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39話 とき既に遅し
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39話 とき既に遅し
ついにその日がやってきた。9月中旬、俺はストローマ侯爵家の娘ブレイカ嬢と結婚した。親同士の決めた、条件を提示しての政略結婚。そこに愛情はないけれど、どちらかが死ぬまで付き合わないといけない。その前に、子孫を残せたら、もうお役目御免だろう。
式は丸一日かけて行われる。家督を継ぐ者や国王なんかは1週間ほどお祭りムードなのだけど、この結婚は違う。必要な儀式だけ残し、余計なところを削ぎ落として1日に凝縮した。できるだけ予算を抑えた簡素な結婚式。互いの家がお金をかけないと決めたことで、別に豪華にする必要もないから気にならない。
太陽が昇る前、まだ月が輝いているころから準備を始めた。事前の打ち合わせ通り、滞りなく着替えやメイクを済ませる。大きな姿見で最終確認をして、1日まっすぐ立っていられるほどの強い薬を飲む。
新婦、ブレイカの準備も整い、挨拶をしたいと連絡があった。かれこれ2カ月以上会っていないけど、向こうから会いたいと言われるとは思わなかった。
会うべきではなかったのだから。
「失礼いたします。ブレイカ様をお連れいたしました」
「はい。どうぞ」
控室のドアをたたく音がして立ち上がる。使用人がドアを開け、ブレイカが颯爽と入ってきた。純白のドレスに身を包み……恭しく頭を下げる。長いレースは彼女の使用人が持って歩き、ベールはまだ被っていない。茶髪はひとつにまとめ、高い位置に留められて……。いいや、ブレイカの花嫁姿なんてどうでもいい。問題は、彼女のお腹が妊娠しているかのように膨らんでいることだ。
「セウェルス様、お久しぶりです。ご報告があります」
「ブレイカ嬢……?」
彼女は真っ赤な口紅を塗った口を開き、おぞましいことを平然と言葉にした。喜びや幸せといった感情よりも、裏にしまったはずの企みが隠しきれていない。身体が凍りつくほどの、青ざめて土に還るくらいの衝撃。彼女はお腹に手を当てて、身に覚えのない、そこにいる子に語りかけた。
「さぁ、挨拶して。やっとお父様に会えたわね」
「……は?」
やっと絞り出せた声は低すぎて、ブレイカは聞き取れなかった。何かにヒビが入ったと気付いたとき、もう既に遅かった。息が止まって、瞬きもできずに固まる。告げられた命があまりにも軽いもので、新たな悲劇を生むことを予感したから。
「ずっとお伝えしたくて待ちきれませんでした。私は、あなたとの子を身籠ったのです。今日は家族になるための素晴らしい儀式ですから、ようやく伝えられました」
……にも拘わらず、彼女は幸せそうに笑い、俺の腕を掴んで強く握った。女性とは思えない力と、近すぎる距離にすぐ振り払えない。
彼女は嘘をついているのか? 確かにお腹は膨らんでいるけど、本当はいなかったとしたら? 空のお腹を撫でて語りかける人なんて気持ち悪すぎる。では本当にいるとするなら、一体、だれの子……。
「……何をおっしゃっているのですか? それも私との子供? そんなわけありませんよね?」
やっと再開した呼吸で、「違う」と全力で否定した。けれどブレイカは首を横に振り、俺の手を自分のお腹に当てた。……動いている。お腹ではない少し硬いものに触れていた。
「紛れもなくセウェルス様とこの私ブレイカの子供ですわ。もうすぐ式が始まります。早く行きましょう」
ついにその日がやってきた。9月中旬、俺はストローマ侯爵家の娘ブレイカ嬢と結婚した。親同士の決めた、条件を提示しての政略結婚。そこに愛情はないけれど、どちらかが死ぬまで付き合わないといけない。その前に、子孫を残せたら、もうお役目御免だろう。
式は丸一日かけて行われる。家督を継ぐ者や国王なんかは1週間ほどお祭りムードなのだけど、この結婚は違う。必要な儀式だけ残し、余計なところを削ぎ落として1日に凝縮した。できるだけ予算を抑えた簡素な結婚式。互いの家がお金をかけないと決めたことで、別に豪華にする必要もないから気にならない。
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新婦、ブレイカの準備も整い、挨拶をしたいと連絡があった。かれこれ2カ月以上会っていないけど、向こうから会いたいと言われるとは思わなかった。
会うべきではなかったのだから。
「失礼いたします。ブレイカ様をお連れいたしました」
「はい。どうぞ」
控室のドアをたたく音がして立ち上がる。使用人がドアを開け、ブレイカが颯爽と入ってきた。純白のドレスに身を包み……恭しく頭を下げる。長いレースは彼女の使用人が持って歩き、ベールはまだ被っていない。茶髪はひとつにまとめ、高い位置に留められて……。いいや、ブレイカの花嫁姿なんてどうでもいい。問題は、彼女のお腹が妊娠しているかのように膨らんでいることだ。
「セウェルス様、お久しぶりです。ご報告があります」
「ブレイカ嬢……?」
彼女は真っ赤な口紅を塗った口を開き、おぞましいことを平然と言葉にした。喜びや幸せといった感情よりも、裏にしまったはずの企みが隠しきれていない。身体が凍りつくほどの、青ざめて土に還るくらいの衝撃。彼女はお腹に手を当てて、身に覚えのない、そこにいる子に語りかけた。
「さぁ、挨拶して。やっとお父様に会えたわね」
「……は?」
やっと絞り出せた声は低すぎて、ブレイカは聞き取れなかった。何かにヒビが入ったと気付いたとき、もう既に遅かった。息が止まって、瞬きもできずに固まる。告げられた命があまりにも軽いもので、新たな悲劇を生むことを予感したから。
「ずっとお伝えしたくて待ちきれませんでした。私は、あなたとの子を身籠ったのです。今日は家族になるための素晴らしい儀式ですから、ようやく伝えられました」
……にも拘わらず、彼女は幸せそうに笑い、俺の腕を掴んで強く握った。女性とは思えない力と、近すぎる距離にすぐ振り払えない。
彼女は嘘をついているのか? 確かにお腹は膨らんでいるけど、本当はいなかったとしたら? 空のお腹を撫でて語りかける人なんて気持ち悪すぎる。では本当にいるとするなら、一体、だれの子……。
「……何をおっしゃっているのですか? それも私との子供? そんなわけありませんよね?」
やっと再開した呼吸で、「違う」と全力で否定した。けれどブレイカは首を横に振り、俺の手を自分のお腹に当てた。……動いている。お腹ではない少し硬いものに触れていた。
「紛れもなくセウェルス様とこの私ブレイカの子供ですわ。もうすぐ式が始まります。早く行きましょう」
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