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32話 置いていかないで
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32話 置いていかないで
家族や友人が多く、フードコートや飲食店は混み合っていた。押しつぶされそうになり、先を歩くフィディリスを見失う。フィディリスは私よりも背が高くて、全身真っ黒で目立っているけど、大勢の人にかき消されてしまう。目が泳ぐ。もう18なのに、キラキラしたものに目移りしたわけでもないのに、一緒に来たフィディリスすら見えなくなるなんて。
「やだ……」
そういえば、こんなこと、前にもあった気がする。
「置いてかないで……!」
13年前
場所は駅前のショッピングモール。弟が生まれるずっと前、幼い私は家族とお出かけに来ていた。私の好きなキャラクターのイベントがあり、同年代の子や、大人たちが大勢そこに集まった。私は、キャラクターのことばかり考えていて、車から降りたら、勝手にひとりで歩き始めた。早く会いたいという気持ちだけが先走って、周りのことなんて何も考えていなかった。それまで、いつも両親が私の前にいて、兄がその後ろで本を読んだりついてきたりしていた。何をするにも、両親に守られて、目に見えないフィルターが私を囲んでいた。その先にある景色を、私が一番に見たい――その一心で、前を歩いた。何が起こるかも知らず……。
何度も行ったことのあるショッピングモールのせいで浮かれていた。道はわかる。どこに何があるのか大体わかる。甘く見すぎた結果が、苦いということをこのとき知った。
同年代、同じくらいの背の子供たちが多かった。看板やチラシに大きく描かれたキャラクター。実際に会うには、中央広場に行けばいいとのこと。立体駐車場から中に入り、エスカレーター(エレベーターや階段)で1階に降りたらそこが広場だ。2階から5階にかけて吹き抜けで、季節ごとのアクティビティやオブジェクトが置かれる広場は、今日から3週間後まで、キャラクターに会えるブースへと変わる。さらに、専用のショップも設置されるらしい。楽しみ。動く階段を恐れながら、ひとりでエスカレーターに乗った。前の人が止まったからぶつかりそうになり、額や鼻が当たって痛かった。そして、顔を上げると人混みの中にいることにようやく気づいた。どこを見渡しても人ばかりで、看板やキャラクターは見えない。加えて、頼りになる両親もいないのだ。引き返そうにも、順路が設けられていて通り抜けできない。小さな身体であっても。上に行けるエスカレーターも人で埋まり、進入禁止の柵が設置されている。ぐるっと遠回りすれば乗れそうだけど、そんなことしたら、せっかくここに来た意味がない。
せめてキャラクターに会おうとして、前を向いて歩き始めた。必死に。探し続けた。何でもいい。ショップでも、グリーティングでも、ミニゲームでもいい。歩き続けた。隙間を通り抜けたり、くぐったりして。でもどこにもたどり着けなかった。挙句の果て、順路を破ってミニゲームの列に突っ込んでしまい、係の人から暴言を吐かれた。
「入ってくんじゃねえ! ガキが!」
「この子、ずっと前からうろちょろしてるのよ」
「うちの子が先に並んでたのに」
「どけ!」
私は泣いてしまい、両親の助けを求めて声を上げた。周囲の人たちが怪訝そうな顔で私を見たり舌打ちをしたり、蔑んだ視線を送ったりする。そんなのはどうでもよくて、ここに来るはずの両親を探した。……探し続けた。でも、係の人すら気にも留めず、両親や兄が来ることもなく、時間が過ぎていくだけ。次第に涙は涸れてしまい、床に座り込んでしまった。虚ろな意識の中、私は夢でも見ていたのかもしれない。そこでは、もふもふのキャラクターに抱きしめられ、写真を撮り、グッズを買ってゲームの景品を持って笑っている私がいた。
「えへへ!」
でも、そんなのはまやかしだ――。
……結局、イベントは人が多すぎて一時中止となり、すべての人が捌けた。そのときようやく私が見つけられ、迷子センターに連絡が行った。ようやく両親と再会したころ、私は完全に元気を失い動けなかった。両親の両手には大きなショッピングバッグ。娘が迷惑をかけたことを謝ることなく、私の頬をたたいた。係の人が言葉を失っている間に、もう一発殴られる。両親と兄が来るまで、3時間も経っていた。
「本当にお前は馬鹿だな」
「人混みに突っ込むからこうなるのよ」
「自業自得だ」
涙は止まらなかった。むしろ、あふれ続けた。
家族や友人が多く、フードコートや飲食店は混み合っていた。押しつぶされそうになり、先を歩くフィディリスを見失う。フィディリスは私よりも背が高くて、全身真っ黒で目立っているけど、大勢の人にかき消されてしまう。目が泳ぐ。もう18なのに、キラキラしたものに目移りしたわけでもないのに、一緒に来たフィディリスすら見えなくなるなんて。
「やだ……」
そういえば、こんなこと、前にもあった気がする。
「置いてかないで……!」
13年前
場所は駅前のショッピングモール。弟が生まれるずっと前、幼い私は家族とお出かけに来ていた。私の好きなキャラクターのイベントがあり、同年代の子や、大人たちが大勢そこに集まった。私は、キャラクターのことばかり考えていて、車から降りたら、勝手にひとりで歩き始めた。早く会いたいという気持ちだけが先走って、周りのことなんて何も考えていなかった。それまで、いつも両親が私の前にいて、兄がその後ろで本を読んだりついてきたりしていた。何をするにも、両親に守られて、目に見えないフィルターが私を囲んでいた。その先にある景色を、私が一番に見たい――その一心で、前を歩いた。何が起こるかも知らず……。
何度も行ったことのあるショッピングモールのせいで浮かれていた。道はわかる。どこに何があるのか大体わかる。甘く見すぎた結果が、苦いということをこのとき知った。
同年代、同じくらいの背の子供たちが多かった。看板やチラシに大きく描かれたキャラクター。実際に会うには、中央広場に行けばいいとのこと。立体駐車場から中に入り、エスカレーター(エレベーターや階段)で1階に降りたらそこが広場だ。2階から5階にかけて吹き抜けで、季節ごとのアクティビティやオブジェクトが置かれる広場は、今日から3週間後まで、キャラクターに会えるブースへと変わる。さらに、専用のショップも設置されるらしい。楽しみ。動く階段を恐れながら、ひとりでエスカレーターに乗った。前の人が止まったからぶつかりそうになり、額や鼻が当たって痛かった。そして、顔を上げると人混みの中にいることにようやく気づいた。どこを見渡しても人ばかりで、看板やキャラクターは見えない。加えて、頼りになる両親もいないのだ。引き返そうにも、順路が設けられていて通り抜けできない。小さな身体であっても。上に行けるエスカレーターも人で埋まり、進入禁止の柵が設置されている。ぐるっと遠回りすれば乗れそうだけど、そんなことしたら、せっかくここに来た意味がない。
せめてキャラクターに会おうとして、前を向いて歩き始めた。必死に。探し続けた。何でもいい。ショップでも、グリーティングでも、ミニゲームでもいい。歩き続けた。隙間を通り抜けたり、くぐったりして。でもどこにもたどり着けなかった。挙句の果て、順路を破ってミニゲームの列に突っ込んでしまい、係の人から暴言を吐かれた。
「入ってくんじゃねえ! ガキが!」
「この子、ずっと前からうろちょろしてるのよ」
「うちの子が先に並んでたのに」
「どけ!」
私は泣いてしまい、両親の助けを求めて声を上げた。周囲の人たちが怪訝そうな顔で私を見たり舌打ちをしたり、蔑んだ視線を送ったりする。そんなのはどうでもよくて、ここに来るはずの両親を探した。……探し続けた。でも、係の人すら気にも留めず、両親や兄が来ることもなく、時間が過ぎていくだけ。次第に涙は涸れてしまい、床に座り込んでしまった。虚ろな意識の中、私は夢でも見ていたのかもしれない。そこでは、もふもふのキャラクターに抱きしめられ、写真を撮り、グッズを買ってゲームの景品を持って笑っている私がいた。
「えへへ!」
でも、そんなのはまやかしだ――。
……結局、イベントは人が多すぎて一時中止となり、すべての人が捌けた。そのときようやく私が見つけられ、迷子センターに連絡が行った。ようやく両親と再会したころ、私は完全に元気を失い動けなかった。両親の両手には大きなショッピングバッグ。娘が迷惑をかけたことを謝ることなく、私の頬をたたいた。係の人が言葉を失っている間に、もう一発殴られる。両親と兄が来るまで、3時間も経っていた。
「本当にお前は馬鹿だな」
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涙は止まらなかった。むしろ、あふれ続けた。
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