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37話 虚言
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37話 虚言
「それにしてもこんなに調査が滞るとは……」
「何も出てきやしない! こんなに大きな家なのに、不正がないなんてありえないわ!」
「もっと金をつぎ込むか? いや、もうない……」
「いいからやるのよ! もうここまで来たら引き下がれないわ!」
ストローマ邸、会議室で声を張り上げるふたり、ストローマ侯爵とその妻。青ざめ、頬を真っ赤に染め、鳥肌が立つ。6mを超える細長いテーブルに、何百枚と紙が散らばる。すべてに書かれた結論は同じ。「なし」。彼らが探していたものは何ひとつ見つからなかった。スパイを潜り込ませて内部調査しても、帳簿や道具を盗んでも、収穫なし。時代の移り変わりと併せて統計を取るも、怪しいところは何もなかった。ならば、とギルドや暗殺集団に依頼し、人の汚いところを暴こうと画策した。だけど、覆ることはなく――すべての行動が裏目に出た。人々の信用をなくし、数年先の取引にまで影響を及ぼした。ふたりは恥をかき、不本意ながら頭を下げ謝罪に回る。この上ない屈辱に耐えかねて、侯爵は髪を掻きむしり、夫人は指を噛んだ。
「陛下に何と説明すれば……」
「まだ何とかなりますわ。あの子の結婚で巻き返せるに決まってます」
「ははは……そうだな」
侯爵は狂気に苛まれ、顔を長い爪で引っ掻いて傷つける。じわりと血が滲み、雫となって頬から滴り落ちた。
同じくストローマ邸、4女ブレイカの部屋。ファンシーで、ファンタジーで、ファッショナブルな部屋。目がチカチカするようなピンク色、メルヘンなリボンやハート。まるで雲の上の王国。彼女はソファーに深く腰掛け、目を瞑ってお腹を撫でた。この世に溢れた、幸せの結晶を愛でてその身を案じる。
ブレイカはただ単に太ったわけではない。妊娠したのだから、子供の体重で増えただけだ。
「ブレイカ様、侯爵様とご夫人に申し上げ……」
「うるさいわね。あんたに関係ないでしょ」
ブレイカは世話をする使用人に当たり散らし、冷たい目つきで睨みつけた。彼女たちは頭を下げ動かなかったけど、内心は、優雅なお嬢様らしからぬ暴力に震えていた。
「愛する彼との子供よ……。うふふ……。何があっても絶対に産むわ」
ブレイカはバレるギリギリまで粘り、両親に妊娠を伝えなかった。敢えて言わなかった理由は言うまでもない。人としての道義、国の法律を破り、真実を偽るのだから。でも、ブレイカは女優並みに演じきる自信があった。ディナーを食べ終わってゆっくりするころ、ついにその口を開いた。
「実は私……妊娠しているのです」
「!?」
両親は、頭を殴られたかのような衝撃に驚き固まった。てっきり、探し物の答えかと思ったけど、別のものだったから。ブレイカは薄気味悪く笑い、お腹に手を当てて撫でる。
「婚約者との子供ですわ」
「……う、うん?!」
「おめでとう!?」
まだ驚いているふたりは、語尾に感嘆符と疑問符をつけて首を傾げる。ブレイカは変わらず笑ったままで、3人の間には予想外の妙な空気が流れていた。
「結婚式はまだのはずだが……? 予定を間違えたか?」
「そもそも、あなたたちは……」
ふたりが疑問に触れようとすると、ブレイカはテーブルを両手でたたき、泣く真似をして縋った。
「本当に彼との子供なのです! 初めてお会いしたとき、約束してくれましたから……。この子を絶対に幸せにすると……。もちろん私は産みますわ。愛する彼との子供ですもの。我がストローマに栄光を……」
ブレイカ・ストローマ。王国にとって「悪」の暴走はまだ始まったばかりだ。
「それにしてもこんなに調査が滞るとは……」
「何も出てきやしない! こんなに大きな家なのに、不正がないなんてありえないわ!」
「もっと金をつぎ込むか? いや、もうない……」
「いいからやるのよ! もうここまで来たら引き下がれないわ!」
ストローマ邸、会議室で声を張り上げるふたり、ストローマ侯爵とその妻。青ざめ、頬を真っ赤に染め、鳥肌が立つ。6mを超える細長いテーブルに、何百枚と紙が散らばる。すべてに書かれた結論は同じ。「なし」。彼らが探していたものは何ひとつ見つからなかった。スパイを潜り込ませて内部調査しても、帳簿や道具を盗んでも、収穫なし。時代の移り変わりと併せて統計を取るも、怪しいところは何もなかった。ならば、とギルドや暗殺集団に依頼し、人の汚いところを暴こうと画策した。だけど、覆ることはなく――すべての行動が裏目に出た。人々の信用をなくし、数年先の取引にまで影響を及ぼした。ふたりは恥をかき、不本意ながら頭を下げ謝罪に回る。この上ない屈辱に耐えかねて、侯爵は髪を掻きむしり、夫人は指を噛んだ。
「陛下に何と説明すれば……」
「まだ何とかなりますわ。あの子の結婚で巻き返せるに決まってます」
「ははは……そうだな」
侯爵は狂気に苛まれ、顔を長い爪で引っ掻いて傷つける。じわりと血が滲み、雫となって頬から滴り落ちた。
同じくストローマ邸、4女ブレイカの部屋。ファンシーで、ファンタジーで、ファッショナブルな部屋。目がチカチカするようなピンク色、メルヘンなリボンやハート。まるで雲の上の王国。彼女はソファーに深く腰掛け、目を瞑ってお腹を撫でた。この世に溢れた、幸せの結晶を愛でてその身を案じる。
ブレイカはただ単に太ったわけではない。妊娠したのだから、子供の体重で増えただけだ。
「ブレイカ様、侯爵様とご夫人に申し上げ……」
「うるさいわね。あんたに関係ないでしょ」
ブレイカは世話をする使用人に当たり散らし、冷たい目つきで睨みつけた。彼女たちは頭を下げ動かなかったけど、内心は、優雅なお嬢様らしからぬ暴力に震えていた。
「愛する彼との子供よ……。うふふ……。何があっても絶対に産むわ」
ブレイカはバレるギリギリまで粘り、両親に妊娠を伝えなかった。敢えて言わなかった理由は言うまでもない。人としての道義、国の法律を破り、真実を偽るのだから。でも、ブレイカは女優並みに演じきる自信があった。ディナーを食べ終わってゆっくりするころ、ついにその口を開いた。
「実は私……妊娠しているのです」
「!?」
両親は、頭を殴られたかのような衝撃に驚き固まった。てっきり、探し物の答えかと思ったけど、別のものだったから。ブレイカは薄気味悪く笑い、お腹に手を当てて撫でる。
「婚約者との子供ですわ」
「……う、うん?!」
「おめでとう!?」
まだ驚いているふたりは、語尾に感嘆符と疑問符をつけて首を傾げる。ブレイカは変わらず笑ったままで、3人の間には予想外の妙な空気が流れていた。
「結婚式はまだのはずだが……? 予定を間違えたか?」
「そもそも、あなたたちは……」
ふたりが疑問に触れようとすると、ブレイカはテーブルを両手でたたき、泣く真似をして縋った。
「本当に彼との子供なのです! 初めてお会いしたとき、約束してくれましたから……。この子を絶対に幸せにすると……。もちろん私は産みますわ。愛する彼との子供ですもの。我がストローマに栄光を……」
ブレイカ・ストローマ。王国にとって「悪」の暴走はまだ始まったばかりだ。
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