血に塗れた氷の騎士

fireworks

文字の大きさ
45 / 51

44話 キスして

しおりを挟む
44話 キスして
 最初は輪郭がぼやけて見えた。徐々に女性が俺に近づき、人が来たのだとわかって目をこすった。ひとりの女性が、3人かもしれないと錯覚した。ひとりは婚約発表パーティーで踊った女性、もうひとりは騎士道と古語を教える見習い先生のフローリア・メレルズ、最後のひとりは人形「氷の騎士」の実体化。まったく違う顔と姿の3人が、同一人物のように思えた。目やにを取ってはっきり目にした途端、疑問が弾けて空に飛んでいった。
「フローリア!? なんでここに……!?」
 名前がはっきりしていたのはフローリア・メレルズだけ。咄嗟にその名前が出たわけだけど、アカデミーでの彼女とは別人だった。無表情で、身体のラインを強調させるドレスなんか着て、迫ってくる。身の危険を覚える恐怖に息を呑み、動けない。彼女はゆらりと歩いて、ベッドに膝立ちで座り、枕の両脇に手を置いた。身体を張って逃げ道をふさぐ。
「……して、どうしてあんな女と結婚したの?」
 彼女とは思えない鋭い口調と低い声。なぜそんなことを知っているのか、どこのだれなのか、そういった疑問はすぐに出てこなかった。彼女の左手を取って枕に沈め、目を合わせないよう反対側を向いた。鍛えられた左腕二の腕に、僅かなヒビが入り、月の光に照らされる。
「……俺だって聞きたいですよ」
 彼女は膝立ちをやめ、姿勢を低くして倒れ込む。両手の力で上半身を支え、下半身は俺の足に預けた。また逃げ道を塞がれ、手段が思い浮かばず狼狽える。俺が変なことを言ったから、彼女は怒ってさらに強い言葉を使うことになった。
「わかってるでしょう? あの人には別の人との子供がいるってこと。浮気は極刑に値する。今すぐ国に訴えて処罰を」
「あなたには関係ないです!」
「関係ある」
「どうして!?」
 激しく首を横に振って否定したけど、彼女はあっさりと答えた。彼女の怒りは沸騰して、どんどん距離が近づいてきている。足を動かそうとしても、彼女の足が絡まって動かせない。手を伸ばしても、掴まれて固定されてしまう。引きこもりの俺が、騎士道を極めた女性に勝てるはずがない。
「あなたをずっと見てきたから。生まれてからずっと、あなたがどんなことをして、つらい思いをしてきたのか、私は知っている。あの人は何も知らない。それどころかあなたを貶して、加害者にしようとしてる」
「なんでそれを知って……。ずっと監視していたのですか!?」
 ようやく「なぜ」を口にしたとき、衝撃のオンパレードで頭がパンクしていた。手足や口でも抵抗する力がなくなり、ようやく彼女は左手を離してくれた。
「監視なんかじゃないわ。私は――あなたがずっと大事にしていた『氷の騎士』だから」
「人形は……本当は本物の人間だったの?」
 核心に触れる事実をこぼすと、彼女は頷き、完全に身体を俺の身体に沈めて、頬に手を伸ばした。彼女の計画通り、ベッドに押し倒されたような格好になってしまった。胸を押し付け、足の動きも封じて、心理的に揺さぶって退路を立つ。
「そうよ。あなたが生まれる前から私は人形だった。あの日、あなたが私の腕を壊したとき――一時的に自由な身体を手に入れたの。でも今のままじゃ完全体を手に入れられない。氷を溶かしてくれる愛が必要だわ」
「……何を……」
「私を抱いて」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

【完結】時計台の約束

とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。 それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。 孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。 偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。 それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。 中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。 ※短編から長編に変更いたしました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます

しゃーりん
恋愛
ソランジュは婚約者のオーリオと結婚した。 オーリオには前から好きな人がいることをソランジュは知っていた。 だがその相手は王太子殿下の婚約者で今では王太子妃。 どんなに思っても結ばれることはない。 その恋心を王太子殿下に利用され、王太子妃にも利用されていることにオーリオは気づいていない。 妻であるソランジュとは最低限の会話だけ。無下にされることはないが好意的でもない。 そんな、いかにも政略結婚をした夫でも必要になったので返してもらうというお話です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...