心の面影

fireworks

文字の大きさ
28 / 54
1章 いびつなこころ

27話 縋る夜

しおりを挟む
27話 縋る夜
「……」
 集まりが終わると、通常の仕事に戻る。執務室で重要な書類に目を通した。サインして、判子を押して、修正しても、ノナのことが頭から離れない。集中できない。不要な紙に書き殴っても、ビリビリに破っても気持ちが晴れない。沸き上がる虚無感をぶつけられる場所がないから。ノナは悪くない。だれも悪者にしたくない。
 ようやく、ノナからの拒絶がなくなった。今日は一緒に眠る予定だ。そこでまた話をしよう。たとえ話せなくても、また、紙とペンで筆談できるかもしれない。淡い期待にかけて、必死に感情を抑え込んだ。
「奥様は1日中絵を描いて、疲れ切って眠りました」
 その日の夜、使用人からそう聞いた。医者と話し合って、治療薬の見直しもしたことだし……。良くなることを祈ろう。
「やっと終わった……」
 区切りをつけて無理矢理終わらせる。いくら片付けても、後回しにしても、一定の量がある。有能な執事にお願いしてもどうにもならない。諦めも大事だ……。
「ふぅ……」
 ノナは、夕方からこの部屋で眠っている。つい数日前まで自室に閉じこもっていたのに、急にここに来るとは思わなかった。ノナは特に嫌がることもなく、ぐっすり眠っている。2時間ほどここで仕事をしていたが、途中で起きることはなかった。
 ひとまず今日の仕事は執事に託し、ストレッチをしてベッドに座った。毛布と布団をめくり、中に入る。ぱち、と彼女の目が開く。あ、起きてしまった……。
「おはようございます」
 目が合った。この目は……暴力的な目だ。前髪に隠れているが、わずかに危険が漂う。同じベッドで眠ろうとしただけなのに、許可は出たのに、嫌な部分に触れてしまったかもしれない。
「……!」
 ぼこん! と枕を顔面にぶつけられる。わかっていたが、痛いものは痛い。ノナはそれを引っぺがし、床に放り投げる。そしたら、別の枕を握って振りかざしてきたから、慌てて枕で受け止める。
「落ち着いてください」
「!」
 腕を握りしめて動きを封じれば、殴られることはない。だがそんなことをしてどうする? 腕が折れたら? 戻らなかったら? 本当に使いたいときに動かなくなったら?
「ふぅ……ふぅ……」
 また枕を掴み、今度は背後に隠した。……タイミングを見計らっている。彼女の胸が激しく上下し、息遣いが乱れる。本気の目だ。
「……」
 枕でボコボコにされること30分。彼女の力が少しずつ弱くなり、息も落ち着いていく。すべての枕は床に落ち、マットレスだけになる。シーツも引きはがされ、ぐちゃぐちゃになってしまった。ようやく気持ちが落ち着いたのか、寒かったのか、私にすり寄ってきた。胸に顔を埋め、声も出なくて、泣きじゃくる。ひっかくわけでも、握りつぶすわけでもない。彼女の頭を撫で、背中に手を回して抱きしめた。
「大丈夫です。ひとりじゃないですよ。私はここにいます」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

わたしたちの庭

犬飼ハルノ
恋愛
『夜明けになるまで絶対に寝室の扉を開けないで』  未来の義母が告げたのは奇妙な夜の掟だった。  父に売られる形でブルーノ伯爵子息の婚約者になったフィリスの物語。  ヒロインのフィリスが自らの力と周囲の人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、しばらくは暗く重い展開です。  タグを途中から追加します。   他サイトでも公開中。

処理中です...