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19話 昼寝
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19話 昼寝
詳しく聞こうとしたけど、フローリアは「秘密」と言って話をそらした。とはいえ、彼女がパーティー終盤に参加し、俺と踊ったことは本当らしい。招待客ではないのに参加した理由や、どうやってホールまで来たのか、までは伏せられたまま。
色々とわからないことがある。フローリア・メレルズと名乗ったけど、脳内で調べても出てこない。本を引っ繰り返しても、「メレルズ家」なんて見当たらない。透き通るブルーのドレスをあんなに上手に着こなして、髪型もアクセサリーも似合っていて、気品に溢れた人は珍しい。どこかの貴族令嬢なのかもしれないけれど、その予想は外れたようだ。ということは、爵位のない一般市民? だからといって簡単にアカデミーへの入門を許すか? それよりも秀でた能力があるから?
まだ謎はある。ベッドに残された、白銀の髪とジャスミンの香り。そして、綺麗になった部屋。2日に1回くらいの周期で感じる。明らかに、俺の部屋にはだれかが侵入している。研究資料や装飾品などは盗まれていないから、お金絡みの問題ではなさそうだけど。
手がかりになる白銀の髪は珍しくて、候補は絞れるだろう。……いや、使用人は皆、黒や茶といった落ち着いた色で、思い当たる人はゼロ。たとえ外部から知らない人が来たとしても、衛兵によって門前払いか既に捕らえられている。そんな話はないから、この線は考えにくい。
しっかり窓やドアに鍵はかけているし、目立たないよう残した痕跡に、寸分のズレもなかった。鍵の破壊、ピッキングされた形跡も同様になし。外からも内からも侵入できないはず。それにしても、一体何のために……?
「……すぅ、すぅ……」
色々考えている間、俺は木陰で昼寝していた。薬草学の新刊を読んでいたのだけど、眠気に襲われて、目隠し代わりにして。青々とした草原の上に寝そべり、風に揺られて頭を空っぽにする。問題の先延ばしと逃避。この生き方を20年も続けて、「死」でしか終わりを見出せなくなっていた。
「先生、セウェルス先生」
「……?」
「私です。フローリア。少し話したいことがあって来ました」
穏やかな眠りの最中、突然現れた細い影。フローリア・メレルズ、24歳、先生志望の将来有能。銀色の髪を高くひとつに結んで、ブルーの上品なワンピースを着たひとりの女性。極力肌を見せたくないのか、ハイネック、長袖、手袋、ブーツで隠す。ノースリーブで、腕も足もさらしたドレス姿を見たことがウソのようだ。首にリボンを巻き、肘までの長さの上着を羽織り、刺繍の施された裾が風に揺れる。フルーティーな香りが鼻をくすぐり、本をどかして目を開けた。
「はい。どうしましたか……」
「眠くなってきたので身体を動かしたくて。練習場を案内してほしいのです」
詳しく聞こうとしたけど、フローリアは「秘密」と言って話をそらした。とはいえ、彼女がパーティー終盤に参加し、俺と踊ったことは本当らしい。招待客ではないのに参加した理由や、どうやってホールまで来たのか、までは伏せられたまま。
色々とわからないことがある。フローリア・メレルズと名乗ったけど、脳内で調べても出てこない。本を引っ繰り返しても、「メレルズ家」なんて見当たらない。透き通るブルーのドレスをあんなに上手に着こなして、髪型もアクセサリーも似合っていて、気品に溢れた人は珍しい。どこかの貴族令嬢なのかもしれないけれど、その予想は外れたようだ。ということは、爵位のない一般市民? だからといって簡単にアカデミーへの入門を許すか? それよりも秀でた能力があるから?
まだ謎はある。ベッドに残された、白銀の髪とジャスミンの香り。そして、綺麗になった部屋。2日に1回くらいの周期で感じる。明らかに、俺の部屋にはだれかが侵入している。研究資料や装飾品などは盗まれていないから、お金絡みの問題ではなさそうだけど。
手がかりになる白銀の髪は珍しくて、候補は絞れるだろう。……いや、使用人は皆、黒や茶といった落ち着いた色で、思い当たる人はゼロ。たとえ外部から知らない人が来たとしても、衛兵によって門前払いか既に捕らえられている。そんな話はないから、この線は考えにくい。
しっかり窓やドアに鍵はかけているし、目立たないよう残した痕跡に、寸分のズレもなかった。鍵の破壊、ピッキングされた形跡も同様になし。外からも内からも侵入できないはず。それにしても、一体何のために……?
「……すぅ、すぅ……」
色々考えている間、俺は木陰で昼寝していた。薬草学の新刊を読んでいたのだけど、眠気に襲われて、目隠し代わりにして。青々とした草原の上に寝そべり、風に揺られて頭を空っぽにする。問題の先延ばしと逃避。この生き方を20年も続けて、「死」でしか終わりを見出せなくなっていた。
「先生、セウェルス先生」
「……?」
「私です。フローリア。少し話したいことがあって来ました」
穏やかな眠りの最中、突然現れた細い影。フローリア・メレルズ、24歳、先生志望の将来有能。銀色の髪を高くひとつに結んで、ブルーの上品なワンピースを着たひとりの女性。極力肌を見せたくないのか、ハイネック、長袖、手袋、ブーツで隠す。ノースリーブで、腕も足もさらしたドレス姿を見たことがウソのようだ。首にリボンを巻き、肘までの長さの上着を羽織り、刺繍の施された裾が風に揺れる。フルーティーな香りが鼻をくすぐり、本をどかして目を開けた。
「はい。どうしましたか……」
「眠くなってきたので身体を動かしたくて。練習場を案内してほしいのです」
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