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4話 だいじょうぶ
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4話 だいじょうぶ
(ふぅ……落ち着いてきた)
あれから数時間経って、深夜に目が覚めた。いつの間にか眠っていて、その間に少しは情報を整理できただろうか。沸々と湧き上がった、希死念慮に似たものは随分小さくなっていた。上半身を起こすとき、大量の紙に手をついていたことに気づく。様々な化学式や論述の書かれた資料。宝物、秘密基地とはいえ、さすがに汚い。
頭を針で刺されたかのような痛みを感じてこめかみを押さえる。髪をくしゃくしゃにかき、おもむろに首に手をかけた。
(……片付けしないと)
動く理由はできた。床に手を置いて、後は立ち上がって……。
「あっ……痛っ」
床で寝ていたせいか、変な体勢になっていたのだろう。右足が痺れて感覚が麻痺している。少しでも動けば足がつる。おかげでまっすぐ歩けなくて、何百枚と重ねた資料につまずく。壁に手をつこうとしたら、滑って狙いを外す。下にズレて、サイドテーブルに置かれた氷の騎士を払ってしまった。
「なんで、よりによって……」
いきなりのことに驚いて、受け止める手が動けるはずもなく。氷の騎士は、資料と資料の隙間の硬い床に落ちる。残念ながら、剣を持っていない腕が折れてしまい、資料と同化して飛び散った。座り込んで這うように本体と腕を見つけ出し、痺れが収まるまでじっとすると決めた。
「ふぅ……」
5分くらいしたら落ち着いてきて、一度騎士を放して立ち上がる。腕を伸ばして首を回して、ひと呼吸。サイドテーブルの引き出しを開け、そこに氷の騎士を入れる。気は乗らないけど、部屋を片付けることにした。また大事なものを壊さないためにも。
朝焼けが下界を照らすころ、ようやく資料の整理が終わった。床は見えるように、壁に寄せておいた。作業台の前に座り、氷の騎士の状態を見る。試しに腕をくっつけると、ぴったりはまった。バラバラになったパーツは腕だけのようだ。接着剤をつけて、はみ出た部分は拭き取り、やすりで擦ることで凹凸がわからないようにした。修復した氷の騎士は、ほんの少しだけ、悲しんでいるように見える。太陽に照らされるとわかる白い粉は、全部ほこりだ。どれだけお手入れしてもずっとくっついてしまう。水に濡れていないシートで拭き取り、もう一度照らしてみて、埃がついていないことを確認してからもとに戻した。
「うぅ……」
そんなことをしていたら、いつの間にか太陽が沈んでいた。少し肌寒くて、毛布にくるまって震える。眠っている間に、いつもの発作が始まった。
徹夜なんてしたから、自業自得だ。それでもやらなければいけなかった。もう家族が見てくれなくても、自己満足でも、何かをやっていないと、生きている気がしないから。無意識に死に手を伸ばしてしまうから。
熱くなった身体が熱を放出して、息が荒くなる。一方で、額や背中に汗が滲み、必死に体温を下げようとする。熱くて寒い。気持ち悪い。説明しがたい状況で、目を開けられない。
「……だい、じょう、ぶ」
だれかのフローラルな香りが漂って、氷のように冷たい手が頬を包んだ。
(ふぅ……落ち着いてきた)
あれから数時間経って、深夜に目が覚めた。いつの間にか眠っていて、その間に少しは情報を整理できただろうか。沸々と湧き上がった、希死念慮に似たものは随分小さくなっていた。上半身を起こすとき、大量の紙に手をついていたことに気づく。様々な化学式や論述の書かれた資料。宝物、秘密基地とはいえ、さすがに汚い。
頭を針で刺されたかのような痛みを感じてこめかみを押さえる。髪をくしゃくしゃにかき、おもむろに首に手をかけた。
(……片付けしないと)
動く理由はできた。床に手を置いて、後は立ち上がって……。
「あっ……痛っ」
床で寝ていたせいか、変な体勢になっていたのだろう。右足が痺れて感覚が麻痺している。少しでも動けば足がつる。おかげでまっすぐ歩けなくて、何百枚と重ねた資料につまずく。壁に手をつこうとしたら、滑って狙いを外す。下にズレて、サイドテーブルに置かれた氷の騎士を払ってしまった。
「なんで、よりによって……」
いきなりのことに驚いて、受け止める手が動けるはずもなく。氷の騎士は、資料と資料の隙間の硬い床に落ちる。残念ながら、剣を持っていない腕が折れてしまい、資料と同化して飛び散った。座り込んで這うように本体と腕を見つけ出し、痺れが収まるまでじっとすると決めた。
「ふぅ……」
5分くらいしたら落ち着いてきて、一度騎士を放して立ち上がる。腕を伸ばして首を回して、ひと呼吸。サイドテーブルの引き出しを開け、そこに氷の騎士を入れる。気は乗らないけど、部屋を片付けることにした。また大事なものを壊さないためにも。
朝焼けが下界を照らすころ、ようやく資料の整理が終わった。床は見えるように、壁に寄せておいた。作業台の前に座り、氷の騎士の状態を見る。試しに腕をくっつけると、ぴったりはまった。バラバラになったパーツは腕だけのようだ。接着剤をつけて、はみ出た部分は拭き取り、やすりで擦ることで凹凸がわからないようにした。修復した氷の騎士は、ほんの少しだけ、悲しんでいるように見える。太陽に照らされるとわかる白い粉は、全部ほこりだ。どれだけお手入れしてもずっとくっついてしまう。水に濡れていないシートで拭き取り、もう一度照らしてみて、埃がついていないことを確認してからもとに戻した。
「うぅ……」
そんなことをしていたら、いつの間にか太陽が沈んでいた。少し肌寒くて、毛布にくるまって震える。眠っている間に、いつもの発作が始まった。
徹夜なんてしたから、自業自得だ。それでもやらなければいけなかった。もう家族が見てくれなくても、自己満足でも、何かをやっていないと、生きている気がしないから。無意識に死に手を伸ばしてしまうから。
熱くなった身体が熱を放出して、息が荒くなる。一方で、額や背中に汗が滲み、必死に体温を下げようとする。熱くて寒い。気持ち悪い。説明しがたい状況で、目を開けられない。
「……だい、じょう、ぶ」
だれかのフローラルな香りが漂って、氷のように冷たい手が頬を包んだ。
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