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3話 隠したくて
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3話 隠したくて
「え?」
驚いて素っ頓狂な声が出てしまった。
何かあった? 止めようとしていたのに、何を言っているの?
「気が動転していたみたい」
今は、はぐらかしておかないと。
「先生と話す?」
「いいえ。必要ないわ」
「そう」
会話が始まってもすぐ終わる。
靴を履き替え、廊下を歩き、Sickbayの前まで来た。ほとんどの生徒は下校している。静まり返った廊下で、いつまでも横にいられては困る。
「もういいわ。ありがとう。帰る時間だし。遅くなると大変よ」
「一緒に帰ろうよ。方向同じでしょ?」
「……」
ティッシュを手の中で丸め、気にしないふりをしてドアを開ける。もうとっくに帰宅時間を過ぎているけど、Sickbayの先生は普通に仕事をしている。数年の付き合いがあるから、顔や名前を覚えられてしまって、この場にいることが恥ずかしい。しかも、フィディリスとかいう知らない人に見られるなんて。
「失礼いたします」
「はーい。あ、ルミナス! ……と、フィディリス? 何かあったのかしら?」
先生は20代で、年が近く明るい女性だ。頭ごなしに否定する人でない、ということはよく知っている。柔らかいストレート茶髪を下ろした、落ち着いた人。
「その……」
「彼女が怪我をしたので、治療してほしくて来ました」
「あ……。はい、そうです」
「うん。じゃ、ここに」
先生に促されて、丸椅子に座る。私は髪を下ろしているから多少は隠れていると思うけど、心まで見られそうで怖い。フィディリスは隣に立つのをやめ、来客用のソファに座っている。
「で、どうしたのかしら」
「……」
……言わなければいけないこと?
「……首です」
私が何か言う前に、フィディリスに先を越された。開きかけた口が徐々に閉じていく。先生は目をまん丸にして、飛び出そうなくらい大きくなった。
「首から血が出ています」
「えっと……首? わかったわ。……触るね」
先生は疑問に思いながら、髪をどけて傷を見る。把握したあと、うなずいて真剣な顔になった。ヘアゴムを取ってくるりと髪をまとめると、空気にさらされて冷たく感じた。
言い逃れ……できない。
血を拭き取って、深さを見て、消毒して、分厚いパッドが貼られる。きまりの悪い思いで、下唇を噛み、目が泳ぐ。先生は必要以上のことは問わず、治療を終えた。
「これでおしまい。ふたりともありがとうね」
「ありがとうございました」
耐え切れず、居づらくなって立ち上がる。頭を下げて出ようとしたところ、声をかけられて止まった。
「ルミナス」
「はい」
「あなたは悪くないからね。一生懸命なあなたを私は応援しているわ」
「……はい」
「こちらこそありがとうございました。では、帰ります」
フィディリスが締め、ふたりでSickbayを出ていった。
「え?」
驚いて素っ頓狂な声が出てしまった。
何かあった? 止めようとしていたのに、何を言っているの?
「気が動転していたみたい」
今は、はぐらかしておかないと。
「先生と話す?」
「いいえ。必要ないわ」
「そう」
会話が始まってもすぐ終わる。
靴を履き替え、廊下を歩き、Sickbayの前まで来た。ほとんどの生徒は下校している。静まり返った廊下で、いつまでも横にいられては困る。
「もういいわ。ありがとう。帰る時間だし。遅くなると大変よ」
「一緒に帰ろうよ。方向同じでしょ?」
「……」
ティッシュを手の中で丸め、気にしないふりをしてドアを開ける。もうとっくに帰宅時間を過ぎているけど、Sickbayの先生は普通に仕事をしている。数年の付き合いがあるから、顔や名前を覚えられてしまって、この場にいることが恥ずかしい。しかも、フィディリスとかいう知らない人に見られるなんて。
「失礼いたします」
「はーい。あ、ルミナス! ……と、フィディリス? 何かあったのかしら?」
先生は20代で、年が近く明るい女性だ。頭ごなしに否定する人でない、ということはよく知っている。柔らかいストレート茶髪を下ろした、落ち着いた人。
「その……」
「彼女が怪我をしたので、治療してほしくて来ました」
「あ……。はい、そうです」
「うん。じゃ、ここに」
先生に促されて、丸椅子に座る。私は髪を下ろしているから多少は隠れていると思うけど、心まで見られそうで怖い。フィディリスは隣に立つのをやめ、来客用のソファに座っている。
「で、どうしたのかしら」
「……」
……言わなければいけないこと?
「……首です」
私が何か言う前に、フィディリスに先を越された。開きかけた口が徐々に閉じていく。先生は目をまん丸にして、飛び出そうなくらい大きくなった。
「首から血が出ています」
「えっと……首? わかったわ。……触るね」
先生は疑問に思いながら、髪をどけて傷を見る。把握したあと、うなずいて真剣な顔になった。ヘアゴムを取ってくるりと髪をまとめると、空気にさらされて冷たく感じた。
言い逃れ……できない。
血を拭き取って、深さを見て、消毒して、分厚いパッドが貼られる。きまりの悪い思いで、下唇を噛み、目が泳ぐ。先生は必要以上のことは問わず、治療を終えた。
「これでおしまい。ふたりともありがとうね」
「ありがとうございました」
耐え切れず、居づらくなって立ち上がる。頭を下げて出ようとしたところ、声をかけられて止まった。
「ルミナス」
「はい」
「あなたは悪くないからね。一生懸命なあなたを私は応援しているわ」
「……はい」
「こちらこそありがとうございました。では、帰ります」
フィディリスが締め、ふたりでSickbayを出ていった。
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