ごめんね、足りなかったよね。

fireworks

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1章 壊れた心

2話 人形みたいだよね

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 次はメイクだ。メイクポーチを取り、ドレッサーの前で、アップの顔を見て椅子に座る。
『リップは赤よりピンクだよね』
『濃いより薄めだなぁ』
『これ、俺の好きなアクターが使ってるんだ。もちろん、ベイリーにも似合うよ』
『それはナンセンスだよね』
『アイラインは茶より黒だよね』
『肌荒れしないでよね? 醜いから』
 彼の「嫌い」にならないよう、注意して。ベースを仕上げて、上から下へと化けていく。
「行ってきます」
 家族が出掛けたあと、私はバス停まで歩くために家を出た。

 私はローレンティア・ノクティス、17歳の11年生。9年生から、バスで20分ほどかかるハイスクールに通っている。通学時間は約40分。歩く時間も、車内の中でも、欠かさずスマホとにらめっこしている。彼からのメッセージに返信をしないといけない。気持ちを込めて。脳内に言葉が浮かび、次々と文章になっていく。一瞬にしてつくread。そうしたら次のものを考えて、何が送られてくるのか待つ。窓の外には目もくれず、ほかのティーンが存在しないもののように思える。私には彼しかいない。彼しか見えない。彼以外のものはどうでもいい。 
 駅から10分離れたセレリス統合高等学院。9年生から12年生まで、全校生徒は500人ほど。9年生は特に成績に左右されず、10年生~12年生は文理クラスに分けられる。セルヴィア共和国の都市「ノヴァ・ヴェルト」北区にある国立統合教育機関。「忠誠・秩序・向上」を三本柱とする国家主導の教育モデル校だ。丘の上に校舎が立ち、全体が白と灰の石造り。周囲には、中央書庫、国家教育観察局北支部、聖ルシア修道院、市民向け生体検診センターがある。
 今は11年生の10月。少しずつ昼の時間が減って、夜の時間が増えるころ。朝夜と昼の寒さが際立ち、上着が必要だ。日差しがある分、日中は暖かい。長袖長ズボンを着れば満足に過ごせる。
 ハイスクールに着いた。他校とはいえ、彼も同じくらいの時間に登校しているはず。
 最後はいつも私。いつでもどこでも。readがつかないなんていつものこと。それでも構わない。放課後になれば、好きなだけ会って触れられるから。
 私は、9月から最終学年の12年生になる。
 将来のことはある程度考えている。
『ベイリーはどんな人にでも優しいから、医者になるのはどう?』
『頭もいいし。医学部に進学してみたら? 給料も高くて、やりがいがきっとあるよ』
 その言葉に押されて、医学部のある大学への進学を目指すことにした。必要な知識を身に付け、単位を修得する。今年度の試験はあと5回で、今のところ十分に基準を満たしている。両親や先生と面談し、大学進学への道筋を思い描いている途中。
 バスを降りてゲートをくぐり、並木道を歩いた。春になれば花が咲き乱れる。今は、茶色くなった葉は枯れ、風に舞って飛ばされるだろう。そして、だれにとっても厳しい冬が訪れる。
 教室の中に入っていった。席を探し、教科書やワークブックの入ったバッグを椅子の上に置く。念の為予習しておきたくて、ペンを取る。教室にはざっと10人。残りの15人は、次のバスや別の交通手段で着くだろう。
「……って気持ち悪いよね? 特に声と顔!」
「わかる~! 苛立つよね」
「自覚してないなんて信じられない!」
「まだ懲りずに来てるよ」
「ねえー。だれも友達なんていないのに」
「ひとりぼっちで可哀想~!」
 コートをかける棚の近くで、3人組の女子たちが話している。彼女たちの声はとても大きくて、聞きたくない声も耳に響いてしまう。彼女たちの格好の餌食はだれでもよくて、憂さ晴らしになればそれで十分だった。
「そんなことより、もっと気持ち悪い人がここにいるよ」
「そうそう! ラウだよね?」
「あの子、人形みたいだよね」
 ――私だ。
 思わず、首に手を当てて潰すように握った。
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