心の面影

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1章 いびつなこころ

30話 渦

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30話 渦
 ノナが「心の面影」に影響されて、心身を壊していることはよく知っている。ならば、適切な治療を施さなければいけない。彼女の問題を明らかにする。言葉で片付けるのは簡単だが、解決策が出てこない。まずは声を取り戻さないと。……どうやって? 心の問題を解消して?
 彼女に取りついた面影をどうやって追い払う? 調査しても原因がわからなかったというのに。このまま年月が経つだけ? もう、どうすればいいかなんて、わからない……。

 王国では、大臣の命を受けた家臣たちが業務に追われていた。国王陛下は、我が国の保有している資源が乏しいと決めつけ、さらに手に入れようと計画を立てた。簡単に言うと、「戦争」を始めようとしていたのだ。当然、街は混乱に包まれ、非人道的な政策に疑問を持つ国民も現れた。「心の面影」にかかってしまった人で実験していることもあり、不満の声が強くなるばかり。挙句の果て、一般の国民向けに「徴兵令」が発動された。
「戦争か。また大勢死ぬぞ」
「夫が死んだら、だれが子供たちを養うと思ってるの!」
「国王陛下は何を考えているのだ! 国民を見殺しにする気だぞ!」
「私たちの苦労も知らないで!」
「資源がないとか言ってるが、助け合いだろ!」
「他国を侵略したとて、うまくいくかどうか……」
「まあうまくいかないだろうな」
「うちも他の国を助けて、助けてもらっているのに、そのバランスを崩すとは」
「戦争なんて、起きるわけないよね?」
「さぁ……わからない。起きないことを祈ろう」
 
 今日のノナは大人しかった。特に攻撃されることもなく、同じベッドで眠っている。穏やかな寝息と表情は安心できるが、同時に不安も芽生えた。いつ起きるかわからないし、また殴られるかもしれない。静かすぎる夜は、かえって恐ろしかった。
 ベッドボードに寄りかかり、彼女の髪をすくった。月夜に照らされる髪。ミルクティーみたいな色。さらさらでなめらか。何度見ても、触れても、綺麗な人だ。彼女への気持ちは揺らいだことはなく、ほかに目移りしたこともない。離婚する理由も、殺してやると突き放す理由も、ない。どれだけ乱暴に扱われても、プロポーズと結婚したときに一生を誓ったから、約束を守り、責任を取る必要がある。
 もう一度、2年前の事件のことを思い出してみる。あのとき、何をしたのか、何が原因で心を病んでしまったのか。そこに答えがあれば、彼女の声と明るさを取り戻せるような気がした。付き合ったとき、結婚したときは希望に満ちあふれていたから。元からそんな人ではなかったはず。過去の記憶を掘り起こして、手を伸ばして、触れる。きっと、そこに解決策があると信じて。
 ノナと初めて会ったとき――今から14年前のこと。ひょっとしたら、我が子を失うよりも前のこと、がトリガーになっているのかもしれない。
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