ごめんね、足りなかったよね。

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エピソード

Ep.7 ポンコツ

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Ep.7 ポンコツ
 何事もなかったかのように、彼は立ち上がる。顔面傷だらけで、腕や足からは血が出ていた。見るに堪えない痛々しい傷。さすがに放っておけなくて、ジャージを脱いで頭にかぶせた。
「これでも着れば?」
「ありがとうございます」
 モゴモゴ。ジャージをかぶった怪物がなんか言ってら。間抜けな様が面白くて笑みが溢れた。
「さっさと帰って病院行ったら? ま、どこもやってないと思うけど」
 夜遅くになると、どこの病院も閉まっている。せいぜい、バーやラウンジといった夜の店が開いているかどうか。まぁ、見た感じ命に危険がある傷ではないから、ポロッと死ぬことはないだろう。それにしても滑稽だ。ジャージなんか頭にかぶっているから?
「全くもってその通りです。帰りましょうか」
 彼はジャージを頭から外し、乱れた髪を整える。かき上げる仕草……たくましい胸板! これって見せかけの筋肉……? 人を殴るためのものじゃないの? こんなのお飾りで、やっぱり貧弱なの? わからないけれど、美形に変わりない。美形はなんでも華になる。そういうことか。
「これはお返しします。あなたが風邪を引いても困りますからね。ありがとうございました」
「え、あ、そう」
 あっさりとジャージが返され、瞬きを2回。そのまま、流れるように質問。
「お名前は?」
「私? ユリシア・ヴェントルだけど」
 考えなしに返してしまったけど、良かったのだろうか。もっとひねくれても良かったのかも。身体は強そうで、言葉遣いも丁寧だけど、抜けているところが多すぎる。悪い意味だとポンコツだ。
「私はアトラス・ラヴェノールです。ここで出会ったのも何かの縁です。よろしくお願いします」
「はぁ」
 握手を促され、とりあえず握る。それにしても、敬語が癇に障る。私よりも明らかに図体が大きくて、顔も大人に近いのに、ひよっこの私に礼儀正しい言葉遣い? 今まで、乱暴な口調と罵声ばかり聞いてきたから、感覚がおかしくなったのかも。
「ユリシア……。どこかで聞いたことがある名前ですね。うーん。思い出せません」
「そうですか……」
 うーんと唸っていた彼がぽんと閃く。
「あ! 煙草の人でしたか」
「アバウトすぎ……」
 どうやら、彼にとって私は「煙草の人」らしい。この年で1日中吸いまくっていたから、そう言われるのも当然か。なんか、もう少し……こう……恐ろしい逸話でも出されると思っていたのに。気迫が足りなかったかな?
「辞めることをおすすめしますよ。肺がボロボロになってしまいます」
「ふぅん」
 どうでもいいとため息をつく。そんな言葉何十回と聞いてきた。主に家族と先生。大人の言うことは、何も当てにならない。嘘っぱち。なんだ。結局この人もアイツラと同じなんだ。
「では」
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