ごめんね、足りなかったよね。

fireworks

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3章 こんな私でも

165話 待ち遠しい春

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 4月中旬になると、雪は降らなくなった。まだ少し肌寒いけど、厚いコートや首をしめつける防寒具はいらない。長袖と上着1枚で十分。スタッドレスタイヤからノーマルに替える時期。木々に緑が戻り、花が咲くと、赤やピンク色が映える。美しい季節。寒く長い冬が終わり、春が訪れる。
「完成!」
 無事に最後まで編めた。解れがないか確認し、早速膝にかけてみる。うん、問題なし。大きさを見て、それが入る紙袋を用意。丁寧に折りたたんで、袋の中に入れた。春らしい装飾を施そうかな。これを受け取ってくれる人の表情を予想して。
 バッグの中に入らなかったから、持っていくのはやめた。忘れないよう、目に見えるところに置く。

 今日もいつもと同じ時間に家を出て、バスに乗り、目を閉じる。早く仕上げたい気持ちが強いあまり、遅寝になってしまった。スマホを操作する気力もない。ぼうっとしていたら暑くなるから、少しでも早く完成させたかった。気持ちが強くなりすぎたかも。
 息を吐いて吸う。窓ガラスに寄りかかりすぎて、危うく横に倒れるところだった。危ない。
 スマホが振動する。だれかと思ったらオーレリアンからだった。ついで、もう1件メッセージが来る。『気持ち悪いから今日は家にいるね』。母からだった。父に怯えきった母は、私を会話相手とすることが多い。残念ながら、両親の仲が回復することは二度となかった。そして、妹が目覚める兆しもなかった。

 放課後はクラブ活動に没頭。今日はグラタンを作った。電子レンジを開けると、熱気とともにいいにおいが漂う。盛り付けをして、皆が席についた。
「いただきます!」
「美味しそう」
 エプロンを着たオーレリアンが前のめりになる。私はスプーンでマカロニと上のチーズをとった。
「できたよ!」
「いいね」
 先生の誘いがあって、オーレリアンも家庭科クラブに所属している。しかも、料理がとても上手! 先生も太鼓判を押すほどだ。
「いただきます!」
 顔を近づけ、私の持っていたスプーンからぱくり。
「吃驚した~。熱いよね?」
「……」
 出来立てホヤホヤなのに、オーレリアンはあっという間に食べた。グッドポーズでアピール。飲み込んだあと口を開く。
「美味しいよ。ティアの作る料理もっと食べたい」
「リアンのもちょうだい」
「どうぞ」
 オーレリアンがそばにいるから、何気ない日常が鮮やかになる。自然と笑える。自分自身や感情を偽る必要や、無理して演じることもない。
 私は私でいられる。
「ごちそうさまでした」
 後片付けをして、帰る準備をする。最終確認と先生の話を聞くと、電気が消された。ホールでローファーを履き、友人と分かれる。
「またね」
「うん、あしたね」
 左手に持っていた紙袋。この中に大事なものが――。
「何かあった?」
 ぼうっと考え事をしていたら距離ができていた。紙袋を両手で持ち、追いかける。バッグが落ちないよう、脇に挟んで。
「オーレリアン」
「なあに?」
 名前を呼ぶと笑ってくれる。言葉を用意していたはずなのに、あわあわと脳内で暴れている。向かい合うとさらに緊張して、まともに顔を見られなかった。
「その……今日は……」
「?」
「今までの感謝の気持ち、受け取ってください」
 勇気を振り絞って紙袋を渡した。恥ずかしくて太陽に溶ける雪みたい!? 中身はブランケットだけど、どんな反応をするのかな……?
「ありがとう……!」
 オーレリアンが両手を広げたから、胸に飛び込んだ。背中に腕を回してすり寄る。すると、目にかかっていた前髪が避けられ、思わず顔を上げた。
「ブランケットを作ったの。……どうかな?」
「本当にありがとう! 早速今から使うね!」
「今!? 早いね」
 さすがに冗談だったみたい。
「今日はどこに行く?」
「春服見たいからアパレルショップがいいな」
「OK」
 手をつないで歩く。オーレリアンは私の歩幅に合わせてくれた。弾む会話。絡む視線。あたたかい手。何気ない喜び。優しい感情。雪はもう降っていない。歩きやすい道。並木道につぼみがいくつも膨らんでいる。あと数日もあれば、きっと、ピンク色の絨毯が、コンクリートの上にふわりと落ちるだろう。鳥が鳴き、風はあたたかな季節を運ぶ。
 ああ、春が待ち遠しい。

 Fin
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