ごめんね、足りなかったよね。

fireworks

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3章 こんな私でも

155話 娘

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 ソファーを頭にぶつけられた。背もたれが突き刺った感じ。あまりの痛みに膝から崩れ落ちてしまい、床に倒れた。さすがに父も青ざめて、一歩後ろに下がる。……私は動けない。自傷よりもはるかに痛くて、息が詰まる。閉じ込められる。手を伸ばしても届かない。身体の動きが止まった。重力に負けて顔が傾くと、髪が流れて落ちてきた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 妹の大きな目が私を捉える。ついに一線を超えてしまった。やってしまったかもしれない。……妹の両手。ああ、またあの靄だ。私と同じ。どこから出てきたのか、妹の腕を伝い、肩を包み、全身を呑み込む。口を開けても言葉にならない。奇声さえも。身動き取れない。黒く、重く、淀む。
 だけど、妹は私と同じではなかった。取り巻く靄を蹴り、手でつかむ。風船のように弾けると、隙間ができた。……見える。あとは簡単だ。脆弱性を突く。抜け出せる穴はどこか。頭、手、足、どれか? ……見つけた。
「……!」
 見つけられた。
 黒い靄は、負の感情の塊。なら、がそれに勝てば抜け出せる。妹の心の奥底にある、強い強い怒り。着火剤。私が姉だという事実、散らばった紙という結果、棒立ちの父。妹はニヤリと歯を見せて笑った。
 私が動かなくなるほど、満足に痛めつけられた。
 にくい、にくい、にくい。
「ざまあみろ! そのまま一生目覚めなければいい! あはははははははははは!」
 妹は振り切った。乱暴にドアを開け、滑るように階段を下りる。靴も履かず、家を飛び出して走った。呆然とする父は、この世の終わりみたいな顔をしていた。父の頭の中にあることといえば、やはり、フラヴィアナの心配だった。私のことは、最初から眼中にない。
「ヴィア……」
 父の全身の力が抜けて崩れ落ちる。転がったソファーに当たるも、気にならない。靄は妹についていった。ドアは開けっ放しで、暖かい空気とともに出る。
 今日は前線のせいか、1日中雪が降っている。気温は氷点下。妹はルームウェア1枚を羽織り、防寒具や靴は身につけていない。こんな真っ暗闇、たったひとりで外に出るなんて危ない。だけど、閉じこもった母と力尽きた父は追いかけられなかった。
「……」
「……」
 秒針の音が響くほど、家の中は急に静かになった。

 21時になる前、ようやく父は動き始めた。疲れて眠る母をたたき起こし、警察にフラヴィアナの捜索届を出す。あの調子だと、家に帰ってこないことはわかりきっていたから、賢明な判断だった。そのあと、私を病院に連れて行った。次の日の仕事なんて頭から抜け落ち、2時ごろに家に着いた。
「♪」
 父の目が鋭く光る。その視線の先には、私の使っているスマホがあった。
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