒に暮らしていて、中学生になった。うん、それでいい……。それでいいはず……。
「絵のインスピレーションは湧いた?」
「うん……今考えてるとこ」
「ハロウィンとかどう?」
「あー、やってみよ」
そういえば、先週はずっと忙しかった。学園祭があったから。週末が終わってやっと心と身体を切り替えられたというのに。現実は忙しなく、容赦なく、私たちを混沌の渦へと誘い込む。できることは……ただ波に呑まれて息をするだけ。残念ながら、つながれた細い糸では、息も絶え絶えに幻を噛むだけだ。
「いいんじゃない」
「ありがと」
過ごしやすい季節になってきた。むさ苦しい夏が終わりを告げ、道の葉が風に揺られて落ちる。心地よさに目を閉じて空を仰ぐ。太陽の位置が低くなってきているなんて。日差しは刺す痛みから、降り注ぐ光へと変わった。雲が薄い。半袖ブラウスや夏用スカートをアイロンにかけて、来年に備えよう。長袖ブラウスと冬用スカートを目立つところに置いて。
私たちは同じ中高一貫校に通っているから、一緒に登校している。一昨年と去年は別々だっただけに、4月は新鮮で、なんだかこそばゆい、と思った。友人ではなくて、クラスメートでもなくて、あの結城明利くんが隣にいるなんて。もちろん家族に勝るものはなかったけど、明利も大切な人だ。そうだ。明るいことを優先的に考えればいいのかな。
校舎が見えてきた。中高合わせて600人ほどの生徒が通っている。私立ではあるけど、成績が優秀であれば授業料免除など恩恵が受けられる。兄や明利が通っている(た)から、知っていることが多く、そんなに怖がることはなかった。私は生徒として、優秀な成績を修めて卒業することが目標。ほぼ内部進学だから、必要な基準を満たしていれば問題ない。そして、高校を卒業したら就職するんだ。
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