血に塗れた氷の騎士

fireworks

文字の大きさ
3 / 51

3話 殺してくれ

しおりを挟む
3話 殺してくれ
 俺はセウェルス・フォールディング。フォールディング侯爵の三男として生まれた。兄ふたり、姉3人、妹ひとり弟ふたりの11人家族。父は軍の大臣で、母は他領の長の娘。国王陛下に忠誠を誓い、代々軍事力に資源を投入する巨大な家だ。中でも、ふたりの兄は頭脳明晰で、参戦歴のある猛者。申し分ない学力と、後継者としての優秀な知能や実績。3人の姉は既に公爵や隣国の王族と結婚し、家庭を築いた。兄と姉5人はそれぞれ人間性を育てて成長し、適切な居場所を見つけた。弟妹3人への縁談はよりどりみどり。今フォールディング家に残るのは、両親のほかに、弟妹3人と俺の6人。半数がいなくなった屋敷は無駄に広くてよく空気が通る。両親は揃って兄ふたりを褒め、弟妹に理想像を押し付ける。
 俺はフォールディング家の汚点で恥だ。輝かしい実績も取り柄もなく、内向的で部屋に引きこもってばかり。酷い喘息持ちで、激しい運動はできない。軍の規律でも弾かれ、家族や使用人から汚らわしい者として扱われる。信頼できる友人も、幸せを願う恋人もいない。今年で20歳になったけど、「先が短いだろう」と敬遠する人がほとんどだった。家族も、俺も、なぜ今も生きているのかよくわからない。得体の知れない気持ち悪さが俺を取り巻いた。
 閉じこもって研究しているとき、健康に良いという料理を食べているとき、アカデミーのライブラリーで本を読んでいるとき、突然手が止まる。
 俺は何のために生きているのだろうか。
 兄のように、聡明で、体格に恵まれ、多くの人から慕われる人。姉のように、政略結婚という勤めを果たし、己を磨く美しい貴婦人。弟妹のように、学ぶ姿勢を持って、足りないものを補う、未来ある人。俺はどれでもない。何ひとつ役割をこなせていない。それでも両親が俺を切り捨てないのは、「勝手に死ね」という無関心な気持ちが強いからだろう。俺だって、息が詰まるたび、早く逝きたいと願っている。だけどなぜか俺は死なずに済んで、また同じリズムで息をして生きている。死のうにも、未知の恐れが両手を縛り付けて動きを止める。
 なんでなんだよ。
 身体が死にそうなときは心が引き止めて、心が死にそうなときは身体が引き止める。
 生き地獄はやめてくれ。俺はもう十分なんだ。医者の余命よりも倍以上生きたじゃないか。何もやりたくない。何も聞きたくない。何も見たくない。だれでもいい、いつでもいい。ひとおもいに、ひと振りで。
「殺してくれ……」
 目の上に置いた右手。指と指の隙間から、一筋の涙があふれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

【完結】時計台の約束

とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。 それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。 孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。 偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。 それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。 中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。 ※短編から長編に変更いたしました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます

しゃーりん
恋愛
ソランジュは婚約者のオーリオと結婚した。 オーリオには前から好きな人がいることをソランジュは知っていた。 だがその相手は王太子殿下の婚約者で今では王太子妃。 どんなに思っても結ばれることはない。 その恋心を王太子殿下に利用され、王太子妃にも利用されていることにオーリオは気づいていない。 妻であるソランジュとは最低限の会話だけ。無下にされることはないが好意的でもない。 そんな、いかにも政略結婚をした夫でも必要になったので返してもらうというお話です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...